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16、ヴァイスハイトVSゴルト

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 台覧試合は王宮の一角にある王国決闘場で開催される。決闘場はドーム状になっており、試合場を囲むように階段状に席が設置され、最上階に王が座り台覧する。国民も席さえ取ることが出来れば見ることが出来る。

「さぁ、始まりました! デーア・オラーケル侯爵令嬢とアンジュ・オラーケル侯爵令嬢の婚約者の座を掛けた男の戦いです! 今回特別に任されました、デーア嬢とアンジュ嬢の学友のテレーゼ・ヴィンケルマンとリア・オーフェルヴェックが司会を進行していこうと思います!」

 テレーゼは元気よく司会を始めた。

「試合場右から出ますはこの国の麗しき第一王子であるゴルト・エーデルシュタイン王子と、その右腕である現宰相のご子息シュタール・ブライ侯爵子息ですわ! そして試合場左から出ますはクールな氷の王子様とうたわれるデーア・オラーケル侯爵令嬢の現婚約者であるヴァイスハイト・アルメヒティヒ侯爵子息、そして類まれない魔法の才がある炎の王子様ことアンジュ・オラーケル侯爵令嬢の現婚約者であるゲニー・アルメヒティヒ侯爵子息ですわ!」

 リアは丁寧に人物について説明する。

「一回戦はゴルト王子とヴァイスハイト・アルメヒティヒ侯爵子息によるチェスの勝負! 二回戦はシュタール・ブライ侯爵子息とゲニー・アルメヒティヒ侯爵子息による、魔法による決闘になります! チェスは一回勝負で、決闘を申し込まれた側のヴァイスハイト・アルメヒティヒ侯爵子息は一度だけ選手交代が出来ます! 魔法による決闘は、左胸に付けている赤い石を先に壊した方が勝ちというルールになっています! 一回勝負のこれも決闘を申し込まれた側のゲニー・アルメヒティヒ侯爵子息は一度だけ選手交代が出来ます!」

 テレーゼがルールの説明を読み上げた。

「では第一回戦、ゴルト王子とヴァイスハイト・アルメヒティヒ侯爵子息のチェス勝負、開始ですわ!」

 リアの決闘開始の合図と共にチェスの勝負が始まる。観客席に居るデーアとアンジュはハラハラしながら決闘を見守った。最初はゴルト王子が優勢だと思ったがヴァイスハイトも丁寧に駒を進めてなかなかに接戦を繰り広げる。順調かと思いきや、ゴルト王子の一手で急に戦局が傾いた。ヴァイスハイトの表情が苦々しくなり、手には汗を握る。あと何手か先でチェックメイトが決まりそうになり、ヴァイスハイトは苦しくも選手交代の合図を出した。

「ヴィー、あとは任せて」

 ヴァイスハイトに向かって歩いてきたデーアは、今にも倒れそうな愛しの人の肩にそっと手を置き、汗のついた額をハンカチで拭った。

「ゴルト王子、夫に何かしましたわね。精神を絡繰からくる魔法か何かかしら。夫にしては不自然な駒の進め方をしてましたわ。それにこの額の汗の量は尋常じんじょうじゃない。さて、私との勝負……勿論してくれますわよね?」

 デーアが射抜くような目つきでゴルト王子を睨む。

「もう勝負はついてると思うが? まあ、悪あがきくらいは許してあげよう。さあ勝負だデーア・オラーケル嬢」

 ゴルト王子は仄暗い笑みを浮かべた。

 具合が優れないヴァイスハイトは観客席の一角にある医務官が控えた簡易の医務室に運ばれた。

「先ずは私ですわね」

 デーアが駒を進める。ゴルト王子は余裕ぶった笑みを浮かべ、次に駒を進めた。交互に駒を進めていく。そして段々とゴルト王子の表情が固くなり、デーアが一言告げた。

「チェックメイトですわ」
「ふ、ふざけるな! 何か姑息な手を使ったんだろう!」

 ゴルト王子は狼狽え、デーアを罵倒する。

「それはゴルト王子の方ではなくて? こちらには優秀な義弟がおりますの。どんな魔法を使って夫をおとしいれたかなんてすぐに分かりますわ」
「勝者、ヴァイスハイト・アルメヒティヒ侯爵子息、デーア・オラーケル侯爵令嬢!」

 試合終了の鐘の音がなり、テレーゼが勝敗を告げた。

「デーア、凄い! ゴルト王子に勝っちゃった!」

 デーアは喜びながら駆けつけたアンジュに抱きつかれる。

「あともう少し遅かったら私も絡繰られてたわ。次はアンジュ達ね。頑張るのよ」
「何を仕掛けてくるのか分からねぇとなるとこっちもどんな対策すればいいか分からねぇな。まあでも、僕達だけ負けるのは嫌だしコテンパンに潰してくるよ」

 抱きつき合うデーアとアンジュに近寄ってきたゲニーがニヤリと笑う。

「頑張ってね。もし何かあったら私が戦うから、安心して思いっきり暴れてきてね」
「うん、分かった。それより充電していい? 魔力溜めとかなきゃいけないし」

 アンジュの腰を引き寄せ、ゲニーがアンジュにキスをしようとする。

「流石に王様と国民が見てるから、やめて!」

 アンジュの抵抗も虚しくゲニーは愛しい人の唇を奪う。

「ご馳走様。じゃ、頑張ってくるね」

 ゲニーは背中を向けひらひらと手を振り、決闘場へ向かう。その背をアンジュが切なそうに見送った。
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