真の敵は愛にあり

Emi 松原

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「レッド王国の召喚魔方陣が空に現れたぞ!魔獣が来るぞ!逃げろ!」
 響き渡った声を聞いて、俺はアマナの元へと走った。
 木の車椅子に乗ったアマナをすぐにおぶって、走り出す。
 空の上から、レッド王国からの魔獣がどんどん召喚される。
 町が破壊され、人々の叫び声が聞こえる。
「おじさん!そっちは駄目だ!西の方に逃げよう!みんな、急いで!」
 俺は、周りを見ながら叫んだ。
 すると、目の前に、大きな魔獣が現れた。
 破壊音と、叫び声。
「コル!私をおいて逃げて!」
 背中で、アマナが叫んだ。
 そんなこと、できるわけない。
 アマナを、町のみんなを、守りたい。
「武器精製、召喚魔法!来い!」
 俺の言葉と共に、青い魔方陣が空中に現れ、精製を行った武器が現れる。
 俺は、片手で持てる魔法銃をつかんだ。
「武器精製、召喚魔法、来て!」
 俺の背中で、アマナが叫んだ。
 青い魔方陣から現れる、少し大きな魔法銃。それを俺の肩で固定する。
 アマナは射撃が得意だ。
 こんなに大きな魔獣、自分たちじゃ、どうしようもできないことは分かっていた。
 だけれど、俺は、アマナを、みんなを守りたいんだ!!
 アマナと一緒に、夢中で魔法銃を撃つ。
「騎士団は、まだ来ないのか!?」
「上流貴族の方にも、レッド王国の魔方陣が見えた!そっちで手が回らないんだろう!」
 町の人の声が聞こえる。
 攻撃を続ける俺たちに、魔獣が迫る。
「お願い!コル!私をおいて逃げて!」
「嫌だ!!」
 もう駄目だ。そう思った。
 その時。
 深い青色の、腰まで長い髪の毛を頭の上で束ねていて、その髪が風でなびいている女の人が、大きなスピアを踊るように振り、一瞬で魔獣を倒した。
 青いマント、大きいスカート。その服装と紋章で、すぐに誰だか分かった。
 特別騎士団団長の、エミルさんだ。
 俺はホッとすると、アマナを背負ったままその場に座り込んだ。
「遅くなって悪かったね!さぁ、いくよ!」
 エミルさんの声と共に戦っているのは、特別騎士団のメンバー。騎士団よりも上の、この国で一番の、少人数で構成された騎士団だ。
 そんな騎士団が、上流貴族ではなく、自分たちを助けにきてくれたのか……?
 特別騎士団は、一気に魔獣を倒していった。
 俺は、その鮮やかな動きに見とれていた。それと同時に、自分の無力さを感じて、悔しいのと、アマナが助かって嬉しいのとで、涙が溢れてきた。
 レッド王国の召喚魔方陣が消えた。
 座り込んで涙を流している俺に、エミルさんが近づいてきた。
 この国の騎士団で一番偉い、特別騎士団団長だ。初めて間近で見た。
 上で一つに束ねていても、腰まで長くて青く綺麗な髪の毛が揺れている。少しつり目で、怖い印象だ。
「コル!お辞儀!」
 アマナにささやかれて、俺は慌ててアマナを支えながら、二人でお辞儀をした。
「あんたたち、後ろに沢山のものを背負う覚悟がある人間ね」
 エミルさんに言われた。どういう意味だろう?
「特別騎士団庭園より召喚魔法、来い」
 エミルさんは、召喚魔法を唱えて、青い魔方陣からでてきた紫色の花を手に持つと、俺とアマナに渡した。
「ありがとうございます」
 アマナが受け取りながら、頭を下げた。
 慌てて俺も頭を下げる。
 エミルさんは、そのままニヤリと笑うと、俺たちの前から消えた。
「この花は……?」
 俺は、エミルさんに貰った花を見つめた。
「ブロワリア、花言葉は、《あなたは魅力に富んでいる》よ。特別騎士団団長のエミルさんは、花言葉や石言葉で自分の気持ちを伝えることがあると、本で読んだことがあるわ」
 知識が豊富のアマナが言った。
「……どういうことなんだろう……」
 俺は、アマナを支えながら、花を見つめた。
 そして、自分の不甲斐なさに腹が立つと同時に、エミルさんの戦いを思い出していた。
 俺も、あんな風に戦えるようになりたい。そう思った。
「コル……ずっと一緒にいてくれて、ありがとう。本当に、あなたは魅力的だったわ」
 アマナが俺の手を握りながら言った。
「アマナ……俺、何もできなかった。みんなを……アマナを守れなかった……アマナ、俺、こんな戦いもう嫌だ……だけど、戦いがまだ続くのなら、俺……」

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