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共同依頼内容
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しおりを挟む「だからこそ、この依頼は、中途半端な力を持った者を行かせてはいけない。危険だからね。グリーンクウォーツ王国からは、破壊神様のユーク王子様が直々に来る予定だ。本来なら、マスターが行くべきだと考える人もいるかもしれないけれど、破壊神様が二人揃うことは、国の人間に多大なる不安と恐怖を与える。そこで選ばれたのが、君たち二人だよ。創造神様と破壊神様の弟子なら、誰も文句がないし、君たちなら、この依頼を成功できるはずだ」
「で、でも、俺たち、対人戦は、訓練でしか……」
「大丈夫、君たちの訓練相手が誰だか分かるだろう?」
キラさんが、慌てていた俺に、優しく言った。
リルは、俺と違って、とても真剣な顔をしている。
その顔を見て、俺はリルの言っていた言葉を思い出した。
この依頼に隠された裏……。
俺は、聞いて良いのかどうか分からずに、リルを見た。
するとリルは、クスッと笑って俺を見た。
「ルト、聞きたいことが、全部顔に書いてあるわよ」
「えっ……」
俺は、慌てて自分の顔をこすってみた。
リルは、また真剣な顔をして、キラさんに向き合っていた。
「この共同の依頼について、師匠と少し話をしました」
リルの言葉に、キラさんも真剣な顔で、リルを見た。
「まず、この依頼が成功すれば、大きなニュースになるはずです。私たちは、存在こそは知られているけれど、その力は知られていない謎の存在となっています。だから、この依頼を使って、私たちの力を証明し、それと同時に、師匠達の弟子であることが本物だということを、国の人たちに改めて知らしめることが目的ではないかと、私は考えました。破壊神様のユーク王子様が自ら出向くのも、私たちが、破壊神様と、依頼の上では、対等に並べる存在であると、あえて示す為ではないかと」
「うん、その通りだよ。エリィ姫様はなんて言ってた?」
「素晴らしいと褒めて下さいました。だけれど、理由はまだあると……」
リル、本当に凄い……。
正直、俺は話しについていくのが精一杯だった。
「うーん、その理由を、エリィ姫様や、マスターが言わなかったのであれば、俺から言ったらいけないことだねぇ」
キラさんが、ちょっと困ったように苦笑すると、また真剣な顔で、リルを見た。
「だから、ヒントをあげるよ。リルちゃんなら、答えを出せるはず」
「……はい」
リルも、真剣な顔で頷いた。
「まず一つ。グリーンクウォーツ王国でも君たちの存在は知られている。次に、創造神様のシーク王子様と、破壊神様のユーク王子様は、決してグリーンクウォーツ王国の国王のやり方に賛成している訳ではない。最後に、ルトくんに、グリーンクウォーツ王国との交流に慣れてもらっておく必要がある。……近々、ホワイトクウォーツ王国と、グリーンクウォーツ王国の王族と貴族で開かれる舞踏会がある。これで、考えてみて」
「……はい。ありがとうございます」
リルが、また頷いた。
俺は、全く話についていけなくなっていた。
そんな俺に、リルが、後で教えてくれると、目で合図をしてくれた。
「じゃあ、改めて依頼の確認と、手順を説明するね」
キラさんの言葉に、俺は、視線をキラさんに戻した。
俺は、依頼内容だけはしっかりと理解しようと、真剣に話を聞いた。
話が終わって、俺とリルは、居住部屋に戻ってきていた。
明日からの依頼の準備のために、今日、俺たちには他の依頼は入っていない。
「リル、リルは本当に凄いね。俺、リルみたいに考えることなんてできないよ」
俺は、少しため息をつきながら、リルに言った。
「あら、私はルトの、そんな真っ直ぐなところが好きよ。それに、依頼一つにこんなに多くのことが詰め込まれているなんて、誰も考えないわよ」
「でも、リルは考えてる」
「だって、私は師匠の弟子だもの」
リルが、ペロッと舌を出した。
俺は、そんな姿に少し安心した。そして、座り直して、リルを見た。
「リル。教えてくれ。キラさんの言っていたヒントの意味を」
リルも、俺を見て座り直した。そして静かに頷いた。
「まず、グリーンクウォーツ王国でも、私たちの存在は知られている。だけれど、その詳細は、この国と同様一切伝わっていない。そうすると、きっと様々な憶測が、王族・貴族・国民の中で広がっているはず。だから、まずは私たちがグリーンクウォーツ王国に敵意がないことを証明しなくてはいけない。……勿論、表向きによ。次に、グリーンクウォーツ王国の双子神様の王子様達が、国王のやり方には賛成ではないということ。……おばあちゃん達が死んだときもそうだったけれど、マスターは、王子様達と通信を繋いでいた。双子神様達は、きっと、秘密裏に連絡を取り合っている」
「……」
俺は黙って、リルの話を聞いた。
「ルトが、グリーンクウォーツ王国との交流に慣れておかなければならない理由。これは、最後に言われていた舞踏会と関係していると思う。多分、私たち、そこで正式に社交界デビューをさせられるんだと思うわ。だけれど、それは、表向きには、グリーンクウォーツ王国に対して友好的だということを示す場でもある。だから、まだ力の足りないルトが、感情のままに動いてしまわないように……何より、ルトに、魔力の暴走が起こらないように、慣れておかなくてはいけないの」
……魔力の暴走。それは、感情が爆発したときに、魔力コントロールができなくなり、何が起こるか分からなくなる状態をいう。魔力を爆発させて全て使ってしまうと、最悪、死に至るとも言われている。
「……仮に、あなたに魔力の暴走が起きたとしても、師匠やマスターがいれば、きっとすぐに押さえ込むことができる。だけれど、もしあなたが暴走するのを、舞踏会に来ている人が見てしまったら……。あなたは、破壊神様と同様に、今よりさらに怯えられ、最悪、排除の対象になるかもしれないのよ」
「えっ……」
俺は、言葉が続かなかった。
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