1 / 83
記憶
1-1
しおりを挟む「レッド王国の召喚魔方陣が空に現れたぞ!魔獣が来るぞ!逃げろ!」
響き渡った声を聞いて、俺はアマナの元へと走った。
木の車椅子に乗ったアマナをすぐにおぶって、走り出す。
空の上から、レッド王国からの魔獣がどんどん召喚される。
町が破壊され、人々の叫び声が聞こえる。
「おじさん!そっちは駄目だ!西の方に逃げよう!みんな、急いで!」
俺は、周りを見ながら叫んだ。
すると、目の前に、大きな魔獣が現れた。
破壊音と、叫び声。
「コル!私をおいて逃げて!」
背中で、アマナが叫んだ。
そんなこと、できるわけない。
アマナを、町のみんなを、守りたい。
「武器精製、召喚魔法!来い!」
俺の言葉と共に、青い魔方陣が空中に現れ、精製を行った武器が現れる。
俺は、片手で持てる魔法銃をつかんだ。
「武器精製、召喚魔法、来て!」
俺の背中で、アマナが叫んだ。
青い魔方陣から現れる、少し大きな魔法銃。それを俺の肩で固定する。
アマナは射撃が得意だ。
こんなに大きな魔獣、自分たちじゃ、どうしようもできないことは分かっていた。
だけれど、俺は、アマナを、みんなを守りたいんだ!!
アマナと一緒に、夢中で魔法銃を撃つ。
「騎士団は、まだ来ないのか!?」
「上流貴族の方にも、レッド王国の魔方陣が見えた!そっちで手が回らないんだろう!」
町の人の声が聞こえる。
攻撃を続ける俺たちに、魔獣が迫る。
「お願い!コル!私をおいて逃げて!」
「嫌だ!!」
もう駄目だ。そう思った。
その時。
深い青色の、腰まで長い髪の毛を頭の上で束ねていて、その髪が風でなびいている女の人が、大きなスピアを踊るように振り、一瞬で魔獣を倒した。
青いマント、大きいスカート。その服装と紋章で、すぐに誰だか分かった。
特別騎士団団長の、エミルさんだ。
俺はホッとすると、アマナを背負ったままその場に座り込んだ。
「遅くなって悪かったね!さぁ、いくよ!」
エミルさんの声と共に戦っているのは、特別騎士団のメンバー。騎士団よりも上の、この国で一番の、少人数で構成された騎士団だ。
そんな騎士団が、上流貴族ではなく、自分たちを助けにきてくれたのか……?
特別騎士団は、一気に魔獣を倒していった。
俺は、その鮮やかな動きに見とれていた。それと同時に、自分の無力さを感じて、悔しいのと、アマナが助かって嬉しいのとで、涙が溢れてきた。
レッド王国の召喚魔方陣が消えた。
座り込んで涙を流している俺に、エミルさんが近づいてきた。
この国の騎士団で一番偉い、特別騎士団団長だ。初めて間近で見た。
上で一つに束ねていても、腰まで長くて青く綺麗な髪の毛が揺れている。少しつり目で、怖い印象だ。
「コル!お辞儀!」
アマナにささやかれて、俺は慌ててアマナを支えながら、二人でお辞儀をした。
「あんたたち、後ろに沢山のものを背負う覚悟がある人間ね」
エミルさんに言われた。どういう意味だろう?
「特別騎士団庭園より召喚魔法、来い」
エミルさんは、召喚魔法を唱えて、青い魔方陣からでてきた紫色の花を手に持つと、俺とアマナに渡した。
「ありがとうございます」
アマナが受け取りながら、頭を下げた。
慌てて俺も頭を下げる。
エミルさんは、そのままニヤリと笑うと、俺たちの前から消えた。
「この花は……?」
俺は、エミルさんに貰った花を見つめた。
「ブロワリア、花言葉は、《あなたは魅力に富んでいる》よ。特別騎士団団長のエミルさんは、花言葉や石言葉で自分の気持ちを伝えることがあると、本で読んだことがあるわ」
知識が豊富のアマナが言った。
「……どういうことなんだろう……」
俺は、アマナを支えながら、花を見つめた。
そして、自分の不甲斐なさに腹が立つと同時に、エミルさんの戦いを思い出していた。
俺も、あんな風に戦えるようになりたい。そう思った。
「コル……ずっと一緒にいてくれて、ありがとう。本当に、あなたは魅力的だったわ」
アマナが俺の手を握りながら言った。
「アマナ……俺、何もできなかった。みんなを……アマナを守れなかった……アマナ、俺、こんな戦いもう嫌だ……だけど、戦いがまだ続くのなら、俺……」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる