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憎しみの意味
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しおりを挟む部屋の中のベッドの上で、ラネンさんが、うなされている。エミリィ様が、心配そうに何度もタオルを変えたり、手を握っていた。
部屋の中には、騎士団長さん、じいちゃん、リルのおばあちゃん、アーサさん、そして双子神様達がいる。
「先生……この模様は……」
騎士団長さんが、ラネンさんが押さえていた肩を出した。そこには、大きな星の痣のようなものができていた。
「間違いない……。《受け継ぐ者》の印だ……。ラネンの生誕指輪の中をチェックするんだ」
じいちゃんの言葉に、騎士団長さんが、指輪をチェックする。
そして驚いた顔で、二本の剣を出した。
一本は、銀色に光る、大きな剣、そしてもう一つは……俺が試験で創って、使っているものと、同じ形状の、金色に光る短剣。
「やはり……これは、文献でしか見たことのない、双子神様が創った、《受け継ぐ者》のみが持てるという、神を殺せる剣……」
「どうして、ラネンが……」
騎士団長さんの言葉に、じいちゃんが首を振った。
「《受け継ぐ者》については、双子神様への信仰心が強いこと、そして何か条件がいることは分かっているのだが、その詳細は分からないんだ。歴史上で、一人も《受け継ぐ者》がいない時期もあれば、数人出てくる時期もある。それくらい、分からないんだ」
「ラネンは……私を殺さなきゃいけないの……?」
エミリィ様が、涙を流しながら言った。
全員が、驚いてエミリィ様を見た。
「私、知ってる。破壊神のこと、みんなが怖がっているの。いつ世界を滅ぼすか分からないから。だから、本当は、破壊神なんていらないってみんな思ってるの、知ってる」
「エミリィ、それはちが……」
「そんな訳ないだろ」
じいちゃんの言葉を遮って、ラネンさんが、苦しそうに起き上がりながら言った。
「ラネン……!!」
エミリィ様が、慌てて体を支えた。ラネンさんは、苦しそうに、でも真っ直ぐにエミリィ様を見ている。
「言うの、先を越されたけれど……。俺は、エミリィ、お前が好きだ。友達としてじゃなくて、愛してる。俺は、お前を守る為に、剣を持ちたいって強く思った。そしたら、肩が痛くなって……」
ラネンさんが最後まで言う前に、エミリィ様が、泣きながらラネンさんに抱きついた。
ラネンさんが、それを受け止める。
「ふんっ。良いことじゃないか。破壊神を殺せる、《受け継ぐ者》が相手ならば、国民は、お前達を祝える」
アーサさんが、ニヤリと笑って言った。
「アーサ、それはどういう……」
じいちゃんの言葉に、アーサさんは、どこか楽しそうに言った。
「破壊神のエミリィを、唯一殺せる力を持っている。国民が見るのはそこだけだ。何かあったら、エミリィを殺せる存在としてラネンを置けば、二人が一緒にいることを拒むものはおるまい」
アーサさんの言葉に、エミリィ様がラネンさんの胸の中で頷いた。
「うん、私、殺されるならラネンが良い」
騎士団長さんが、何かを覚悟するように目を閉じて、息を吐き出すと、目を開けてラネンさんを真っ直ぐに見た。
「ラネン。何があっても《受け継ぐ者》として、エミリィ姫様と生きる覚悟があるか?」
騎士団長さんの言葉に、ラネンさんがしっかりと頷いた。
「そうか。ならば、今日からお前は、唯一、双子神様達を……エミリィ姫様を殺せる者だ。騎士団長の私から命令だ。これからも騎士団としての修行を続けながらも、エミリィ姫様のおそばにいて、お守りしろ。そして、一緒に生きろ」
「……はい!!」
ラネンさんが、ハッキリと言って頷いた。
俺は、あの時の騎士団長さんの言った意味が分かった。
唯一殺せる……。だから、愛するエミリィ様と生きる覚悟を、ラネンさんはしたんだ。
リルも、小さく、やっぱり……と呟いた。
リルは予想していたのだろう、ラネンさんが、《受け継ぐ者》だということを。
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