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第12話:「殺意」
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その後のライブは言うまでもなく最高だった。
今回はワンマンライブだったので、約二時間、私はヒズメさんの音楽に酔いしれ、ライブの中盤に四曲、ヒズメさんがアコースティックギター一本で弾き語りをした時は、路上ライブも見てみたかったと思い、再びバンド編成で最後まで突っ切った後半は、私も思わずリズムに乗ってしまった。
終演後、啓夏さんと合流できたので、一緒にパルコの一階に降り、ヒズメさんや他のメンバー、スタッフが現れるのを待った。同じ目的と思われる女子群が四名いて、『とっち最高!』、『ステージで人格変わるの凄い!』、『何回見ても飽きないよね!』と語り合っていた。
「やっぱファン層変わったなぁ」
啓夏さんが呟くように言った。
「ストリート・ライブ時代は、もっと男の子が多い印象だったよ。Touyaはそこそこ顔が良いから、これからますます顔ファン増える気がする」
「顔ファン?」
また知らない単語が飛び出したので聞き返す。
「Touyaの音楽性じゃなくて、見てくれだけで判断してファンって名乗る女性陣」
小声でそう言う啓夏さんは、その『顔ファン』なる存在に忌避感を抱いているようだった。
「でも、ファンが増えるのは良いことじゃないんですか?」
「どうだか。私は顔ファンの大量発生で日和ったバンド、いくつも見てきたし。まあ、Touyaなら顔ファンにも他のファンにも平等に接してくれると思うけどね」
やはり昔から見ている人には分かるのだな、と感心していたら、階段側にいた女子四名が『来た!』と叫んで飛び出していった。
「私たちも行こ! なんかあったら頼ってくれいいから」
「ありがとうございます」
屋外に出てみると、どうやらパルコの館内のみならず道路で待っていたファンもいたようで、ヒズメさんやベースのショウさんとドラムのタケルさんもファンに囲まれていた。
言われてみれば確かに女子が多いが、男性も皆無ではなかった。
啓夏さんは、
「Touyaのとこ行こうか。一応、暗黙の了解みたいに、他ファンがサインとかもらってる時に乱入するのはNGだから」
私は何度も頷き、啓夏さんの後を追った。ヒズメさんは、先ほどの女子達ににこやかに対応しており、その後ろにはカップルと、ひとりで待っている女性がいた。
名残惜しげに女子グループがヒズメさんから離れたその時、『それ』は起こった。
「あっ!」
こちらを見たヒズメさんが、大声を挙げて手を振ってきたのだ。
その瞬間、前方のみならず、ヒズメさんの周囲にいた人々がばっと振り返り、私たちを見た。
嫉妬で満ちた無数の視線に、私は殺されたと思った。
針のむしろならぬ、視線の、敵意のむしろ。心底恐怖した。それほどまでに、彼らの眼は不吉に輝いていた。
そんな私の心情も知らず、ヒズメさんは待っていたファンに謝罪して、私と啓夏さんの前まで来てしまった。
「Touya、久しぶり!」
啓夏さんがヒズメさんにそう声を掛けたが、ヒズメさんは戸惑った顔をして、
「あ、あのすみません、俺、人の顔覚えるの苦手で……。前にライブにいらしてた方でしょうか?」
ピシリ、と、啓夏さんの表情が凍り付く音がした。
——これは、マズい。
いくらライブ初心者の私でも、事態の危険性は理解できた。
「また来てくれたんですね! 今日はどうでした?」
そうヒズメさんは私に声を掛けてきたが、明らかに周囲の雰囲気が剣呑になり、邪気に満ちてきていた。
啓夏さんを含むファン全員の視線が、敵意が、悪意が、私の脳内を完全に支配していて、私はかくかくと顎を揺らすことしかできず、ヒズメさんが心配げに「大丈夫ですか?」と私の顔を覗き込んできたので、ただ「ごめんなさい」とだけ小声で発し、踵を返して走り出した。
今回はワンマンライブだったので、約二時間、私はヒズメさんの音楽に酔いしれ、ライブの中盤に四曲、ヒズメさんがアコースティックギター一本で弾き語りをした時は、路上ライブも見てみたかったと思い、再びバンド編成で最後まで突っ切った後半は、私も思わずリズムに乗ってしまった。
終演後、啓夏さんと合流できたので、一緒にパルコの一階に降り、ヒズメさんや他のメンバー、スタッフが現れるのを待った。同じ目的と思われる女子群が四名いて、『とっち最高!』、『ステージで人格変わるの凄い!』、『何回見ても飽きないよね!』と語り合っていた。
「やっぱファン層変わったなぁ」
啓夏さんが呟くように言った。
「ストリート・ライブ時代は、もっと男の子が多い印象だったよ。Touyaはそこそこ顔が良いから、これからますます顔ファン増える気がする」
「顔ファン?」
また知らない単語が飛び出したので聞き返す。
「Touyaの音楽性じゃなくて、見てくれだけで判断してファンって名乗る女性陣」
小声でそう言う啓夏さんは、その『顔ファン』なる存在に忌避感を抱いているようだった。
「でも、ファンが増えるのは良いことじゃないんですか?」
「どうだか。私は顔ファンの大量発生で日和ったバンド、いくつも見てきたし。まあ、Touyaなら顔ファンにも他のファンにも平等に接してくれると思うけどね」
やはり昔から見ている人には分かるのだな、と感心していたら、階段側にいた女子四名が『来た!』と叫んで飛び出していった。
「私たちも行こ! なんかあったら頼ってくれいいから」
「ありがとうございます」
屋外に出てみると、どうやらパルコの館内のみならず道路で待っていたファンもいたようで、ヒズメさんやベースのショウさんとドラムのタケルさんもファンに囲まれていた。
言われてみれば確かに女子が多いが、男性も皆無ではなかった。
啓夏さんは、
「Touyaのとこ行こうか。一応、暗黙の了解みたいに、他ファンがサインとかもらってる時に乱入するのはNGだから」
私は何度も頷き、啓夏さんの後を追った。ヒズメさんは、先ほどの女子達ににこやかに対応しており、その後ろにはカップルと、ひとりで待っている女性がいた。
名残惜しげに女子グループがヒズメさんから離れたその時、『それ』は起こった。
「あっ!」
こちらを見たヒズメさんが、大声を挙げて手を振ってきたのだ。
その瞬間、前方のみならず、ヒズメさんの周囲にいた人々がばっと振り返り、私たちを見た。
嫉妬で満ちた無数の視線に、私は殺されたと思った。
針のむしろならぬ、視線の、敵意のむしろ。心底恐怖した。それほどまでに、彼らの眼は不吉に輝いていた。
そんな私の心情も知らず、ヒズメさんは待っていたファンに謝罪して、私と啓夏さんの前まで来てしまった。
「Touya、久しぶり!」
啓夏さんがヒズメさんにそう声を掛けたが、ヒズメさんは戸惑った顔をして、
「あ、あのすみません、俺、人の顔覚えるの苦手で……。前にライブにいらしてた方でしょうか?」
ピシリ、と、啓夏さんの表情が凍り付く音がした。
——これは、マズい。
いくらライブ初心者の私でも、事態の危険性は理解できた。
「また来てくれたんですね! 今日はどうでした?」
そうヒズメさんは私に声を掛けてきたが、明らかに周囲の雰囲気が剣呑になり、邪気に満ちてきていた。
啓夏さんを含むファン全員の視線が、敵意が、悪意が、私の脳内を完全に支配していて、私はかくかくと顎を揺らすことしかできず、ヒズメさんが心配げに「大丈夫ですか?」と私の顔を覗き込んできたので、ただ「ごめんなさい」とだけ小声で発し、踵を返して走り出した。
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