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依頼・修行・店
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しおりを挟む「ルトくん、君が、エミリィ姫様の弟子になった理由を聞いたよ。私は、君の復讐心を消すことはできないし、止めさせようとも思わない。だが、君たちの気持ちを全て受け止めることはできる。親友の孫が、自分の人生を悔いなく生きられるように、手助けしたいんだ。それが、復讐という形で誰かを傷つけることになったとしても。私が大切なのは、ルトくん、そしてリルちゃんなんだ」
気がついたら、俺の頬に、涙が伝っていた。
村が焼かれたときも、じいちゃんと別れた時も、泣かなかったのに……。
ギルさんは、カウンターから出てきて、俺とリルを、また同時に、とても柔らかく抱きしめてくれた。
なんでだろう。どうして、涙が止まらないんだろう。
俺は、しばらくギルさんの胸で泣いていた。
少し落ち着いた俺は、ギルさんとリルと、今までの話をしていた。
ギルドに入った今の生活の話になった時に、俺は、エミリィ様から創るように言われた指輪を思い出して、生誕指輪から紙を取り出した。
あの時はゆっくりと見られなかったから、改めて紙を見る。リルと、ギルさんも、一緒に覗き込んだ。
「これはこれは……また、とても面白い指輪だなぁ」
ギルさんが、柔らかく笑いながら言った。
でも、俺とリルは笑えずに、唖然とするしかなかった。
その指輪は、花びらを一枚一枚違う色と石で創る、花の形の石がついた指輪で、攻撃と防御、回復まで兼ね備えた、高度な武器にもなる、回復にも使える、魔法道具だった。
扱ったことのない、珍しい材料が沢山書いてあったし、組み込む魔法だって、リルが眉間にしわを寄せるくらい難しいものだ。
こんなもの、本当に創れるのか……!?
そんな俺たちをよそに、ギルさんの柔らかい笑顔は変わらなかった。
「ふむ、材料の半分は、この店のものを使えば良い。残りの半分も入手することはできるけれど、せっかくリルちゃんが、エリィ姫様の弟子なんだ。エリィ姫様から分けてもらえば良いよ。あの方は、自ら、沢山のフラワーストーンを育て、品種改良も行っているからね」
俺とリルは、驚いてギルさんを見た。
ギルさんは、どこか楽しそうに笑っていたのだ。
「難しければ難しいほど、創るのは楽しい。それが、私たち三人が腕を上達させた理由だ。回復魔法の組み込みは、リルちゃんが手伝ってあげたら良い。他の魔法の組み込みの手伝いは、私がしよう。だが、芯を創らなければならないのは、ルトくん自身だ。ここを自由に使って良い。一緒に頑張ろうではないか」
俺は、何故か、ギルさんの笑顔を見るととても安心した。
きっと、リルもそうなのだろう。眉間のしわが消えて、微笑んでいた。
気がついたら、外は真っ暗になっていた。
「つい話し込んでしまったね。二人とも、気をつけて帰るんだよ。いつでも連絡しておいで。……ゆっくりになるだろうが、君たちに必要なことを教えていきたいと思っているよ」
ギルさんが言った。
俺は、帰るために立ち上がろうとした。
でも、リルは、ギルさんを見つめていた。
「あの、ギルさん、聞いて良いのか分からないのですが……」
リルが、少し控えめに聞いた。
「なんだい?私には、なんでも聞いてくれて良いんだよ」
ギルさんの柔らかい笑顔に、リルが安心したように頷く。
「その……私、ここに来たとき、村で、最後にエミリィ姫様が通信を繋いでいたのは、双子神様達と、ギルさんかと思ったんです。だけれど、名前が違うから……。師匠にも、あの時のことは聞きにくくて……」
「ほう。繋いでいた人の名前は覚えているかい?」
「はい。……アーサさんという方です」
ギルさんが、笑って頷いた。
「あぁ、知っているよ。と言っても、私は実際に会ったことはないのだけれどね。アーサはね、闇の魔女と言われて恐れられている人間だよ。破壊神様は、その膨大な魔力を破壊に向けてしまう。そして、そのコントロールが上手くいかないと、世界が滅びてしまうと言われている。そこで、魔力のコントロール、そして、攻撃的な膨大な魔力の使い方……戦闘を教える人間として、アーサが選ばれたんだよ。ルトくんのおじいさんと、リルちゃんのおばあさんは、アーサのことを戦友だと言っていたね。今何処にいるかは、私には分からない」
ギルさんの言葉に、リルは納得したように頷いた。
リル、ほんの些細なことまで、よく覚えてるな……。
名前が出るまで、俺はあの時の言葉を忘れていた。
後は頼む……。じいちゃんは、アーサさんにそう言葉を残していた。
あのエミリィ様に戦闘を教えた人。一体、どれだけ強い人なんだろう。
そんなことを考えながら、俺は、ギルさんに見送られて、リルと一緒に店を出た。
ギルさんと、時間を合わせて、一緒に魔法道具の指輪を創るという約束をして、俺たちは店を後にした。
「ギルさん、なんだかとても素敵な人だったわね」
リルが、嬉しそうに言った。
「うん。あんなに難しい指輪の作り方を見ても、全く動じていなかったしね。俺一人じゃ、どうすることもできなかったよ」
「本当に、凄い指輪だったわね。マスターは、なんの意図があって、あの指輪をルトに創らせるのかしら」
「俺は左側が弱いからって言われたよ」
リルは、それじゃ納得ができないといった顔で考え込んでいる。
「あ、それより、明後日からの依頼……エリィ姫様と、何を話していたんだい?」
俺は、ふと思い出して、リルに聞いた。
「この依頼の裏に隠された意図や、バタフライについてよ。私の考えが間違っていないか、聞いてもらっていたの」
「隠された意図?」
首をかしげた俺の手を、リルが優しく握った。
「明日、キラさんと詳しく話しましょう。ルトは、マスターから何か言われた?」
「えっと……復讐の為に情報収集しろって……。後、ユーク王子様が自ら動くとも言っていたなぁ……」
俺の言葉に、リルが複雑そうな顔をした。
「リル?」
「ルト。これから、あなたも私も、沢山悩むことになると思う。だけれど、絶対に抱え込まないでね。二人で、一緒に考えていきましょうね」
リルのいつになく真剣な言葉に、俺は黙って頷くことしかできなかった。
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