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幻想即興諧謔小説

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「ほんっとエユって天然だよねぇ~!」
「うんうん、リマと付き合い始めてから特に!」
「文字通りのバカップルなの鬼笑えるしぃ!」

 好き勝手言え。何とでも言え。俺にはリマくんが必要なんだよこのマザー◎ァッカーどもが。俺の粉骨砕身の演技、見抜けないおまえらマジSHITTY, 抗生物質漬けの豚どもが、ってこれはレディオヘッドの歌詞からの引用だがな。趣味が悪い? ほざけPIGGY, っておい、これはナイン・インチ・ネイルズの曲タイトルだ。趣味が古い? ほざけほざけ、俺は天然キュートで人生をボケに全フリされた大学生男子・リマくんに夢中なんだよ、見りゃ分かるだろが、このFXXKING WXXXXRSがっ。おっと失礼、これはエゲレスのスラングだ、アメリカ英語の使い手であるキミには通じないね!

「ぇえええぇぇ? あたしそんなんじゃないよぉ、リマの方がバカでしょ~?」

 嗚呼、なんて甘ったるい声を発しているんだ俺は。情けない、情けないがこれが大学生活(と書いて『ヘルズ・キッチン』と読め!)をサヴァイブする唯一の術、処世術なのだ。
 しかしなぁ、これが今後シューカツとかそういう類の諸々エブリデイを経て、『新社会人』なんて呼ばれながらこの狭い日本社会の歯車に相成ることになるのかね、この流れだと。憂鬱、そして遺憾である、実に、実に。

 でもリマくんと一緒に歩む道なら俺ちゃん張り切っちゃうんだからぁ🎵

 とかいう宣言が我ながらツンドラ気候だ。極寒の奇行だ。何なら極光オーロラだ。
 ファッション誌を捲りながら、ええ~このシャドウより云々、こっちのワンピの方が云々、世のおなごどもは流行り廃れに過敏で過敏で敏感肌。一方で、美白命の女子もおれば日サロ通いをルーティンにしとる女子もおる。ハラショー! 我々日本人は白人に憧れたり黒人に憧れたり日々忙しい。毎日がエブリデイとはこのことだ。


 ん? 何故一人称が「俺」かって? 口汚いって? 英語混ざるって? そんな些末なcrapいちいち気にするキミも相当ヒマ人だなぁ。詮索好きか。好奇心の鎌足かまたりか。めんどくせぇんだよそういうの。

 あに図らんや、well, まあ致し方ない。正直に白状すりゅっ!
 俺はこのエユとかいうJD(女子大学生の意味らしい)の脳室に何故か入り込んでしまった男だ。歳は三十八、別に疲れたサラリーマンでトラックに弾かれたとかじゃない。俺だってどうせ転生するんだったら異世界が良かったよ! そりゃもう!! スライムでも何でも良かった!!
 
——こう言うと三十八歳男性(本名:桜坂さくらざかエディ)(母親がアメ人なんよ)(親父は神戸出身の日本人)(生来のバイリンガル、帰国子女というスペックを有効活用できなかった方の帰国子女)がその人生に苦悩くのう懊悩おうのう藤原ふじわら基央もとおを抱えていたように聞こえるだろうが、実のところそうでもなかった。

 フツーに日本の大学出てから親父の花屋で働きつつ in TOKYO, 親父が資格とか獲って独立しろとか言い出すから、まあまあ俺もお花や植物のこと好きやし、ええよ、となって、フツーにおしゃんな、小さいけど真心こめて仕事しとりますけど、的なフラワーショップを回していたさ。

 何がきっかけだったのかは、思い出せない。
 啓示だとか交通事故だとかそういうイベントは、俺の記憶には皆無。そもそもなんで脳なのか、しかも何故俺は自分が『脳室』なんていう奇っ怪な場所に入り込んだのか、つか脳室ってなに? 少なくとも前頭葉ではない、みたいな自覚があるのか、それすら分からない。本物のエユの精神とか人格? はどこに行ってしまったのか、逆に俺の身体はどうなっているのか、や、いやいやいやいやいや、考えたくもない。考えたらALL OVER, Happy ever after? その可能性は低い。

 つまり俺は考えるのを辞めた。

 エユになりきって、リマくんと一緒にいたいのだ。あのまりもみたいな天然パーマで元の俺(本来の桜坂エディ、身長182㎝)よりも18.5㎝も背が低くて垂れ目でにょろにょろ動く若者に、エユ同様、俺は『ぞっこん』なのである。別に同性愛者ではなかったが、もともとそういう系、人類皆平等に大好きなアレ系の感情・欲望・理想なんてものはなく、いつも友人知人や異邦人や地球人に「YOUは淡泊すぎる! 恋をしろYO! 恋が行為に聞こえるようになれ!」等という言葉を投げつけられていたこの俺が、リマくんに恋をしてしまった。バカすぎて。天然かわいい、ボケがかわいい、音痴なの可哀想、可哀想はかわいいと同義、かわいいは絶対的なジャスティス。これは俺の実質的な初恋とも言えるかもしれぬ。ぬぬぬ。ぬ~、といえば俺はあのバンドが大好きだ。Meh, whatever!

 しかしだ、問題はここからなのだ。

 俺こと桜坂エディとエユなる女子、もし万が一、何らかの弾みで元の状態に戻ったら、これ至極困る。何故ってリマくんはエユが大好きなのだ、絶望的なまでに! そこに俺みたいなおっさんが現れたら……嗚呼、そんなこと想像したくもない……。俺は永遠にここに居座ってリマくんと生涯を共にしたい……。

 そんなわけで、俺は永遠の愛を表明するために、リマくんにドジョウのおでんを食べに行こう、と言ってみた。

 ら、

——は? 何それ、何のおでん?

 という天然プリティ無知なアンサーが来た。やっぱりリマくんは物事を知らないなぁかわいいなぁモユスカワユス、なんて死語を内心で垂れ流していたのだが。

 が。

 先ほど俺は「異世界に転生したかった」と言った。確か。言ったよね, right?
 あまりにも俺の世界線と似すぎていて最初は気づかなかったのだが、

——あ、ここやっぱ異世界やわ。

 そう悟った。

 どうしてかって? 

 だってこの世界にはのだ! 

 セブンのおでんはあるのにそこにドジョウが入っていないのだ!! セブンほどの大手が何たるザマだ、と思ってファミマやローソンやガチのおでん屋を何十軒も巡りに巡り、このまま輪廻転生しちまうんじゃねえかってほどぐるんぐるんの疲労困憊、既に満身創痍だ! さあさあどうする俺ぇぇぇええええ?!

(ぜえはあ)(カラダは20歳でも中身はおっさんだから疲れるんだわ)

 ドジョウのおでん無しでどうやってこの愛をパブリックに宣言する? 俺は顔色をPale Blueにして米津玄師もビックリのド派手なインナーカラー入れて周囲の女子群からドン引きされたくなった。いや、今ならカミュの「異邦人」の主人公の気持ちが分かる。本気で。

「エユ! 一緒に帰ろっ!!」

 リマくんがこうして情け容赦なくバックハグしてきてくれて、嬉しくて涙腺が決壊、けったいな結界が解かれ、嗚呼、つか『バックハグ』って和製英語にしても酷すぎるだろ……、なんて脳内で現実逃避しないとマジでリマくんと結ばれない……と項垂れるのである。あ、俺はそもそも脳内にいるんだった。Oh boy...

 どうすんだよ、マジで。ドジョウのおでんがない世界で、俺はどうしたらエユに成り代わってリマくんと生涯を共にできる? 

「もうおでんが美味しい季節だねぇ、エユは大根好き? オレはね、アレが好き! 何だっけ、あの、はんぺんみたいなやつ!」

——いや、それは普通にはんぺんだろ。かわいい。かわよ。きゃわ、やばきゃわ。
 
 でも、俺が本当に喰いたいドジョウのおでんが、この世界には存在しない……。

「ええ~それ、はんぺんでしょぉ? リマくんホントにボケボケだねぇ。あ、そういえば、『異邦人』の主人公って、ビーチが暑かったからってだけで人殺したんだっけ……?」
「ん~? いほーじん? どしたの、エユ」
「えぇぇぇえ、ちょっと思い出したことがあってぇ。リマくんさ~、今度一緒に海行かない? 一緒に砂浜歩きたいぃ」
「ビーサンだ! ビーサン持ってく! 行こう行こう!!」

——神様、この世界の神様、もう俺にはこれしかないと思うんです。


                                  【了】
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