きらめきの星の奇跡

Emi 松原

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決めた覚悟・決めた道

1-2

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「……じゃあ、ルトは……」
「あぁ、間違いない」
 リルの声と、この声は、ラネンさん……?
 俺は、ゆっくりと目を開けた。
 俺はベッドで寝かされているようだ。側にはリルと、ラネンさんがいる。すぐ近くの机の周りに、エミリィ様達が座っていた。
「ルト、目が覚めたのね!」
「俺……一体、何が……」
 体を起こそうとした俺を、リルが支えてくれた。
 ラネンさんが、俺に目線を合わせて、俺を見た。その真剣な表情に、俺も真剣にラネンさんを見た。
 ラネンさんは、自分の左側の服の袖をめくった。そこにあるのは、記憶石で見た、あの星の形のような痣。
「お前は、これがなんの印か分かっているな?」
 ラネンさんの言葉に、俺は頷いた。
 リルが、静かに、そして優しく、俺の左側の服の袖をめくった。
 思わずそこを見た俺は、驚いて声がでなかった。
 俺の腕には、ラネンさんと同じ痣があったのだ。
「こ……れは……」
 ラネンさんを見ると、ラネンさんは頷いた。
「お前も、神が創った、神を殺せる剣を持つことができる、《受け継ぐ者》となったんだ」
「俺が……?どうして……」
「わからない。俺が何故、《受け継ぐ者》になったのかも詳しくは分からないのだから。ただ、お前には、この剣を持つ権利が与えられた。それだけは間違いない」
 ラネンさんが、生誕指輪から、二本の剣を出した。記憶石で見た、銀色の大きな剣と、金色の短剣……。
「ルト、俺は、破壊神様を殺したとされる、創造神様が創ったこの金色の短剣。これを持つことを、拒み続けてきた。それが例えエミリィを守る為であっても、だ。俺はずっと、この銀色の剣と同じ形状の物で修行を続けている。ルト、お前は……。エミリィがこのことを見越していたのかは分からないが、ずっと、あの短剣で修行をしていた。だから、これを使わないといけない時、お前なら、扱えるはずだ」
 ラネンさんは、そう言うと、俺に、金色の短剣を渡してくれた。
 俺は、それを見つめることしかできなかった。ラネンさんは、銀色の大きな剣を、生誕指輪に戻している。俺は、初めてラネンさんの生誕指輪の石をじっくりと見た。
 ラピスラズリ。石言葉は、高潔・尊厳・幸福の入り口。神々しいブルーが特徴的で、揺るぎない信念が持てる石。洞察力を高め、強い正義感と、揺るぎない信念を伴った行動を促す石でもある。
 ラネンさんは、ずっと、自分の信念に従って、エミリィ様を守ってきた。エミリィ様が魔力の暴走を起こして、この世界が消えてしまうかもしれないという時でも、エミリィ様を抱きしめた。
 俺は、しっかりとラネンさんを見て、そして頷くと、受け取った短剣を、自分の生誕指輪の中にしまう。
「やっぱり、賭けは、俺が勝つんじゃないかなー。まぁ、殺さないって宣言されちゃったけどねー」
 ユーク様が、どこか嬉しそうに言った。
 エミリィ様が立ち上がって、俺の元に来た。今までにないくらい、真剣な顔をしている。
「例えお前がそれを受け継いだとしても、お前とリルは、今回の戦争に関与しないという道もある。ここで決着がつくまで保護してもらうこともできる。……どうする」
 俺は、リルと顔を見合わせた。そして、お互いの意志を確認するようにギュッと手を握る。
「俺、エミリィ様達が戦っているのに、ここで保護されているのは嫌です。俺に何ができるのかは分からないけれど、俺は、俺の決めた復讐の為に、戦いたいです」
「私も、ルトと、みんなと一緒に戦います。戦うことが、ルトの幸せと矛盾しているとしても、それを避けては手に入れることができないのであれば、立ち向かいます」
 エミリィ様が何か言おうとしたけれど、シーク王子様が、それを遮った。
「……エミリィ、君の優しい気持ちは分かるけれど、この子達が決めたんだ」
「分かってる」
 エミリィ様が、ため息をついた。そして、俺たちを見た。
「じゃあ、話が早い。師匠から、今回の戦争で最も大事になる、グリーンクウォーツ王国の国王が創った二つの石については聞いているな。私とエリィは、先生達が残してくれた書物を片っ端から読んだ。そして見つけたんだ。先生達は、こうなることを見越して、石を壊しても、シークとユークの命がなくならないかもしれない方法を見つけてくれていた」
「えっ……」
 驚いている俺とリルに、エリィ姫様が、紙とペンを持って近づいてきた。そして図に書いて説明してくれる。
「石を壊したとき、その魔力は四方に飛び、魔力を求め、シークとユークから、さらなる魔力を奪う可能性がある。そうなれば、二人は全ての魔力を奪われて死んでしまいます。だから、石を壊すと同時に、その魔力を受けられるものが受け止め、確実に、二人の体に魔力を戻すのです。これも体に大きな負荷がかかり、耐えられるかは分かりませんが、二人が生き延びる可能性が残せるのは、この方法しかないのです。そして、魔力を受け止めるのは、その魔力を受け止められるだけの力を持った者でなければならない。つまり、私とエミリィになるのですが……」
 エリィ姫様が、そこまで言うと、下を向いた。
「エリィは、今回の戦争で、ホワイトクウォーツ王国の姫として、創造神として、最高指揮官を務める。最後の決着の時まで、国を離れる訳にはいかない。つまり、私が受け止める役になる。そして、石を壊すのは、神の魔力を、神を殺せる剣を持った者になる。だが、石に剣を入れたとき、どんな大きな衝撃が来るか想像もできない……命の保証はできない」
 エミリィ様が言った。俺は、ラネンさんを見た。ラネンさんは、もう覚悟ができている顔で頷いた。
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