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俺のように妙な感覚に襲われている人間は少なくないらしく、最近若者の中で増えていると聞いた。それでも動けるから、働けるから、笑えるから、といった理由で、この現象はさして問題視されていなくて、むしろネットやスマホへのバッシングの理由として利用されているように俺は思う。SNSに熱中した結果だとか、他者と相対して話す機会が減っているからだとか、ネットとリアルの区別が付かなくなってるからだとか、色々言われているけども、俺は、そう俺は、この感覚は、物心ついた時からあって、不便だとは思うし心許なくもなるけど何というか、人間ってそういうもんじゃないのかと呑気に思う。
この駅前の目抜き通りには八百屋や果物屋、肉屋や魚屋が並んでいるんだけど、俺はどうしてもスーパーで買い物を済ませてしまう。最たる理由はその利便性で、多分八百屋とかを利用した方が経済的なんだろうけど、俺はそんなに食べる方ではないのでキャベツ丸ごととか大根一本とかで売られてしまうと食べ切る前にだめにしてしまう気がする。というか過去にあった。あと嫌というほど人目に晒されたもの、しかも恐らくは何名かが手にとっているものを食うという行為が単純に嫌だったりする。まあそれはスーパーでも同じなんだろうけど、スーパーの方が殺菌・除菌されている印象があるというか、人間味が少ないじゃないか。人間が作ったものを食う人間のくせに俺は、食料に無機質さを求めがちだ。匿名性を求めがちだ。理由は分からないけど。今日も仕事帰りにスーパーに足を運ぶ。
夕飯前のピークを過ぎた店内ではあの音楽が鳴っていて、俺と同じように疲れた顔で牛肉の安いパックを探す女性や、総菜を袋に突っ込むスーツ姿の男が居て、品物の在庫はどこかいつもより少なめで、空間を照らす蛍光灯のけばけばしい光が矢のように客を貫いていた。そういえば眉毛の太い女子はあの時しか見かけていない。緑のかごを手にレジに並ぶ。五十代くらいの白髪交じりの女性店員がせかせかと商品を処理していて、でもその顔にはあまり馴染みがなくて、よくよくネームプレートを見ると『実習生』とあった。前の客が釣り銭を受け取ってレジの向こうに解放され、俺は一歩前に進む。額に深い筋が三本走っていてほうれい線も目立つおばさんは、品物を一つ一つ丁寧に手に取り、機械にかざしてピッピとやって、その目は結構必死、値段を告げる声は少し固かった。会計を済ませてかごを持つと、隣のレジから三十前後の別の店員がやってきて、実習生のおばさんに何やら指示を出し、おばさんはこくこく頷きながら、はい、やりました、次はこっちですよね、サービスカウンターに確認、ええ分かりました、と応じる。それを尻目に品物をレジ袋に入れ、店の外に出た途端寒さに意識のほとんどを奪われた。
アパートに戻って簡単に夕食を作ってそれを食い、ベッドの枕元には相変わらず本、文庫本が山積していて、そろそろ新しい本棚を買ってもいいかなと思いながら洗い物を済ませる。窓際のスピーカーからはミューズの古いアルバムが流れていて、その時俺は、今、というものがまた途切れたような気がして、このアルバムを再生したのはいつだったっけと首を捻る。
よく、人生を道に喩えることがあるけど、俺にはいまいちぴんとこないのだ。俺の足跡、俺の記憶、それらは断片的であって断続的であって点のようであって、そう易々と一本につなぐことは出来ないように思う。今俺は、この部屋のベッドの横に座っていて、満腹で、音楽を聞いていて、でもどうしてその姿を真横から眺めているような、これ、この違和感。俺は、記憶とか思い出とか、人類の大多数が大事に抱えて生きているものを、案外落としているのかもしれない。
この駅前の目抜き通りには八百屋や果物屋、肉屋や魚屋が並んでいるんだけど、俺はどうしてもスーパーで買い物を済ませてしまう。最たる理由はその利便性で、多分八百屋とかを利用した方が経済的なんだろうけど、俺はそんなに食べる方ではないのでキャベツ丸ごととか大根一本とかで売られてしまうと食べ切る前にだめにしてしまう気がする。というか過去にあった。あと嫌というほど人目に晒されたもの、しかも恐らくは何名かが手にとっているものを食うという行為が単純に嫌だったりする。まあそれはスーパーでも同じなんだろうけど、スーパーの方が殺菌・除菌されている印象があるというか、人間味が少ないじゃないか。人間が作ったものを食う人間のくせに俺は、食料に無機質さを求めがちだ。匿名性を求めがちだ。理由は分からないけど。今日も仕事帰りにスーパーに足を運ぶ。
夕飯前のピークを過ぎた店内ではあの音楽が鳴っていて、俺と同じように疲れた顔で牛肉の安いパックを探す女性や、総菜を袋に突っ込むスーツ姿の男が居て、品物の在庫はどこかいつもより少なめで、空間を照らす蛍光灯のけばけばしい光が矢のように客を貫いていた。そういえば眉毛の太い女子はあの時しか見かけていない。緑のかごを手にレジに並ぶ。五十代くらいの白髪交じりの女性店員がせかせかと商品を処理していて、でもその顔にはあまり馴染みがなくて、よくよくネームプレートを見ると『実習生』とあった。前の客が釣り銭を受け取ってレジの向こうに解放され、俺は一歩前に進む。額に深い筋が三本走っていてほうれい線も目立つおばさんは、品物を一つ一つ丁寧に手に取り、機械にかざしてピッピとやって、その目は結構必死、値段を告げる声は少し固かった。会計を済ませてかごを持つと、隣のレジから三十前後の別の店員がやってきて、実習生のおばさんに何やら指示を出し、おばさんはこくこく頷きながら、はい、やりました、次はこっちですよね、サービスカウンターに確認、ええ分かりました、と応じる。それを尻目に品物をレジ袋に入れ、店の外に出た途端寒さに意識のほとんどを奪われた。
アパートに戻って簡単に夕食を作ってそれを食い、ベッドの枕元には相変わらず本、文庫本が山積していて、そろそろ新しい本棚を買ってもいいかなと思いながら洗い物を済ませる。窓際のスピーカーからはミューズの古いアルバムが流れていて、その時俺は、今、というものがまた途切れたような気がして、このアルバムを再生したのはいつだったっけと首を捻る。
よく、人生を道に喩えることがあるけど、俺にはいまいちぴんとこないのだ。俺の足跡、俺の記憶、それらは断片的であって断続的であって点のようであって、そう易々と一本につなぐことは出来ないように思う。今俺は、この部屋のベッドの横に座っていて、満腹で、音楽を聞いていて、でもどうしてその姿を真横から眺めているような、これ、この違和感。俺は、記憶とか思い出とか、人類の大多数が大事に抱えて生きているものを、案外落としているのかもしれない。
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