5 / 31
5、好みの女性の話
しおりを挟む
それからヴァールは学校でレッヒェルンとビブリオテーク、グレンツェンの四人でよく行動するようになった。
グレンツェンはレッヒェルンとビブリオテークをいけ好かないやつと思っていたが、四人で過ごすうちに少しづつ二人に心を許すようになる。またレッヒェルンとビブリオテークも身元が不確かなグレンツェンを警戒してたが、ヴァールに対する忠誠心などを見て信用を置けるやつだと思うようになった。
ヴァールは二人と一人が段々と仲良くなっていき、自分の事のように嬉しく思う。自分の好きな人が、また自分の好きな人を好きになってくれて嬉しいのだ。
レッヒェルンはヴァール様、ビブリオテークはヴァール殿下と呼んでいたが、ヴァールが呼び捨てがいいと言ってきたので、公でなければという前提でヴァールと呼び捨てで呼ぶことになった。またグレンツェンのことはグレンと呼ぶようになり、レッヒェルンの愛称のレッヒェ、ビブリオテークの愛称のビリーもヴァールとその従者に許可をする。
三年生になり、初夏生まれのヴァールは十五歳になった。その日は学園の中庭にある芝生の上に大きい布を引き、昼食をとることにする。
「なぁなぁ。この間、隣のクラスの女子に告白されてただろ?」
「あ? ああ、何だ知ってたのかよ」
レッヒェルンが面白そうにグレンツェンの腕を突きながらニヤニヤと笑った。
「グレンモテるんだね。男から見てもかっこいいもんね!」
ヴァールは自分の自慢の親友兼従者がモテていることを純粋に喜んだ。
「で? なんて返したんだよ?」
「は? なんてって?」
「だから! 告白オーケーしたのか、振ったのかってことだよ!」
「……振った」
「はぁあああ?! だって告白してきた女子って学年一モテてる高嶺の花だろ?! は?! まさか……お前男が好きなのか?!」
「んなわけねーだろ。まあ、坊なら考えてやってもいいけどなぁ~」
学年一モテる可愛い女子を振った事実を受け入れられないレッヒェルンはグレンツェンを男色家と疑う。しかも悪ノリするグレンツェンはヴァールならいけると言うので話がややこしくなった。
「グレン……あんまり誤解を招くようなことを言わない方がいいよ」
主人に憐れむ目で見られ、グレンツェンも少しは反省の色を見せる。
「グレンは男色家ではないよ。ちゃんと好きな女の子もいるし」
ヴァールの爆弾発言を聞き、それまで恋愛話なんてアホらしいと話題に入ってこなかったビブリオテークでさえ、前のめりで話を聞こうとした。
「はぁあああ?! 坊! 意味わかんないこと言うなよ! シャイの事なんて好きじゃねーし!!」
それまで余裕ぶっていたグレンツェンが焦りだす。
「ごめん。カマかけてみた……」
てへっと舌をぺろりと出して首を傾ける主人を従者は恨めしそうに睨みつけた。
「ヴァールもやるようになりましたね! 凄い成長です。そうやって人から情報を聞き出すのも、王族として必要だと思いますよ」
ビブリオテークは親友の狡猾な成長を手放しで喜ぶ。
「で? そのシャイちゃんって誰なんだぁ? この学園の子か? お前も中々にイケメンだが、その子も可愛い子なのかよぉ? いくつ?」
レッヒェルンがこれは面白くなったと言わんばかりの顔をしてグレンツェンを質問攻めにした。
「これ……話さないとダメなやつか?」
「僕ね、グレンとそういう話してみたかったんだ。ほら、僕ばっかりじゃない? だから、ね?」
腹を括らないといけないのかとヴァールに聞いたグレンツェンは、主人からあとの二人には聞こえないような小さな声で前から恋バナがしたかったと言われ、自分のことを従者ではなく友達と思ってくれることを素直に嬉しく思う。
「あーくそっ! シャイはシャイネンのことだよ。この学園の子じゃない。あーでも後三年後に入学するぜ。年齢的には二年後なんだけど、まぁ事情があってな。顔は……普通に……可愛いんじゃね? 因みに今十歳だよ」
そしてついにシャイネンのことを好きだと認めたグレンツェンを見て、ヴァールも嬉しく思った。大切な親友の恋が成就して欲しいと切に願う。
「高嶺の花を振ってまでも好きな女の子ってどんだけ美人なんだよぉ! ってか十歳?! お前……ロリコンかよ……」
レッヒェルンはそこそこ引いた目をしながら、グレンツェンを見た。
「俺がロリコンなら……」
坊はなんなんだと続けたいグレンツェンだが、主人の恋模様は勝手に言いたくはないし、ヴァールの場合国を揺るがすかもしれない情報である。下手げに言えないのだ。
「おい、色々ずけずけと聞いてきたが、レッヒェは好きな女とかいるのか?」
「いねぇなぁ!」
「くそつまんねー」
聞いてきたのに自分はいないのかとグレンツェンはイラついた。
「好きな女性がいなくても、好きなタイプの女性なら言えるでしょう?」
やっと発言したビブリオテークがレッヒェルンに問う。
「好きな女性のタイプ……ねぇ? 俺の家が金持ちだから近づいてくる女は嫌だなぁ。吐き気がする。まぁ、強いて言えば、家庭的な一緒にいて癒される女かなぁ」
「へー! 家庭的な女が好きなのかよ。意外でウケる」
「は? 何だよ意外って」
「お前のことだから、一緒に剣を合わせることが出来るやつとか言いそうだから」
「ははは! まあそれも悪くないな! で、ビリーよぉ。お前はどうなんだぁ?」
ビブリオテークはグレンツェンから揶揄われるのが癪に障ったレッヒェルンに道連れにされた。
「私ですか……? そうですね、先ず馬鹿な子は嫌いです。これは知能的なこともそうなんですが、人として愚かな人は頂けませんね。後は……顔など容姿が生理的に受け付けられなくなければ、別に他は多くを望みません。今好みを述べましたが、所詮私は侯爵家跡取りとして政略結婚するでしょうし、叶わない夢を見るほど馬鹿げてる事はないので、これ以上は黙秘させていただきます」
ビブリオテークなりに思ってることがあることを汲み取れたヴァールは、目の前の賢い親友が幸せな結婚が出来ることを切に願う。
「お前も大変なんだな……まあ、それより大変なやつも居そうだけど」
珍しくグレンツェンがビブリオテークに同情した。男だって出来れば好きな女と添い遂げたいもので、それが出自のせいで成しえないというのは悲しいことである。そしてグレンツェンが言ったそれより大変なやつとは他ならないヴァールのことであった。
「で? で! で!! ヴァールお前の番だぞぉ! 世の女が喉から手が出る程その妻の座を欲しがる、この国一番のモテ男の好きなタイプ、そして好きな女は誰なんだよぉ!」
「え……」
とうとう自分に来たかとヴァールは冷や汗をかく。プリンツェッスィンとのことは、二人の従者しかしらないトップシークレットだ。まだ叔父である国王ゲニーたちにも話してない。何となくまだ話さない方がいいのではないかと第六感にピンと来るものがあるのだ。
「あー、坊は国家機密だから、ダァメ!」
「はぁ? ってことはグレンは知ってんのかよぉ! ずりぃ! 俺だってヴァールの親友だ! 不公平だ!」
「俺だって従者じゃなかったら知らなかったし。坊はそういうのでお前たちのことを除け者にするやつじゃねーよ。立場上言えないだけだ。それはお前も分かってんじゃね?」
グレンツェンはちゃんとヴァールがレッヒェルンを信頼してるということを遠回しに分からせる。レッヒェルンも残念がるが、納得した。
「グレン……僕はレッヒェとビリーに言いたいけど、ダメかな?」
「は?! いや、ダメだろ! もしかしてもしかしなくても、国家を揺るがすかもしんねーんだぞ?!」
主人の意外な発言に、グレンツェンは目を白黒させる。
「この二年間、二人の誠実な人柄を側で見てきて、信頼における人だと分かった。もし……もし僕が家臣を持つなら、この二人に側で支えて欲しいんだ。まず主君が信用しなかったら、家臣に信用はされないよ」
ヴァールらしい、全てを包むような慈愛の笑みを浮かべた。
「分かったぜ。まぁ、坊の敵になったらお前たちだとしても殺ることは躊躇わねーから、そこんとこよろしくな!」
脅しを利かせるあたりグレンツェンらしく、ヴァールたち三人は笑ってしまう。折角脅したのに笑われ、グレンツェンは不貞腐れた。
念の為に、半径一メートルに音を遮断するバリアを張り、外に音が漏れないようにする。
「僕の好きな人は……プリンツェッスィン王女だよ。彼女が生まれて、彼女を初めて見た時から好きなんだ。雛が初めて見たものを親と認識するかのように懐いてきてね。すっごく可愛いの。目に入れても痛くないってこのことなんだなって実感するよ。出来れば結婚したいと思ってる。まだ両親たちには僕たちのこと言えてないんだけど……国民の成人年齢である十八歳を迎えたらちゃんと言おうと思ってるんだ」
少し目を伏せながら、顔を赤らめる目の前の美しい青年を三人が見つめた。グレンツェンはヴァールがプリンツェッスィンを好きなことは前々から知っていたが、初めて好きになったきっかけを知り、驚愕する。残る二人もまさか生まれたばかりの赤子を好きになるという衝撃的な内容に色々思うところがあるが、僕たちのことという言葉から二人は両思いなのだろうと推測し、親友が好きな人と両思いでいることを心から祝福した。
「王女もヴァールのことが好きなのでしょう? 従兄妹なので違法ではないですし、親友の私から見てもヴァールはとても優秀で将来の王として申し分ありません。寧ろ何故そうなのに御両親たちに言わないのかが謎ですよ。王女もそろそろ婚約者を決めなきゃいけなくなるでしょう? 婚約者が決まる前に言わなくてはややこしくなりますよ」
ビブリオテークに痛いところを突かれ、ヴァールは空笑いをする。
「ん~。何か……言っちゃダメな気がするんだ。何となくなんだけど、お父様つまり現王も、父上もどことなく僕がツェスィーつまりプリンツェッスィン王女を異性として見ることを嫌がるんだよ。小さい時は、可愛い娘が取られるのが嫌なのかなって思ってたんだけど、あの二人がそんなちっちゃい事でそうするとは思えないし……。何かあるのかなって。僕やツェスィーに言えない何かがあるんだと思う。だから、今は言えないんだ」
この世の女性で落ちない女、ヴァールが望めば添い遂げられない女は居ないだろうと謳われる男でも、添い遂げるのが難しい女性がいることを知り、三人は黙り込んでしまう。良い言葉、かける言葉が思いつかず、黙り込んでしまうほど三人にとってヴァールは大切な友達であった。
「今度ツェスィーに会ってみる? グレンは毎日会ってるけど、二人は姿絵しか見たことないでしょ? 姿絵より何億倍も可愛いんだよ!」
場の空気が重くなったのを感じたヴァールは明るい話題を提供しようとする。
「もし……もしヴァールがプリンツェッスィン王女と添い遂げるのが難しくなったら、私は全権力、財と己の能力を駆使して、力になります」
「俺も、お貴族様よりある財と、人脈の広さを駆使して協力するぜぇ!」
「坊! 俺は、反対するやつ皆殺しにしてやるから安心しろよ!」
ビブリオテーク、レッヒェルン、そしてグレンツェンの温かい言葉を聞き、ヴァールは胸がいっぱいになった。
「ありがとう……僕は君たちを親友に持てて、世界一の果報者だよ」
目に涙をうかべるヴァールに三人は抱きつく。十五の青年たちがじゃれてる姿はとも微笑ましく、音を遮断し姿しか見えない周りの生徒、特に女生徒たちは黄色い声を上げるのだった。
グレンツェンはレッヒェルンとビブリオテークをいけ好かないやつと思っていたが、四人で過ごすうちに少しづつ二人に心を許すようになる。またレッヒェルンとビブリオテークも身元が不確かなグレンツェンを警戒してたが、ヴァールに対する忠誠心などを見て信用を置けるやつだと思うようになった。
ヴァールは二人と一人が段々と仲良くなっていき、自分の事のように嬉しく思う。自分の好きな人が、また自分の好きな人を好きになってくれて嬉しいのだ。
レッヒェルンはヴァール様、ビブリオテークはヴァール殿下と呼んでいたが、ヴァールが呼び捨てがいいと言ってきたので、公でなければという前提でヴァールと呼び捨てで呼ぶことになった。またグレンツェンのことはグレンと呼ぶようになり、レッヒェルンの愛称のレッヒェ、ビブリオテークの愛称のビリーもヴァールとその従者に許可をする。
三年生になり、初夏生まれのヴァールは十五歳になった。その日は学園の中庭にある芝生の上に大きい布を引き、昼食をとることにする。
「なぁなぁ。この間、隣のクラスの女子に告白されてただろ?」
「あ? ああ、何だ知ってたのかよ」
レッヒェルンが面白そうにグレンツェンの腕を突きながらニヤニヤと笑った。
「グレンモテるんだね。男から見てもかっこいいもんね!」
ヴァールは自分の自慢の親友兼従者がモテていることを純粋に喜んだ。
「で? なんて返したんだよ?」
「は? なんてって?」
「だから! 告白オーケーしたのか、振ったのかってことだよ!」
「……振った」
「はぁあああ?! だって告白してきた女子って学年一モテてる高嶺の花だろ?! は?! まさか……お前男が好きなのか?!」
「んなわけねーだろ。まあ、坊なら考えてやってもいいけどなぁ~」
学年一モテる可愛い女子を振った事実を受け入れられないレッヒェルンはグレンツェンを男色家と疑う。しかも悪ノリするグレンツェンはヴァールならいけると言うので話がややこしくなった。
「グレン……あんまり誤解を招くようなことを言わない方がいいよ」
主人に憐れむ目で見られ、グレンツェンも少しは反省の色を見せる。
「グレンは男色家ではないよ。ちゃんと好きな女の子もいるし」
ヴァールの爆弾発言を聞き、それまで恋愛話なんてアホらしいと話題に入ってこなかったビブリオテークでさえ、前のめりで話を聞こうとした。
「はぁあああ?! 坊! 意味わかんないこと言うなよ! シャイの事なんて好きじゃねーし!!」
それまで余裕ぶっていたグレンツェンが焦りだす。
「ごめん。カマかけてみた……」
てへっと舌をぺろりと出して首を傾ける主人を従者は恨めしそうに睨みつけた。
「ヴァールもやるようになりましたね! 凄い成長です。そうやって人から情報を聞き出すのも、王族として必要だと思いますよ」
ビブリオテークは親友の狡猾な成長を手放しで喜ぶ。
「で? そのシャイちゃんって誰なんだぁ? この学園の子か? お前も中々にイケメンだが、その子も可愛い子なのかよぉ? いくつ?」
レッヒェルンがこれは面白くなったと言わんばかりの顔をしてグレンツェンを質問攻めにした。
「これ……話さないとダメなやつか?」
「僕ね、グレンとそういう話してみたかったんだ。ほら、僕ばっかりじゃない? だから、ね?」
腹を括らないといけないのかとヴァールに聞いたグレンツェンは、主人からあとの二人には聞こえないような小さな声で前から恋バナがしたかったと言われ、自分のことを従者ではなく友達と思ってくれることを素直に嬉しく思う。
「あーくそっ! シャイはシャイネンのことだよ。この学園の子じゃない。あーでも後三年後に入学するぜ。年齢的には二年後なんだけど、まぁ事情があってな。顔は……普通に……可愛いんじゃね? 因みに今十歳だよ」
そしてついにシャイネンのことを好きだと認めたグレンツェンを見て、ヴァールも嬉しく思った。大切な親友の恋が成就して欲しいと切に願う。
「高嶺の花を振ってまでも好きな女の子ってどんだけ美人なんだよぉ! ってか十歳?! お前……ロリコンかよ……」
レッヒェルンはそこそこ引いた目をしながら、グレンツェンを見た。
「俺がロリコンなら……」
坊はなんなんだと続けたいグレンツェンだが、主人の恋模様は勝手に言いたくはないし、ヴァールの場合国を揺るがすかもしれない情報である。下手げに言えないのだ。
「おい、色々ずけずけと聞いてきたが、レッヒェは好きな女とかいるのか?」
「いねぇなぁ!」
「くそつまんねー」
聞いてきたのに自分はいないのかとグレンツェンはイラついた。
「好きな女性がいなくても、好きなタイプの女性なら言えるでしょう?」
やっと発言したビブリオテークがレッヒェルンに問う。
「好きな女性のタイプ……ねぇ? 俺の家が金持ちだから近づいてくる女は嫌だなぁ。吐き気がする。まぁ、強いて言えば、家庭的な一緒にいて癒される女かなぁ」
「へー! 家庭的な女が好きなのかよ。意外でウケる」
「は? 何だよ意外って」
「お前のことだから、一緒に剣を合わせることが出来るやつとか言いそうだから」
「ははは! まあそれも悪くないな! で、ビリーよぉ。お前はどうなんだぁ?」
ビブリオテークはグレンツェンから揶揄われるのが癪に障ったレッヒェルンに道連れにされた。
「私ですか……? そうですね、先ず馬鹿な子は嫌いです。これは知能的なこともそうなんですが、人として愚かな人は頂けませんね。後は……顔など容姿が生理的に受け付けられなくなければ、別に他は多くを望みません。今好みを述べましたが、所詮私は侯爵家跡取りとして政略結婚するでしょうし、叶わない夢を見るほど馬鹿げてる事はないので、これ以上は黙秘させていただきます」
ビブリオテークなりに思ってることがあることを汲み取れたヴァールは、目の前の賢い親友が幸せな結婚が出来ることを切に願う。
「お前も大変なんだな……まあ、それより大変なやつも居そうだけど」
珍しくグレンツェンがビブリオテークに同情した。男だって出来れば好きな女と添い遂げたいもので、それが出自のせいで成しえないというのは悲しいことである。そしてグレンツェンが言ったそれより大変なやつとは他ならないヴァールのことであった。
「で? で! で!! ヴァールお前の番だぞぉ! 世の女が喉から手が出る程その妻の座を欲しがる、この国一番のモテ男の好きなタイプ、そして好きな女は誰なんだよぉ!」
「え……」
とうとう自分に来たかとヴァールは冷や汗をかく。プリンツェッスィンとのことは、二人の従者しかしらないトップシークレットだ。まだ叔父である国王ゲニーたちにも話してない。何となくまだ話さない方がいいのではないかと第六感にピンと来るものがあるのだ。
「あー、坊は国家機密だから、ダァメ!」
「はぁ? ってことはグレンは知ってんのかよぉ! ずりぃ! 俺だってヴァールの親友だ! 不公平だ!」
「俺だって従者じゃなかったら知らなかったし。坊はそういうのでお前たちのことを除け者にするやつじゃねーよ。立場上言えないだけだ。それはお前も分かってんじゃね?」
グレンツェンはちゃんとヴァールがレッヒェルンを信頼してるということを遠回しに分からせる。レッヒェルンも残念がるが、納得した。
「グレン……僕はレッヒェとビリーに言いたいけど、ダメかな?」
「は?! いや、ダメだろ! もしかしてもしかしなくても、国家を揺るがすかもしんねーんだぞ?!」
主人の意外な発言に、グレンツェンは目を白黒させる。
「この二年間、二人の誠実な人柄を側で見てきて、信頼における人だと分かった。もし……もし僕が家臣を持つなら、この二人に側で支えて欲しいんだ。まず主君が信用しなかったら、家臣に信用はされないよ」
ヴァールらしい、全てを包むような慈愛の笑みを浮かべた。
「分かったぜ。まぁ、坊の敵になったらお前たちだとしても殺ることは躊躇わねーから、そこんとこよろしくな!」
脅しを利かせるあたりグレンツェンらしく、ヴァールたち三人は笑ってしまう。折角脅したのに笑われ、グレンツェンは不貞腐れた。
念の為に、半径一メートルに音を遮断するバリアを張り、外に音が漏れないようにする。
「僕の好きな人は……プリンツェッスィン王女だよ。彼女が生まれて、彼女を初めて見た時から好きなんだ。雛が初めて見たものを親と認識するかのように懐いてきてね。すっごく可愛いの。目に入れても痛くないってこのことなんだなって実感するよ。出来れば結婚したいと思ってる。まだ両親たちには僕たちのこと言えてないんだけど……国民の成人年齢である十八歳を迎えたらちゃんと言おうと思ってるんだ」
少し目を伏せながら、顔を赤らめる目の前の美しい青年を三人が見つめた。グレンツェンはヴァールがプリンツェッスィンを好きなことは前々から知っていたが、初めて好きになったきっかけを知り、驚愕する。残る二人もまさか生まれたばかりの赤子を好きになるという衝撃的な内容に色々思うところがあるが、僕たちのことという言葉から二人は両思いなのだろうと推測し、親友が好きな人と両思いでいることを心から祝福した。
「王女もヴァールのことが好きなのでしょう? 従兄妹なので違法ではないですし、親友の私から見てもヴァールはとても優秀で将来の王として申し分ありません。寧ろ何故そうなのに御両親たちに言わないのかが謎ですよ。王女もそろそろ婚約者を決めなきゃいけなくなるでしょう? 婚約者が決まる前に言わなくてはややこしくなりますよ」
ビブリオテークに痛いところを突かれ、ヴァールは空笑いをする。
「ん~。何か……言っちゃダメな気がするんだ。何となくなんだけど、お父様つまり現王も、父上もどことなく僕がツェスィーつまりプリンツェッスィン王女を異性として見ることを嫌がるんだよ。小さい時は、可愛い娘が取られるのが嫌なのかなって思ってたんだけど、あの二人がそんなちっちゃい事でそうするとは思えないし……。何かあるのかなって。僕やツェスィーに言えない何かがあるんだと思う。だから、今は言えないんだ」
この世の女性で落ちない女、ヴァールが望めば添い遂げられない女は居ないだろうと謳われる男でも、添い遂げるのが難しい女性がいることを知り、三人は黙り込んでしまう。良い言葉、かける言葉が思いつかず、黙り込んでしまうほど三人にとってヴァールは大切な友達であった。
「今度ツェスィーに会ってみる? グレンは毎日会ってるけど、二人は姿絵しか見たことないでしょ? 姿絵より何億倍も可愛いんだよ!」
場の空気が重くなったのを感じたヴァールは明るい話題を提供しようとする。
「もし……もしヴァールがプリンツェッスィン王女と添い遂げるのが難しくなったら、私は全権力、財と己の能力を駆使して、力になります」
「俺も、お貴族様よりある財と、人脈の広さを駆使して協力するぜぇ!」
「坊! 俺は、反対するやつ皆殺しにしてやるから安心しろよ!」
ビブリオテーク、レッヒェルン、そしてグレンツェンの温かい言葉を聞き、ヴァールは胸がいっぱいになった。
「ありがとう……僕は君たちを親友に持てて、世界一の果報者だよ」
目に涙をうかべるヴァールに三人は抱きつく。十五の青年たちがじゃれてる姿はとも微笑ましく、音を遮断し姿しか見えない周りの生徒、特に女生徒たちは黄色い声を上げるのだった。
7
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる