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日々は続く。手紙【完結】
しおりを挟む「うーん、マッスル!!」
青空の下、一気に飲むプロテインはなんとも清々しくて美味しい。
しかも、今日のプロテインは新作の味、パイナップル味だ。うむ、酸味が効いていて、なんとも新しい味だ。
「本間に好きじゃねえ。それ以上筋肉増やしてどうするんか知らんけど」
畑の側の俺の隣で、美沙さんが、お弁当箱をしまって、いちごみるくのパックを飲みながら言った。
「筋肉は増やすだけじゃなくて、キープも大事なんよ」
俺はそう言うと、美沙さんの隣に座る。
うん、今日も平和な一日だ。
ののさんと祐介さんの結婚式が終わってから、俺たちはいつもの日常に戻っていた。
俺はあの日の舞台で少し自信がついて、無事に定期公演を終えた。組の人にも、組のファンの人にも喜んで貰えて、これからもっともっと舞える舞を増やしていきたいと思う。
「はぁー、ほんでも、やっぱり結婚式には憧れるよねえ……うちはプリンセスラインのドレスが着たいわあー」
美沙さんが、思い出したように言った。
うむ、俺は雑誌を見て覚えているぞ。あのお姫様みたいなドレスのはずだ。
でも……美沙さんは、一緒に畑仕事をしているのに筋肉がない。やっぱりプロテインを飲んでいないからだと思うのだが、何故かプロテインを飲むことは嫌がられる。
だから美沙さんは、相変わらずとても細い。折れるんじゃないかと心配になってしまうけれど、確かあの雑誌では……。
「美沙さんの体型じゃったら、マーメイドってやつも綺麗じゃろうね」
俺がそう言った途端、美沙さんが突然真っ赤になった。
「よ、陽介さんはそっちの方がええん?」
「いや?どっちでも似合うと思うよ?」
「……それって、着せてくれるってことよね?」
「えっ!?」
「え……」
俺は、美沙さんの言葉に固まった。
俺が、着せる。それはつまり、そういうことであって……?
固まった俺を見て、美沙さんが怒った顔になった。
あ、やばい。美沙さんを怒らせたらかなわない。でも今俺はそれどころじゃない。
いや、だって、うん。美沙さんは元々モテていた人だし、そもそも、自分が結婚なんて考えたことないし、いやでも、今の関係って……?
「もう!!本間ににぶちんなんじゃけえ!!うち、もうお店に行くけんね!!」
美沙さんはそう言って立ち上がると、俺にいちごみるく味の飴を投げつけて、車でお店に行ってしまった。
いや、美沙さんは、俺の中で必要な人だし、うん、勿論好き……だけど……。
気がついたら、俺は筋肉をフル回転させて走り出していた。
いつもの縁側から、じいちゃんが笑っているのにも気がつかずに。
《ふふっ、面白いね》
《これからもっと面白くなるね》
「なんにも面白くないよ!!」
あの声に当たり前のように叫び返しながら、俺は全力疾走した。不思議だ。ここに来た頃は、すぐに息を切らしていたのに。
そのまま、いきいきカフェに行った俺は、裏口をバンと開いた。
今日はお休みだけれど、二人はイベントの準備でいるはずだ。
「陽介くん!?どしたん!?」
ののさんの声と共に、祐介さんもびっくりして顔を出した。
「お、俺、どうしたら良いん!?」
※※※
【俺のノリじいちゃんと、文夫じいちゃんへ】
まずは、手紙を書くのが遅くなってごめんなさい。
書きたい書きたいと思っていても、タイミングが掴めなかったので、定期公演が終わって生活も落ち着いた今、二人に手紙を書いています。
まず、定期公演は成功に終わりました。まだまだ課題はあるけれど、楽しく舞うことができたし、みんなが嬉しい言葉をかけてくれました。
これからもっともっと舞える種類を増やしていきたいです。
ののさんと祐介さんとも、変わらず仲良くやっています。父さんと母さんとも、前より沢山話せるようになりました。
部屋に自分専用のトレーニングジムを作る計画も立ててはいますが、いざ器具を買おうとすると迷ってしまって、結局雑誌を見て楽しんで終わっています。美沙さんに、いつもとりあえず買ってみれば良いじゃないかと呆れられています。
美沙さんとのことは……あまり聞かないでください。
ただ、この前、美沙さんのお父さんと、お母さんが挨拶に来ました。それがまたいきなりで、俺は慌てて、美沙さんが普通の服で良いと言うのにスーツを着ようとしたけれど、シャツのボタンが吹き飛んで、美沙さんに大爆笑されました。少しトラウマです。結局普通の服で挨拶をしました。
俺、今になってやっと分かることがあります。いつも、俺はいちごみるくを二つ貰って喜んでいました。でもあれは、俺に二つくれていたけれど、本当は、大事な人に一つ分けて飲む為のものだったんですね。なんでここまで気がつかなかったのか恥ずかしいですが……。今、俺は、じいちゃんがくれるいちごみるくを、美沙さんと一緒に飲んでいます。
俺はじいちゃんを見ていて、学んだことが三つあります。
それは、信頼と人望と度胸です。
信頼があるから、俺の言葉を信じて貰える。人望があるから、俺の言葉に耳を傾けて貰える。そして俺に少しの度胸があれば、前に進んでいける。今はそう思います。
ノリじいちゃん、俺は、あなたに、いつか同じ場所に行けると教えて貰いました。必ずまた会えると、言ってくれました。俺は誰よりも、あなたの言葉を信じています。
だから、いつになるか分からないけれど、俺がそっちに行ったとき、恥ずかしくないように。友達ができたこと、神楽を舞っていること、仕事を頑張っていること、筋肉をつけていること、いっぱいいっぱい自慢できるような、そんな生き方をしたいと思います。
俺、十年以上引きこもってしまったけれど、こっちに来れて本当に良かった。ののさん、祐介さん、じいちゃん、そして美沙さんに出会えて、色んな人とご縁ができて、本当に嬉しい。
だから、しっかり見とってね。これからどうなるか分からんけれど、俺、今は精一杯ここで生きるけん。
この手紙は仏壇に置かず、じいちゃんの木の下に埋めるけん。だって、美沙さんに見つかりそうなんじゃもん。
【陽介】
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最後までお付き合い頂きありがとうございました!!
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ぜひ最後まで見守ってあげて頂けると幸いです!!
嬉しい感想ありがとうございます!
ぜひ最後までお付き合い頂けると幸いです!!