きらめきの星の奇跡

Emi 松原

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出発と破壊神

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「今、グリーンクウォーツ王国はね、貧富の差がもの凄く激しいんだー。当たり前だよねー。上の人間は、略奪によって裕福になるー。その反面、奴隷として無理矢理働かされている人もいるんだからー。それに、父上様を信仰しない者は……そうだねー、今までの、きらめきの双子神様を信仰している人でさえ、父上様の考えに反対したら、殺されてもおかしくないんだー」
 俺は、その言葉を聞いて、ゾクッとしたけれど、黙って聞いていた。
「だからかなー。グリーンクウォーツ王国では、俺たち双子神の化身は、お飾りみたいな存在になっててねー。今回は、必要な依頼だったから、俺は自由に動けるけれど、普段は、お城の中で過ごさないといけないんだよー。名目上は、俺のギルドのバタフライも、ブルーローズと共同依頼を行えるようにという表の名目で、本来は対抗して父上様が作ったものだしねー。メンバーだって、依頼だって、全て父上様の側近が管理しているんだー。俺とシークの仕事は、父上様の言う通り、国民の前に立って、笑顔で手を振ることだねー」
 ……どうしてだろう。ユーク様は、自分のことなのに、どこか他人事のように話している。
 掴みどころのない笑顔を崩さず、さっきの一瞬の寂しそうな顔が嘘だったのかのようだ。
「……でも、数だけ見れば……。遙か昔からの、きらめきの双子神様を信仰している人の方が多いのではないでしょうか……」
 リルが、とても静かに聞いた。
「うん、そうだと思うよー。父上様が絶対的だという解釈の信仰は……グリーンクウォーツ王国では、双子神を制する者と言われているんだけれどねー。それは、父上様が言い出したことだからさー。元々、信仰心があつい人たちにとっては、考えられないことだと思うよー。だけれど、さっきも言ったように、父上様に反抗の意志を見せてしまったら、命が危ないんだ。……完全なる独裁者ってとこかなー」
「それに関して、ユーク様はどう思っているんですか……?」
 俺は、思わず、聞いてしまった。
 何も言わないつもりだったのに。ユーク様があまりにも他人事で……。それに、どうしてそんな国で大人しくしているのか分からなくて。
「そうだねー……。ねぇ、ルトくん、君はどうして、エミリィを信じているんだい?」
 聞き返された俺は、慌てたけれど、ユーク様に真っ直ぐに見つめられて、ちゃんと答えないといけないと思った。
「最初は……ただ、破壊神様の弟子になりたくて弟子入りしました。今は、その姿に尊敬しています。ブルーローズではマスターとして、みんなから慕われているし、俺の修行もしっかりしてくれて……。怖いし、何を考えているのか分からないし、世界を消すってよく言っているけれど……。エリィ姫様も、ラネンさんも、キラさんも、それにリルも、みんながエミリィ様を慕っているのを感じるから……」
「うん。つまり、みんながエミリィを持ち上げているから、エミリィが、君にとって利益になるから、エミリィを慕っているんでしょー?」
「え……」
 俺は、ユーク様の言葉に何も言えなかった。
 どうしてだろう。そんなことないと言いたいのに、言い返せない。
 リルが、とても真剣な顔で、ユーク様を見つめていた。
「グリーンクウォーツ王国の国民も同じだよー。父上様が何を言おうと、それが一人だったら、なんの力もないんだよー。それが国王であってもねー。持ち上げる人間が、賛同する人間が、慕う人間が、利益になる人間が、確かに存在しているんだよー。俺には、そんな人たちを全員否定できないんだよねー。……独裁者だって、一人っきりじゃなれないと思うんだー。それこそ、俺たちのように特別な魔力を持っていない限りはねー」
 なんで、なんでなんだ。
 言い返したいのに。グリーンクウォーツ王国の国王がやっていることがどれだけおかしいか、そのせいで苦しんでいる人たちがどれだけいるか、俺の幸せを奪っていったか、言い返したいのに。
 ユーク様に、反論できる言葉が見つからない。なんでなんだ。
 ……ホワイトクウォーツ王国では、きらめきの双子神様への信仰があつい。だからこそ、国民は、エミリィ様のことを怯えている。その人達を、俺は否定できるだろうか?できるわけない。もし、その人達が、安心できるからという理由で、グリーンクウォーツ王国の国王のことを信じたとしたら、それを責めることができるのだろうか……?
 でも、略奪なんて、やってることは絶対に間違ってる。それに、あの時の村の光景……。
 俺は、少し混乱していた。
「ルト……」
 リルが、そっと俺の手を握ってくれた。
「勘違いはしないでねー。俺は、父上様を信仰する人たちを否定はできないけれど、父上様のやり方が正しいとは思ってないよー。むしろ、ただの詐欺師にしか見えないなー」
「え……」
 俺とリルは、驚いてユーク様を見た。
「だけれど、破壊神の化身の俺が、もしそんなことを言ったらどうなるかなー?最悪、グリーンクウォーツ王国は激しい内戦が起きるよねー。俺が、エミリィに破壊神らしくないって言われる理由だよー。俺はできることなら、争いたくないんだよねー。今だって、俺が直々に出てくることで、乱獲者達が逃げてくれることを願っているんだから」
「……」
 何も言えなくなった俺たちに、ユーク様は、変わらない笑顔を見せた。
「まぁ、エミリィに、一番怒らせたくないとも言われるんだけどねー。失礼しちゃうよねー。たった一度だけ怒っただけなのに、そんな言い方されるんだからー」
 軽い口調で笑うユーク王子。
 たった一度だけ怒った……エミリィ様が怒らせたくないと言う……。一体、ユーク様は、その一回はなぜ怒ったのだろう。
 あぁ、もう、頭が混乱してどうにかなりそうだ。
 知る覚悟。それを突きつけられた気がした。

 そこからは、夜まで、周りを警戒しながらも、それぞれ好きなことをして過ごした。
 ユーク様は、本を読んでいたし、リルは、なにかのメモを取っていた。
 俺は……必死で考えを整理しようとしたけれど、できなくて、ユーク様を憎むこともできなくて、息苦しくなっていくのを抑えるために、エミリィ様に創れと言われている指輪の紙を見ながら、頭の中で組み立てることに集中して自分を落ち着かせようとしていた。

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