真の敵は愛にあり

Emi 松原

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突然の来訪者

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「アマナ、またそんなに沢山の本を借りて。全部読むの、疲れないのかい?」
 放課後、図書室から借りた沢山の本を持ったアマナの車椅子を押しながら訪ねた。
「疲れる?とんでもない。楽しくてしょうがないわ。図書室の管理者さんがね、私は足が動かなくて不憫だからって、本来なら閲覧に許可がいる本まで貸してくれるの。私、足が動かないことを不憫だなんて思ったことはないけれど、本が読みたくて好意に甘えてるんだ」
 弾んだ声で、アマナが言った。
 そのまま帰るために、校庭を通る。
【ドカッ】
 突然、後ろから誰かに蹴り飛ばされた。
 アマナの車椅子に体が打ち付けられて、俺は倒れた。
「またあなたたちね!何するのよ!コルに謝りなさい!」
 アマナが強気な声を上げる。
 俺を蹴り飛ばしたのは、自分たちが一番強いチームだと公言していて、威張っている三人組だった。
「おっと、足が滑っちまった。でも、これくらいで倒れるほど弱いお前が悪いよな?」
 三人組が、意地の悪い笑みを浮かべて、俺を見る。
 俺は、争いが嫌いだ。勿論、アマナが争いに巻き込まれるなんてもってのほかだ。
「足が滑ったんなら、しょうがないな」
 俺は、三人を無視して、アマナの車椅子を押してその場を去ろうと思った。それなのに、アマナが叫ぶ。
「コル!わざとやられたのは分かっているでしょう!?どうして逃げるの!?」
 その言葉に、三人組は嬉しそうに、俺と、アマナの車椅子を蹴り飛ばした。
 また倒れる俺。アマナの車椅子も倒れて、アマナが投げ出される。本がバサバサと音を立てて、散らばった。
「アマナ!大丈夫か!?」
 アマナに駆け寄ろうとした俺を、一人が阻む。
「おい、コル。お前、騎士団志望書を出したらしいな」
「……」
「だったらなんだって言うのよ!」
 何も答えなかった俺の代わりのように、アマナが叫ぶ。
「今すぐ、取り消してこいよ」
「はぁ!?」
 三人組の言葉に、思わず俺も声が出た。
「騎士団に入れるのは、一部の限られた人間だけだ。志望者は少ない方が、俺たちが入れる確率が上がるだろう?」
 俺は絶句してしまったけれど、アマナが挑発するように笑った。
「あなたたち、自分の能力で入る自信がないの?いつも、自分たちは最強だって、叫んでまわってるじゃないの」
 アマナの言葉に、三人は顔を真っ赤にさせると、アマナを蹴ろうとした。
 俺は、反射的にアマナに被さった。蹴られる俺。
「足の動かないお前は、黙ってろよ!おい、コル。やり返してこいよ。騎士団志望の俺たちは、ライバルだろう?」
 挑発を繰り返しながら、蹴り続ける三人。
 でも、俺はやり返すつもりなんてない。だって、俺は、強さを誇示するために騎士団に入りたいんじゃないから。
「コル!私を庇わないで!あなたの力は本物よ!それは、私が一番よく知っているわ!」
 アマナが叫ぶ。だけれど、俺はこの気持ちを曲げたくない。それに、俺が一番守りたいのはアマナだ。だから、ここを動く気はない。勿論、騎士団への入団志望を取り消すなんてありえない。このまま、こいつらの気が済むまで待とうとした。
だけれど、アマナはそれが気にくわないようだ。挑発的に、三人に向かって声を張る。
「そういえば、この前のシューターの試験と、ヒーラーの試験、あなたたち、私より成績が悪かったんじゃなくって?足が動かない私よりも、あなたたちが強いと言うのなら、私も騎士団を志望してみようかしら」
「ア……アマナ、何を……」
 俺がアマナを止めようとするのと同時に、顔を真っ赤にさせた三人が、武器召喚の呪文を叫んだ。
 ここで武器を使うつもりか!?ばれたら、騎士団どころの騒ぎじゃないぞ!?
 三人が武器を振り上げる。俺は、アマナを抱きしめた。ごめん、アマナ。俺、こんなやつらでも、やり返したくない。
 俺は攻撃されることを覚悟して、目をつぶった。その時。
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