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11 荒野
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洗濯機を開発した人は凄いと思う。
文明の発達は、一般人からしてみればシンギュラリティといって差し支えない程に進んだ。家電や携帯は毎年毎年新しいものが出てくるし、その度に意味のわからない先進機能が追加される。
去年あたりに寄付でもらったこの洗濯機もそうだ。メンテナンスや洗剤の投入が不要な乾燥機付きの大型タイプ。
正直いらないものは多く積んでいる。だけどそれは技術力のショーケースとしての役割も持つから、たぶんいるものなんだと思う。
その裏にある、人間の真の姿はここに来るまで知らなかった。
「よっこらせ」
「おばさんかよ」
「うるさいわね」
爽伸のかけ声を未咲はくすくすと笑う。
二人は屋上に出た。洗濯物はここで干すことに決められていた。
シーツを半分に折って物干し竿にかけて並べると、グレイテスト・ショーマンでバーナムとチャリティが踊るあのシーンみたいになる。
「なんかいいわねこういうの」
「まあ青春ってかんじ」
「公立中の制服より地味な服だけどね」
BADROOMの制服を嘆く未咲。でもよく似合っていると思う。
ここのところ続いていた雨もすっかり上がり、快晴と雨後の涼しさで、なんとも爽やかな昼下がり。
爽伸は洗濯かごを重ねて持つ。
そのまま湿っぽい階下へくだった。
その夜だった。
突然、警察がBADROOMへ入った。
「動くな!!」
夜、子どもたちを風呂に入れている一部の職員以外はこの時間事務室で支出や人数の計算作業に勤しんでいる。そのさなかの出来事だった。
「高度保育施設所長、上小田井彰人と新瑞橋未咲を虐待とそのほかの容疑で逮捕する」
警官は奥にいる上小田井を睨んでいった。その後で、別の警官が上小田井と、爽伸のすぐ隣にいた未咲をとらえて連れて行った。
「すみませんが、責任者の方は?」
事務室には二人の警官が残った。彼らが責任者を訊いてきたが、責任者は今そちらの仲間が連れ去った男だ。
職員たちが戸惑うのを、爽伸が破る。
「ええ、私ですが……」
「ああ、そうですか。突然すみません。逮捕状も出ているものですから」
警官はすこしずれた話題をかけてきた。
彼は書類が要るとかなんとか言っていろいろ要求してきた。べつに隠すこともないものばかりだったので即座に用意してやった。
「……え、まじか」
「まあアレで良かったんじゃないか?仮に類たちが帰ってきても平穏だし」
「たしかにね」
職員たちは一気に話し始めた。使い古された言葉を選べば、せきを切ったように。それだけ、上小田井の存在そのものが威圧的だったのだと、爽伸は気付く。
「お疲れ様で……どうしたんですか?」
子どもたちを風呂に入れ終わった職員たちも入ってくるなり、会話が飛び交う事務室に驚いて挨拶を止めてしまう。なんちゅう職場だ。
それにしても、なぜ今になって警察が動いたのかという疑問は拭えなかった。べつに虐待行為やその告発なんて今に始まったことではない。それがなぜ今?
「……まさか、」
爽伸は一人、警察を動かせる人間がいることを思い出した。
文明の発達は、一般人からしてみればシンギュラリティといって差し支えない程に進んだ。家電や携帯は毎年毎年新しいものが出てくるし、その度に意味のわからない先進機能が追加される。
去年あたりに寄付でもらったこの洗濯機もそうだ。メンテナンスや洗剤の投入が不要な乾燥機付きの大型タイプ。
正直いらないものは多く積んでいる。だけどそれは技術力のショーケースとしての役割も持つから、たぶんいるものなんだと思う。
その裏にある、人間の真の姿はここに来るまで知らなかった。
「よっこらせ」
「おばさんかよ」
「うるさいわね」
爽伸のかけ声を未咲はくすくすと笑う。
二人は屋上に出た。洗濯物はここで干すことに決められていた。
シーツを半分に折って物干し竿にかけて並べると、グレイテスト・ショーマンでバーナムとチャリティが踊るあのシーンみたいになる。
「なんかいいわねこういうの」
「まあ青春ってかんじ」
「公立中の制服より地味な服だけどね」
BADROOMの制服を嘆く未咲。でもよく似合っていると思う。
ここのところ続いていた雨もすっかり上がり、快晴と雨後の涼しさで、なんとも爽やかな昼下がり。
爽伸は洗濯かごを重ねて持つ。
そのまま湿っぽい階下へくだった。
その夜だった。
突然、警察がBADROOMへ入った。
「動くな!!」
夜、子どもたちを風呂に入れている一部の職員以外はこの時間事務室で支出や人数の計算作業に勤しんでいる。そのさなかの出来事だった。
「高度保育施設所長、上小田井彰人と新瑞橋未咲を虐待とそのほかの容疑で逮捕する」
警官は奥にいる上小田井を睨んでいった。その後で、別の警官が上小田井と、爽伸のすぐ隣にいた未咲をとらえて連れて行った。
「すみませんが、責任者の方は?」
事務室には二人の警官が残った。彼らが責任者を訊いてきたが、責任者は今そちらの仲間が連れ去った男だ。
職員たちが戸惑うのを、爽伸が破る。
「ええ、私ですが……」
「ああ、そうですか。突然すみません。逮捕状も出ているものですから」
警官はすこしずれた話題をかけてきた。
彼は書類が要るとかなんとか言っていろいろ要求してきた。べつに隠すこともないものばかりだったので即座に用意してやった。
「……え、まじか」
「まあアレで良かったんじゃないか?仮に類たちが帰ってきても平穏だし」
「たしかにね」
職員たちは一気に話し始めた。使い古された言葉を選べば、せきを切ったように。それだけ、上小田井の存在そのものが威圧的だったのだと、爽伸は気付く。
「お疲れ様で……どうしたんですか?」
子どもたちを風呂に入れ終わった職員たちも入ってくるなり、会話が飛び交う事務室に驚いて挨拶を止めてしまう。なんちゅう職場だ。
それにしても、なぜ今になって警察が動いたのかという疑問は拭えなかった。べつに虐待行為やその告発なんて今に始まったことではない。それがなぜ今?
「……まさか、」
爽伸は一人、警察を動かせる人間がいることを思い出した。
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