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乱獲者・対人戦
1-3
しおりを挟む俺は、乱獲者の横腹に向けて、短剣を振った。
また、短剣から鋭い風が吹き、横から、距離を詰めていた乱獲者を吹き飛ばした。
「距離を詰めるな!相手は短剣だ!」
残りの二人のうちの一人が言った。
二人は、俺たちから距離を取ると、剣を同時に向けた。
最初よりも強い魔法が、俺を襲った。二人の魔法が混ざり合い、威力が増している。
俺はそれを、短剣で正面から受け止めた。
「斬り裂け!!」
俺の声と同時に、短剣が、相手の魔法を斬り裂いた。
「お、おい……こいつら、本当に……」
乱獲者の一人が、怯えた声で言った。
「怯むな!」
もう一人の声と同時に、いくつもの攻撃魔法が俺を襲った。
だけれど、俺は、それを一つ一つ斬りながら、乱獲者の一人に距離を詰めた。
そして、隙を作らないように意識して、短剣を握り直した。
剣の先に意識を集中させる。
「吹き飛べ!」
距離を詰めた乱獲者の腹部に剣を突きつけ、魔法を噴出させる。
乱獲者は、声を出すこともできずに、吹き飛んでその場に倒れた。
「ひっ……」
最後に残った乱獲者が、俺を恐怖の目で見ていた。
俺は、躊躇してしまった。この怯えた目をした乱獲者を、攻撃することに。
その隙を逃さず、乱獲者は逃げようとした。
「転送!!」
リルの声が聞こえたと思ったと同時に、その乱獲者の後ろに、リルが現れた。
「ごめんなさいね、お仕事だから」
リルはそう言うと、恐怖に怯えた目の乱獲者の首を、杖で叩いた。なにかの魔法が、乱獲者に流れ込んだのが分かった。
乱獲者はその場にうつ伏せに倒れた。
「縛れ」
リルが杖を振ると、四人の乱獲者が、魔力の紐によって引き寄せられ、そのまま全員が一つの魔力の紐によって縛られた。
「ルト、あんなに沢山の魔力を使って大丈夫?すぐに魔力供給するわ」
リルが、俺の側に来て、心配そうに言った。
だけれど、俺は、全くと言って良いほど疲れていなかった。
「……あら、魔力供給は必要ないようね」
リルが、俺を見てニッコリと笑う。
「リル、今……転送魔法を……それに全部、あんなに高度な魔法を……」
驚きを隠せずに言った俺に向かって、リルが、恥ずかしそうに笑った。
「まだ、これくらい近くないと、転送魔法は上手くできないけれど……。さっき、杖で地面を叩いてまわっていたでしょう?あれで、転送魔法の印をつけていたのよ」
俺は、しばらく驚きで何も言えなかった。
だけれど、驚いているのは、リルも同じのようだ。
「ルト、あなた、もの凄く動きが速くなったのね。それに、あれだけの魔力を使っていたのに、息も切らしてないわ」
「……」
俺は、リルの言葉が嬉しかったけれど、下を向いてしまった。
「リル、ごめん。俺、最後に躊躇して……」
そんな俺の手を、リルが握ってくれる。
「それでも、あなたは、逃げなかったわ。確かに乱獲者に立ち向かった」
リルの顔を見ると、俺に安心感が広がった。
俺は、逃げなかった。怖くて立ち止まることもなかったんだ。
その時。
ゾッとするような、でもエミリィ様とは違う、背筋が凍るような魔力を感じた。
俺とリルは、反射的に、お互いの背中を守るようにくっついていた。
「情けない……本当に情けない……」
細身の男の人が、リルの持っている形状と似た杖を持って、ゆっくりと歩いてきた。
その魔力は、さっきの四人と全く違う。
俺とリルは、短剣と杖を構えた。
「あぁ、情けない……さっさと起きろ」
その男の人が杖を振ると、さっきの四人が、ハッと目覚めた。
そして、細身の男の人を見ると、全員が怯えているのが分かった。
こいつが、こいつらのボスなのか??
格段に違う魔力に圧倒されながらも、俺たちはその場でいつでも動けるように構えていた。
「双子神の弟子、か……。だが、所詮、ありふれた魔力だ」
男の杖から、感じたことのない魔法が飛んだ。
俺は、短剣で斬る構えをした。
だけれど、ふわっと風が吹いたと思った瞬間、俺の前にユーク様が立っていた。
ユーク様は武器を使わず、片手を軽く振ると、飛んできている魔法を消してしまった。
「転送」
ユーク様の声が聞こえたのと、男の後ろにユーク様がいたのは同時だった。
「この魔力は、見過ごせないね。君は、シークの元に行ってもらうよ」
男の顔に、恐怖が浮かんだ。
「転送」
だけれど、男が動く前に、ユーク様は、男の肩を、ポンッと叩いた。
不思議な魔力を持っていた男は、消えていた。
「あー、美味しいところだけ持って行っちゃったかなー。ごめんねー?」
ユーク様が、掴みどころのない、軽い笑顔で言った。
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