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貧天が嫌うもの
「あの、そろそろ、起きた方が……」
翼は、その声にビクッと体を震わせて、目を覚ました。木の根元で眠ってしまった自分に驚きながら、周囲を確認する。辺りは暗くなっていて、ピンクのメウや他大勢のメウが、翼の周りで眠っていた。そして目の前の憲和神社の後ろで、貧天が座ってこちらを見ていた。
「うわっ……近づかないでくださいねっ……!! 翼さん、ますますお金持ちになって、気持ち悪いですからっ……!!」
貧天はそう言いながら、翼に動くなというように手でジェスチャーをする。翼は貧天の言葉が気になりながらも、時計を確認した。どうやら三十分ほど眠っていたようだ。メウたちのお陰なのか、体が一気に軽くなっている。ただ、座っていた部分は痛かった。
「憲和のおじさんは、今日は玉沖様と和幸のところから戻ってこないと思いますから……さっさと帰ってください……近くにいられると、気持ち悪くて……」
貧天が量販店すら嫌う貧乏神だということは知っているが、翼は、前よりも貧天が自分を嫌うようになったと感じていた。神の特性だと教えられてはいたが、嫌われるのはやはり悲しい。それと同時に、貧天の言葉に違和感を覚える。ますますお金持ちに。それは一体どういうことなのか。
翼は清一からアルバイト代を貰っているが、半分は母親に渡している。母親はいらないと言ったが、一人暮らしをして、生活をするのにどれだけお金がかかって大変か、翼はしっかりと学んでいた。残りの半分はなるべく貯めているが、交通費や、最近は交際費でも使っている。決してお金持ちとは言えないと思うのだ。そんな翼の心が、顔に出ていたのだろうか。それとも神は気持ちが分かるのだろうか。貧天が、翼をじっと見た。
「あの……もしかして、やっぱり翼さんも、ヒトは、お金が沢山あることがお金持ちだって思ってます……?」
「えっ、はい。お金持ちって、そういう意味ですよね……?」
貧天の言葉に、翼は思ったままを返す。するといつも表情のあまり変わらない貧天の顔が、ムスッとした顔になった。
「まぁ、ヒトは物質的な価値観が主ですから、皆そう思ってると思うんですけれど……。僕が翼さんを最近前より嫌いになったのは……貧乏神の価値観で、お金持ちに近づいてきたからですよ……」
「えっと、それはどういう……」
嫌いとハッキリ言われて、翼はショックでもあったが、貧天が貧乏神としてそう思っていることも伝わってきていたし、何より貧天は普段周りと多く話をしない。そんな貧天が感情を見せ、話をしようとしてくれていることが、翼は何故か嬉しく感じていた。
「僕、最近、お気に入りの家があるんです……。最近はそこに泊まっていることも多いんですけど……。その家、ヒトの言葉で言うと、高級マンションの最上階ですよ……」
「えっ? そういうところって、まさにお金持ちの人が住む場所ですよね……?」
「ですね……。でも、もうすぐあの家は破産します……あぁ、うっとりしますね……」
ムスッとした顔から一転して、貧天はとても嬉しそうな、とろけるような、ニコニコした顔になる。だが、そんな姿に、翼は寒気を覚えていた。貧天も、やはり神なのだと。
「それは、貧天さんが気に入ったから、破産するってやつですか……?」
好奇心もあり、恐る恐る聞いた翼に、貧天は首をかしげた。
「んー……。ヒトって、その辺勘違いしてますよね……。僕がいるから、破産に向かうんじゃないですよ。破産するような、いわゆるヒトの価値観で貧乏になりそうな場所を、僕は好むだけですから……」
貧天の言葉に、翼は何も答えない。正確には、答えられなかった。仕事が上手くいっていない人などを好むということだろうか?
「あの、やっぱりヒトの価値観で考えてます……? 僕たち貧乏神が一番嫌うのは、心が豊かなヒトですよ……? そうですね……最近僕がこの辺で一番嫌いなのは、築年数が古くて、六畳一間のアパートに一人で住んでいるヒトです……。ちなみにそのヒトの預金額は、十万円もありません……」
その人を思い出したのだろうか、貧天が顔をしかめた。翼は、そんな貧天を見て、どういうことか分からずに混乱する。何故なら、翼は、アルバイトでその人より預金額を貯めていたからだ。勿論、親から援助を受けていたからこそできたことではあるのだが。
「その人、毎日綺麗に掃除をして……部屋には自分の好きなものを置いて……仕事を楽しんでいるんですよ……節約だと言いながら、自炊を楽しんでいたり……何より、毎日感謝の心を忘れていない……あぁ、思い出しただけで、気持ち悪い……」
「あの、その人がお金が少なくても楽しく過ごしていることは分かったんですが……高級マンションの人は、お金がある分、もっと好きなことが出来るんじゃ……」
「そこが、心の豊かさの差です……」
貧天の言葉に、翼は何も答えずに、貧天を見つめた。貧天は、何かを諦めたようにため息をつく。
「その目……本当に嫌いです……お金持ちまっしぐらな目で……。でも、ここまで話しちゃいましたし……。高級マンションの方の人は、部屋は綺麗です。家事代行がありますからね。事業も好調です。でも……心は、とても貧しいんです……」
貧天がまた嬉しそうに、うっとりとした顔をする。
「お金を使って……物を得て……他にも得て……それでも、満足しないんです……。ここからが分かれ道になるんですが……この満足できない、という中身が、もっと世の為、人の為、そして自分の為に何かできるのではないか、という意味だと、僕の大嫌いなタイプ、いわゆるお金持ちになります……。ですが、欲望で満足を求めると、僕の大好きなタイプになります……。自分が贅沢する為のお金が欲しい、その為なら他人なんてどうなっても構わない、平気で人を陥れたり、貶めたりする……。負の言霊を口から沢山出し、感謝の心をなくしていく……あぁ、最高ですね」
貧天の口から涎が垂れそうになっているのは気のせいだろうか。翼は、その辺は見ない振りをする。
「要は、心のあり方なんですよ……。その結果、僕に好かれれば、ヒトの価値観としては悪いほうに転がっていきますし、僕に嫌われたら……そうですね、僕が嫌いなものは、和幸が好きですから……福の神がついて、結果、ヒトの価値観としても豊かになっていきますよ……」
「心の、あり方……」
「はい。そもそもなんですが……。僕と和幸って、表裏一体の神なんですよ……。多分、ヒトの世界でも語られていると思いますよ……? 貧乏神は、福の神になるとか、福の神が出て行くと、貧乏神が来るとか……」
「あっ、家の財産の神様が出て行ってしまうと、貧乏神が代わりに住むという感じのことなら、本で読みました」
翼の言葉に、貧天がうんうんと頷く。
「もう少し分かりやすく言うと……全く同じ条件の住居、仕事、家庭環境のヒトがいたとします……」
貧天の言葉に、今度は翼がうんうんと頷いて答えた。
「一人は、常に文句を言います……。こんな家、こんな仕事、こんな環境……と。そしてそれを周りのせいにしたり、自分だけが楽に得をしようとずる賢いこともします……。勿論、ずる賢いことばかりして、自分で何かを変えようとは動きません……。さらに、自分より下に見ているヒトを馬鹿にしたりもします……。僕は、こういうヒトが大好きなので、こういうヒトの側に行きます。心が貧しいと、僕に好かれるんです。それから時間に差はありますが……僕が長く側にいると、結果、ヒトの価値観でいう、貧乏。その人は破産します」
「は、はい……」
「一方もう一人は、住んでいる家に満足するどころか、感謝をします……。ここは安いのに静かで良い、とか、この広さがあれば十分だと……。さらに、仕事に対しても感謝し、自分から動きます……。そう考えるヒトの多くは、ヒトの助けになるよう無意識に動いていたり、もっと多くのことができるように、積極的に勉強もします……。ありがとうと常に言い、自らが動いて周りを変えていきます……。僕はそういうヒトが大嫌いなので……絶対に近づきません。僕が嫌いということは、和幸は好きなんです。結果、そのヒトはヒトの価値観で言う、お金持ちになっていくんですよ……」
「なんとなく、分かりました……でも、僕は……」
翼の言いかけた言葉を、貧天が手で遮る。もうこれ以上は話したくない、という意思表示だ。
「僕は、貧乏神として、最初から翼さんが嫌いですよ……。でも、最近の翼さんはさらに嫌いになりました……その意味は、そういうことです……」
そう言って貧天は、憲和神の社に入ろうとする。だが、何かを思い出したように、振り返った。
「あっ……憲和のおじさんは、ヒトの意味とは全く違いますからね……? 憲和のおじさんは、他の神と比べて多くの欲があります……。特に憲和のおじさんは、ここに住むヒトが好きだから、肩入れもします……。その欲は、ヒトから見たら良いもの。神から見たら、好かれないものなんですよ……。それを分かっていて、それを貫く憲和のおじさんは、神としては決して地位向上や、いわゆるお金持ちにはなりませんから……」
クスッと笑うと、貧天は憲和神の社に入っていく。残された翼は、しばらくそこに座って、貧天の言葉について考えていたのだった。
※※※
「憲和のお陰で、広仁の周りにいる神は、一旦話し合いの場に出ることとなった。これは大きな変化じゃ。だが……」
「はい。玉沖様。モバ様の領域の山を、あのヒトらは穢しました。モバ様にとっては一部ですし、今は具現化もされているので、影響も少ないようなのですが……。今まで静観していた、いえ、興味も持っていなかった自然神の怒りをヒトは買いました。清一くんも何も言っていませんが、きっとお怒りだと……」
玉沖神の側で頭を下げて報告している田中。玉沖神は、深くため息をついた。
「自然神については、我らは手を出せぬ。我らがこの地に降りるより、遙か昔から、ここにいる神々じゃ。田中、自然神の現在の怒りはどれほどのものじゃ?」
「そうですね……。穢した者に、少しバチが当たる、レベルです。なので、玉沖様が気にするほどでもないと思ったのですが……」
「この先、もしヒトがこれ以上モバ殿の山を穢すようなら、また変わると」
「その通りでございます」
田中の言葉に、玉沖神はまた深くため息をつく。
「山崎や木村、そして私も……モバ様の山に、古くから住まう自然神でございます。ヒトがモバ様の山を穢すのならば、黙っていることはできません。例えモバ様が、それを望まなくとも……。それに、清一くんも……」
「分かっておる。その面でも、今回憲和は本当に良い立ち回りをしてくれた。あやつの欲に助けられたな」
「憲和様のお加減は? 憲和様、ヒトを大きな病気にさせるのは、数百年ぶりでしょう」
田中の言葉に、玉沖神は苦笑する。
「元々の力じゃからな。むしろ疫病神としての力は、回復しておる。問題は心じゃ」
「ヒトを病気にさせることを嫌う疫病神。ヒトと自然を愛する疫病神。正統派の神である玉沖様の伴侶となった疫病神。憲和様のお噂は、いつでも絶えませんね」
顔を上げて、楽しそうに、少しからかうように笑う田中から顔をそらしながらも、玉沖神のその顔は、微笑んでいたのであった。
「あの、そろそろ、起きた方が……」
翼は、その声にビクッと体を震わせて、目を覚ました。木の根元で眠ってしまった自分に驚きながら、周囲を確認する。辺りは暗くなっていて、ピンクのメウや他大勢のメウが、翼の周りで眠っていた。そして目の前の憲和神社の後ろで、貧天が座ってこちらを見ていた。
「うわっ……近づかないでくださいねっ……!! 翼さん、ますますお金持ちになって、気持ち悪いですからっ……!!」
貧天はそう言いながら、翼に動くなというように手でジェスチャーをする。翼は貧天の言葉が気になりながらも、時計を確認した。どうやら三十分ほど眠っていたようだ。メウたちのお陰なのか、体が一気に軽くなっている。ただ、座っていた部分は痛かった。
「憲和のおじさんは、今日は玉沖様と和幸のところから戻ってこないと思いますから……さっさと帰ってください……近くにいられると、気持ち悪くて……」
貧天が量販店すら嫌う貧乏神だということは知っているが、翼は、前よりも貧天が自分を嫌うようになったと感じていた。神の特性だと教えられてはいたが、嫌われるのはやはり悲しい。それと同時に、貧天の言葉に違和感を覚える。ますますお金持ちに。それは一体どういうことなのか。
翼は清一からアルバイト代を貰っているが、半分は母親に渡している。母親はいらないと言ったが、一人暮らしをして、生活をするのにどれだけお金がかかって大変か、翼はしっかりと学んでいた。残りの半分はなるべく貯めているが、交通費や、最近は交際費でも使っている。決してお金持ちとは言えないと思うのだ。そんな翼の心が、顔に出ていたのだろうか。それとも神は気持ちが分かるのだろうか。貧天が、翼をじっと見た。
「あの……もしかして、やっぱり翼さんも、ヒトは、お金が沢山あることがお金持ちだって思ってます……?」
「えっ、はい。お金持ちって、そういう意味ですよね……?」
貧天の言葉に、翼は思ったままを返す。するといつも表情のあまり変わらない貧天の顔が、ムスッとした顔になった。
「まぁ、ヒトは物質的な価値観が主ですから、皆そう思ってると思うんですけれど……。僕が翼さんを最近前より嫌いになったのは……貧乏神の価値観で、お金持ちに近づいてきたからですよ……」
「えっと、それはどういう……」
嫌いとハッキリ言われて、翼はショックでもあったが、貧天が貧乏神としてそう思っていることも伝わってきていたし、何より貧天は普段周りと多く話をしない。そんな貧天が感情を見せ、話をしようとしてくれていることが、翼は何故か嬉しく感じていた。
「僕、最近、お気に入りの家があるんです……。最近はそこに泊まっていることも多いんですけど……。その家、ヒトの言葉で言うと、高級マンションの最上階ですよ……」
「えっ? そういうところって、まさにお金持ちの人が住む場所ですよね……?」
「ですね……。でも、もうすぐあの家は破産します……あぁ、うっとりしますね……」
ムスッとした顔から一転して、貧天はとても嬉しそうな、とろけるような、ニコニコした顔になる。だが、そんな姿に、翼は寒気を覚えていた。貧天も、やはり神なのだと。
「それは、貧天さんが気に入ったから、破産するってやつですか……?」
好奇心もあり、恐る恐る聞いた翼に、貧天は首をかしげた。
「んー……。ヒトって、その辺勘違いしてますよね……。僕がいるから、破産に向かうんじゃないですよ。破産するような、いわゆるヒトの価値観で貧乏になりそうな場所を、僕は好むだけですから……」
貧天の言葉に、翼は何も答えない。正確には、答えられなかった。仕事が上手くいっていない人などを好むということだろうか?
「あの、やっぱりヒトの価値観で考えてます……? 僕たち貧乏神が一番嫌うのは、心が豊かなヒトですよ……? そうですね……最近僕がこの辺で一番嫌いなのは、築年数が古くて、六畳一間のアパートに一人で住んでいるヒトです……。ちなみにそのヒトの預金額は、十万円もありません……」
その人を思い出したのだろうか、貧天が顔をしかめた。翼は、そんな貧天を見て、どういうことか分からずに混乱する。何故なら、翼は、アルバイトでその人より預金額を貯めていたからだ。勿論、親から援助を受けていたからこそできたことではあるのだが。
「その人、毎日綺麗に掃除をして……部屋には自分の好きなものを置いて……仕事を楽しんでいるんですよ……節約だと言いながら、自炊を楽しんでいたり……何より、毎日感謝の心を忘れていない……あぁ、思い出しただけで、気持ち悪い……」
「あの、その人がお金が少なくても楽しく過ごしていることは分かったんですが……高級マンションの人は、お金がある分、もっと好きなことが出来るんじゃ……」
「そこが、心の豊かさの差です……」
貧天の言葉に、翼は何も答えずに、貧天を見つめた。貧天は、何かを諦めたようにため息をつく。
「その目……本当に嫌いです……お金持ちまっしぐらな目で……。でも、ここまで話しちゃいましたし……。高級マンションの方の人は、部屋は綺麗です。家事代行がありますからね。事業も好調です。でも……心は、とても貧しいんです……」
貧天がまた嬉しそうに、うっとりとした顔をする。
「お金を使って……物を得て……他にも得て……それでも、満足しないんです……。ここからが分かれ道になるんですが……この満足できない、という中身が、もっと世の為、人の為、そして自分の為に何かできるのではないか、という意味だと、僕の大嫌いなタイプ、いわゆるお金持ちになります……。ですが、欲望で満足を求めると、僕の大好きなタイプになります……。自分が贅沢する為のお金が欲しい、その為なら他人なんてどうなっても構わない、平気で人を陥れたり、貶めたりする……。負の言霊を口から沢山出し、感謝の心をなくしていく……あぁ、最高ですね」
貧天の口から涎が垂れそうになっているのは気のせいだろうか。翼は、その辺は見ない振りをする。
「要は、心のあり方なんですよ……。その結果、僕に好かれれば、ヒトの価値観としては悪いほうに転がっていきますし、僕に嫌われたら……そうですね、僕が嫌いなものは、和幸が好きですから……福の神がついて、結果、ヒトの価値観としても豊かになっていきますよ……」
「心の、あり方……」
「はい。そもそもなんですが……。僕と和幸って、表裏一体の神なんですよ……。多分、ヒトの世界でも語られていると思いますよ……? 貧乏神は、福の神になるとか、福の神が出て行くと、貧乏神が来るとか……」
「あっ、家の財産の神様が出て行ってしまうと、貧乏神が代わりに住むという感じのことなら、本で読みました」
翼の言葉に、貧天がうんうんと頷く。
「もう少し分かりやすく言うと……全く同じ条件の住居、仕事、家庭環境のヒトがいたとします……」
貧天の言葉に、今度は翼がうんうんと頷いて答えた。
「一人は、常に文句を言います……。こんな家、こんな仕事、こんな環境……と。そしてそれを周りのせいにしたり、自分だけが楽に得をしようとずる賢いこともします……。勿論、ずる賢いことばかりして、自分で何かを変えようとは動きません……。さらに、自分より下に見ているヒトを馬鹿にしたりもします……。僕は、こういうヒトが大好きなので、こういうヒトの側に行きます。心が貧しいと、僕に好かれるんです。それから時間に差はありますが……僕が長く側にいると、結果、ヒトの価値観でいう、貧乏。その人は破産します」
「は、はい……」
「一方もう一人は、住んでいる家に満足するどころか、感謝をします……。ここは安いのに静かで良い、とか、この広さがあれば十分だと……。さらに、仕事に対しても感謝し、自分から動きます……。そう考えるヒトの多くは、ヒトの助けになるよう無意識に動いていたり、もっと多くのことができるように、積極的に勉強もします……。ありがとうと常に言い、自らが動いて周りを変えていきます……。僕はそういうヒトが大嫌いなので……絶対に近づきません。僕が嫌いということは、和幸は好きなんです。結果、そのヒトはヒトの価値観で言う、お金持ちになっていくんですよ……」
「なんとなく、分かりました……でも、僕は……」
翼の言いかけた言葉を、貧天が手で遮る。もうこれ以上は話したくない、という意思表示だ。
「僕は、貧乏神として、最初から翼さんが嫌いですよ……。でも、最近の翼さんはさらに嫌いになりました……その意味は、そういうことです……」
そう言って貧天は、憲和神の社に入ろうとする。だが、何かを思い出したように、振り返った。
「あっ……憲和のおじさんは、ヒトの意味とは全く違いますからね……? 憲和のおじさんは、他の神と比べて多くの欲があります……。特に憲和のおじさんは、ここに住むヒトが好きだから、肩入れもします……。その欲は、ヒトから見たら良いもの。神から見たら、好かれないものなんですよ……。それを分かっていて、それを貫く憲和のおじさんは、神としては決して地位向上や、いわゆるお金持ちにはなりませんから……」
クスッと笑うと、貧天は憲和神の社に入っていく。残された翼は、しばらくそこに座って、貧天の言葉について考えていたのだった。
※※※
「憲和のお陰で、広仁の周りにいる神は、一旦話し合いの場に出ることとなった。これは大きな変化じゃ。だが……」
「はい。玉沖様。モバ様の領域の山を、あのヒトらは穢しました。モバ様にとっては一部ですし、今は具現化もされているので、影響も少ないようなのですが……。今まで静観していた、いえ、興味も持っていなかった自然神の怒りをヒトは買いました。清一くんも何も言っていませんが、きっとお怒りだと……」
玉沖神の側で頭を下げて報告している田中。玉沖神は、深くため息をついた。
「自然神については、我らは手を出せぬ。我らがこの地に降りるより、遙か昔から、ここにいる神々じゃ。田中、自然神の現在の怒りはどれほどのものじゃ?」
「そうですね……。穢した者に、少しバチが当たる、レベルです。なので、玉沖様が気にするほどでもないと思ったのですが……」
「この先、もしヒトがこれ以上モバ殿の山を穢すようなら、また変わると」
「その通りでございます」
田中の言葉に、玉沖神はまた深くため息をつく。
「山崎や木村、そして私も……モバ様の山に、古くから住まう自然神でございます。ヒトがモバ様の山を穢すのならば、黙っていることはできません。例えモバ様が、それを望まなくとも……。それに、清一くんも……」
「分かっておる。その面でも、今回憲和は本当に良い立ち回りをしてくれた。あやつの欲に助けられたな」
「憲和様のお加減は? 憲和様、ヒトを大きな病気にさせるのは、数百年ぶりでしょう」
田中の言葉に、玉沖神は苦笑する。
「元々の力じゃからな。むしろ疫病神としての力は、回復しておる。問題は心じゃ」
「ヒトを病気にさせることを嫌う疫病神。ヒトと自然を愛する疫病神。正統派の神である玉沖様の伴侶となった疫病神。憲和様のお噂は、いつでも絶えませんね」
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