きらめきの星の奇跡

Emi 松原

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憎しみを向ける先

1-3

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「……それで、ルトとリルはこれからどうするんだ?お前はこれから忙しくなる。エリィ姫様はそれ以上に。修行してやる時間なんてないだろう」
 ラネンが言った。
「そうだね。ブルーローズで仕事をさせていても良いと思ったんだけれどね。それじゃ面白くないから。事が動き出すまで、アーサ師匠に預けようと思う。師匠が、私より厳しい修行をしてくれるだろうし。それに、ユークが、ルトに殺されることを望んでるみたいだし、それは同時に、私に復讐して、殺す力も手に入れてくれるってことだしね」
「……」
 少しの間、沈黙が続いた。
 すると、外から、二人の気配が消えた。聞くのに耐えられなくなったのか、見つからないように戻ったのか。三人は、また顔を見合わせた。

 完全に二人の気配が消えると、キラが、膝から崩れ落ちた。
 そのまま、エミリィのベッドに顔を伏せる。
「マスター、いくらなんでも、酷いです。俺は……ただの一度も、悪い意味であなたを憎んだことも、あなたが自由気ままにしているなんて思ったことはないのに……!!」
 キラが、涙声で言った。
「悪かったよ、キラ」
 エミリィが苦笑しながら、キラの頭をポンポンと叩いた。
「これから、どうやっても、戦争に向かうだろう。その前に、とことんあいつらを悩ませたいんだ。そしてその先に、自分達の答えを見つけさせたい。先生達から預かった、大事な弟子だから」
「…………」
 キラは顔を上げない。
「……舞踏会でも、シーク王子と俺の会話を盗み聞きしていたようだし、もう悩む要素は十分与えただろう。後は、アーサ師匠に任せて、お前はやるべきことに集中しろ」
 ラネンが、優しくエミリィに言った。
「そういえば、その話、まだ聞いてなかったよね」
 エミリィが、ラネンに向き直った。ラネンが苦笑する。
「あいつらの賭けの意味が分かったよ。ユーク王子は、自分達を殺してくれるのはルト。シーク王子は、自分達を殺してくれるのは、俺だと賭けをしているんだとよ」
「なにそれ。どう考えても、シークの勝ちじゃない」
 エミリィが、怪訝そうな顔をした。
「どうだろうな。ルトはお前の弟子になって、大きく力をつけた。それにあの形状の短剣……。もしも、俺の隣に立つ存在になったら、分からないぞ。それに、ユーク王子は賭けに負けたこともない。まぁ……時が来て、あの二人を殺すのは、俺の役目だけどな」
「ラネンさん……」
 顔を上げたキラの目に、涙が溜まる。
「約束は、守らないとな」
 ラネンはそう言って笑うと、エミリィと同じように、キラの頭を、ポンポンと叩いた。
 エミリィは、ラネンに体を預けると、目を閉じた。
「ラネンが、あの時の約束を覚えてくれていて、キラがその約束が果たされるときに側にいてくれるって言うんなら、私はまだ、この世界を消せないじゃないか」
 エミリィの言葉に、キラが、やっと微笑んだ。
「えぇ、勿論です」
 キラが、涙声で言った。
 ラネンは、当たり前だと言うように、エミリィを抱きしめた。

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