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第14話:「覚悟」
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沼地に飛び、『Touyaについて熱く語るスレ』を覗くと、皆いつも通りライブの感想などを書き込んでいたが、その中にこんな投稿があった。
【速報】Touya、特定の女にかまけて他ファンガン無視
その下には、同タイトルの別スレッドへのリンクがあった。呼吸が浅くなるのを感知しながら、勢いでタップした。
・Touyaがさっきクアトロ前で依怙贔屓した女の見た目とか欲しい奴おる?
・愚問、さっさと晒せ
・待ってよ、そういうのってどうなの?
・どうなのも何もねーよ、祭りだ祭り!
・黒髪ストレート、セミロング、身長は低め、化粧とかしてないっぽくて服もダサかったし、もさい印象。
・もさいって草! Touyaそんなん好みだったんかw
・歳は? これでおばはんだったら大草原不可避なんだが
・若かったよ、二十歳以上なんだろうけど、落ち着いてるっていうか老けてたw
・とっちのリア友じゃなくて? もしそうだったらおまえA級戦犯だぞ
・出待ちと常連と一緒だったからダチではない説
・誰か、その女の画像か動画あげろ。どうせ撮ってんだろ
頭が真っ白になった。
私は、私はただ——
その時、新たな投稿が表示された。
・その女、新宿LOFTの時のと同じ奴?
・それ俺も思ってた!
・え、ごめん新規だから分からん
・年明けにメイデイズの前座やった時、他ファン無視でとっちと長話してた女
・あの時も相当荒れたけど、今回はそれ以上だろ。Touyaが自分から行ったんだし
・つか、出待ちしてる時点で全員充分厄介ファンなんだが
・とっちガチ恋勢はガチギレだろうなw
・このスレ立てたのもジャラッたガチ勢だろ?
・いずれにせよ、その女は出禁にすべき。ライブとか来ないで欲しい
・とっちに限らずアーティストと知り合いってマウント取るとか痛すぎる
・Touyaのヤリ友だったんじゃね? 他ファンにバレるとマズいから逃げたとか
そこからさらに増え続ける書き込みは、私の眼には写っていたが、私の中には入ってこなかった。どうやって帰宅したかも覚えていない。ただ自室に戻って部屋のドアを閉めた瞬間、私はベッドに身投げし、爪の伸びた指で頭をがしがしと搔きむしった。喜怒哀楽からはみ出した全ての感情が全身を満たし、何度も枕に拳を振り下ろした。いつの間にか溢れていた涙がシーツに飛ぶ。
悔しかった。叫びたかった。
違う違う違う! 私はヒズメさんのファンだけど、最初は『文学の話ができる人』として知り合ったのだ。
私の不幸はヒズメさんの音楽に魂を捕まれてしまったことだ。もしあのままヒズメさんの音楽を聞かずに単なる読書家仲間というポジションにいれば、こんな根も葉もない、馬鹿げた攻撃を受けることはなかったかもしれない。だがそれはもはや変えられない事実だ。分かっている分かっている分かっている!
どれくらいの間、そうやって枕を痛みつけていたか覚えていない。
しかし、もう腕を上げることも増え続ける沼地の書き込みを視認することもできなくなった私の中に、ひとつ、確固たる意思が生まれた。
——私は、こいつらとは違う。
好き勝手言ってる連中のほとんどは、おそらくヒズメさんに存在を認知もされていないだろう。啓夏さんのように。
でも私は違う。
友人とまではいかなくても、読書という共通の趣味があり、ギュスターヴ・マルのファンであり、少しだが二人きりで話した時間が確かに存在している。
そう、ヒズメさんの中に、私は、静井洸は確かに存在している。
私は、こんな奴らと一緒にされたくない。
ただただそう強く思い、その夜はそのまま眠りに落ちた。
【速報】Touya、特定の女にかまけて他ファンガン無視
その下には、同タイトルの別スレッドへのリンクがあった。呼吸が浅くなるのを感知しながら、勢いでタップした。
・Touyaがさっきクアトロ前で依怙贔屓した女の見た目とか欲しい奴おる?
・愚問、さっさと晒せ
・待ってよ、そういうのってどうなの?
・どうなのも何もねーよ、祭りだ祭り!
・黒髪ストレート、セミロング、身長は低め、化粧とかしてないっぽくて服もダサかったし、もさい印象。
・もさいって草! Touyaそんなん好みだったんかw
・歳は? これでおばはんだったら大草原不可避なんだが
・若かったよ、二十歳以上なんだろうけど、落ち着いてるっていうか老けてたw
・とっちのリア友じゃなくて? もしそうだったらおまえA級戦犯だぞ
・出待ちと常連と一緒だったからダチではない説
・誰か、その女の画像か動画あげろ。どうせ撮ってんだろ
頭が真っ白になった。
私は、私はただ——
その時、新たな投稿が表示された。
・その女、新宿LOFTの時のと同じ奴?
・それ俺も思ってた!
・え、ごめん新規だから分からん
・年明けにメイデイズの前座やった時、他ファン無視でとっちと長話してた女
・あの時も相当荒れたけど、今回はそれ以上だろ。Touyaが自分から行ったんだし
・つか、出待ちしてる時点で全員充分厄介ファンなんだが
・とっちガチ恋勢はガチギレだろうなw
・このスレ立てたのもジャラッたガチ勢だろ?
・いずれにせよ、その女は出禁にすべき。ライブとか来ないで欲しい
・とっちに限らずアーティストと知り合いってマウント取るとか痛すぎる
・Touyaのヤリ友だったんじゃね? 他ファンにバレるとマズいから逃げたとか
そこからさらに増え続ける書き込みは、私の眼には写っていたが、私の中には入ってこなかった。どうやって帰宅したかも覚えていない。ただ自室に戻って部屋のドアを閉めた瞬間、私はベッドに身投げし、爪の伸びた指で頭をがしがしと搔きむしった。喜怒哀楽からはみ出した全ての感情が全身を満たし、何度も枕に拳を振り下ろした。いつの間にか溢れていた涙がシーツに飛ぶ。
悔しかった。叫びたかった。
違う違う違う! 私はヒズメさんのファンだけど、最初は『文学の話ができる人』として知り合ったのだ。
私の不幸はヒズメさんの音楽に魂を捕まれてしまったことだ。もしあのままヒズメさんの音楽を聞かずに単なる読書家仲間というポジションにいれば、こんな根も葉もない、馬鹿げた攻撃を受けることはなかったかもしれない。だがそれはもはや変えられない事実だ。分かっている分かっている分かっている!
どれくらいの間、そうやって枕を痛みつけていたか覚えていない。
しかし、もう腕を上げることも増え続ける沼地の書き込みを視認することもできなくなった私の中に、ひとつ、確固たる意思が生まれた。
——私は、こいつらとは違う。
好き勝手言ってる連中のほとんどは、おそらくヒズメさんに存在を認知もされていないだろう。啓夏さんのように。
でも私は違う。
友人とまではいかなくても、読書という共通の趣味があり、ギュスターヴ・マルのファンであり、少しだが二人きりで話した時間が確かに存在している。
そう、ヒズメさんの中に、私は、静井洸は確かに存在している。
私は、こんな奴らと一緒にされたくない。
ただただそう強く思い、その夜はそのまま眠りに落ちた。
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