この世界で生きていく

Emi 松原

文字の大きさ
上 下
36 / 83
自分にできること

1-1

しおりを挟む


自分にできること



「今日は、知らないうちに、寝てしまっていたなぁ。チィが、何も言わなかったから、つい。ルカは、どうだった?」
 寝る準備を終えて、ルカに聞くと、ルカが、笑顔で、こっちを向いた。
「あのね、今日は、魔法の基礎を教えてもらったの。エミリィさんってね、怖そうに見えるし、言葉も少ないけれど、とても分かりやすくて、的確に、教えてくれるのよ。それにね、私が、本を好きだと言ったら、魔法についてや、薬草についての本を、貸してくれたの! 図書館の場所も、教えてもらったわ!」
 ルカの弾んだ声に、僕は、笑顔で、頷いた。
「魔法の、基礎ができたら、ブルーローズのギルドで、十分やっていけると、言ってもらえたわ。薬草の知識があったら、薬草を扱う、依頼もできるって」
「えっ……? ルカ、ギルドに入って、依頼を受けるのかい?」
 驚いて聞いた僕に、ルカは、少し困ったように、微笑む。
「選択肢に、入れただけよ。選択肢は、多い方が、良いと思ったから」
「選択肢?」
「そう。……ギア王国に、戻らないという、選択肢」
「戻らない……?」
「あくまで、選択肢よ」
  ルカの言葉に、何も言えないでいると、ルカが、不思議そうに、チィを見た。
「絶対に、チィちゃんが、何か言うと思ったのに。そういえば、さっき、ロキが、チィちゃんの名前を呼んだときにも、何も反応しなかったわね。……今まで、そんなことなかったのに」
「言われてみれば、いつもは、昼に寝てしまいそうになったら、必ず起こすのに。どうしたんだろう。チィ? どうしたの?」
 僕とルカは、顔を見合わせて、首をかしげる。
「すみません。メインコントロールから、干渉があって、そちらの方に、処理を集中させていました。ロキの昼寝については、あのくらいならば、この国での生活に、支障はないと判断しました」
 チィが、いつものように喋って、少し安心した。
 電気を消して、目を閉じた後も、僕はずっと、ルカの言葉が、繰り返し、頭に浮かんでいた。
 ギア王国に、戻らない選択肢……か。
 ルカは、元々、図書館で働きたいと言っていた。だけれど、それは、必要ないとも言われていた。
 ギルドの依頼ができるのであれば、とりあえず、この国で、生活するのには、困らないだろう。それに、ルカは、精霊族とのハーフだから、この国で生活していても、おかしくない。
 ……僕は?
 僕は、ギア王国に戻ったら、どうなるのだろう。適正と言われていた、研究職に、つくことになるのだろうか。それとも、ここに来たことで、別の選択肢が、生まれたのだろうか。
「ロキ、眠れないのですか。何か、考えごとをしているようですが、昼寝が影響している訳ではないですね」
「チィ……。僕は、ギア王国に戻ったら、どうなるんだい?」
「どうもなりませんよ。国からの指示に、従うだけですから。ここに来る前と、何も変わりません」
「そっか……」
 何も変わらない。朝起きて、チィが、管理してくれている、スケジュールをこなして、寝る。その生活に、不満なんて持ったことないし、辛かったことだってない。
 それなのに、僕は、何故、別の選択肢なんて、考えたのだろう。何故だろう……。
 そんなことを考えているうちに、気がついたら、眠りについていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...