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本編
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協力、行動、自信。
結城が紙に書いたその三つの単語は、自分に足りないものだった。
フォロワーであり、 どこにでもいる田舎者であり、子どもである自分。
今の自分は"自分"にとっての何かじゃない。 舞鶴結城という名前を持つだけでぼんやりもやもやした毎日を浮遊するだけの人間。
協調は出来る。 ルールには従う。
だけどそれは協力とは違う。 委員会とか、部活とか、仲間と積極的な交流を持ち続けることは協調じゃない。
無くても生きていける。
だけどあったら豊かになる。
そういうものを趣味というのだろう。そしてこれまたぼんやりもやもやした奴はこれをやりたいと思う気持ちだけじゃなくて行動力を要求してくる。
そして協力し行動することには自分を信じ仲間を信じる自信も要る。自分の意見を胸を張って前に出し、 周りと合わせながらよりよいものへと推敲する力が。
結城は自分にないものを、 自分で掴み取る宣言程度に紙に書き委員長という様々な意見を身をもって体験できる役職に就いた。はず。
「じゃあクラス目標を班で作っていくんですが、 じゃあ委員長さん最初の仕事を」
はなみずきが教壇から窓際に移動しながら言う。 既に班に分けられた机の間をすり抜けながら結城はホワイトボードの前に立つ。
クラスメイトの視線はまばらで、前を見ていない生徒の方が多い。でも慣れるまでは嬉しいと思う。
結城はホワイトボードを見た。 まずはさっき班ごとでまとめたダイヤモンドランキングをクラスのダイヤモンドランキングにする。 挙手でキーワードを訊き、ホワイトボードにまとめる。
仕事を確認した結城は口を開いて初仕事を開始させた。
「じゃあダイヤモンドランキングで一位にしたい言葉ある人!」
細くもないが大して迫力もない結城の声。 クラスメイトは口々にキーワードを言いはじめる。
「はい大きな声で!」
後ろの方でずっと革命革命言っている瑞穂晴子 にはなみずきが言う。
「あっ、 内浜くん」
そこで手があがり、 結城は内浜空をあてた。
「トモ」
「どのトモ?」
「あれ、 友人の"友"」
桃寧は確認してから友とホワイトボードに書く。なにしろトモという発音は、 友、共、 知と三つもあった。
桃寧の丸い文字が殺風景な教室に書き加えられていく。 結城はなんとなく嬉しいような誇らしいような気持ちだった。
自分たちのクラスのことは自分たちで決める。
これまでの自分を変えるために就いた仕事は面白かった。どうして今までやらなかっ たんだろう的な言い回しをするほどではなくても、自分が変わるきっかけとして十分すぎると思う。
畢竟学生は大人たちに決められたことに文句を言いつつ依存し守られている身。 それは政治家と国民とは違う。 かつての絶対王政社会の王と国民とも違う。 こどもを自立させるための程よいルールは変えられる。
そう思うと、 生徒会というものも悪くないと思えた。 高校では役員になってみようか。
「お~い」
すっかりざわついたクラスメイトに静かにしようといったつもりがかわいいと声が上がった。
聴こえないふりをしながら結城はそのまま続けていく。
それからダイヤモンドランキングが完成するまでは案外早かった。結城はテレビ番組のMCにでもなったような気分で教室を見回し、意見を見落とさないようにしてい た。
「じゃあクラス目標をちょっと考えてください」
結城は言いながら、 桃寧と二人でプリントを配った。
一度席に戻り一〇分間、班ごとに目標スローガンを考える。
一位「友」
二位「挑戦」「革命」
三位「笑顔」「知」「自信」
四位 「絶」「解」
五位「共」
「友と共に知を得る、 とか!」
結城が己の国語力のなさを嘆いていると、同じ班の南山孝多がいった。
「あ、 それいい~」
御剣愛理 が賛同する。
「じゃあそれでいい?」
「さんせーい」
結城はそれを聴くと紙に書き入れた。
桃寧の班はみんなゲラゲラと大笑いしている。 フレンドリーで面白い彼女の班は面白そうなメンバーばかりだった。
桃寧と結城は再び前に立った。今度はクラス目標を決める番だ。六つの中から選ばれた一つ。 それが今年一年、 そしてこのクラスの卒業までの目標となる。
五つ挙手の投票を終えた結城は、深呼吸した。 決めるのはみんなだと言ってもやっぱ り緊張はする。
「じゃあ最後『302革命~トモとの挑戦 その先の未来へ~』 がいい人」
これは桃寧の班が考えたスローガン。というか、桃寧が考えたスローガン。
結城は挙がった手を数えていく。
一、二、三……
結城はホワイトボードマーカーで22と書いた後、 赤色で丸を付ける。
「三〇二のクラス目標はこれに決まりました」
桃寧が言った。場違いにも思える拍手が起こり、はなみずきが二人を席に戻るよう促した。
根町中学校、三年二組。
302革命~トモとの挑戦 その先の笑顔へ~
―3に続く―
結城が紙に書いたその三つの単語は、自分に足りないものだった。
フォロワーであり、 どこにでもいる田舎者であり、子どもである自分。
今の自分は"自分"にとっての何かじゃない。 舞鶴結城という名前を持つだけでぼんやりもやもやした毎日を浮遊するだけの人間。
協調は出来る。 ルールには従う。
だけどそれは協力とは違う。 委員会とか、部活とか、仲間と積極的な交流を持ち続けることは協調じゃない。
無くても生きていける。
だけどあったら豊かになる。
そういうものを趣味というのだろう。そしてこれまたぼんやりもやもやした奴はこれをやりたいと思う気持ちだけじゃなくて行動力を要求してくる。
そして協力し行動することには自分を信じ仲間を信じる自信も要る。自分の意見を胸を張って前に出し、 周りと合わせながらよりよいものへと推敲する力が。
結城は自分にないものを、 自分で掴み取る宣言程度に紙に書き委員長という様々な意見を身をもって体験できる役職に就いた。はず。
「じゃあクラス目標を班で作っていくんですが、 じゃあ委員長さん最初の仕事を」
はなみずきが教壇から窓際に移動しながら言う。 既に班に分けられた机の間をすり抜けながら結城はホワイトボードの前に立つ。
クラスメイトの視線はまばらで、前を見ていない生徒の方が多い。でも慣れるまでは嬉しいと思う。
結城はホワイトボードを見た。 まずはさっき班ごとでまとめたダイヤモンドランキングをクラスのダイヤモンドランキングにする。 挙手でキーワードを訊き、ホワイトボードにまとめる。
仕事を確認した結城は口を開いて初仕事を開始させた。
「じゃあダイヤモンドランキングで一位にしたい言葉ある人!」
細くもないが大して迫力もない結城の声。 クラスメイトは口々にキーワードを言いはじめる。
「はい大きな声で!」
後ろの方でずっと革命革命言っている瑞穂晴子 にはなみずきが言う。
「あっ、 内浜くん」
そこで手があがり、 結城は内浜空をあてた。
「トモ」
「どのトモ?」
「あれ、 友人の"友"」
桃寧は確認してから友とホワイトボードに書く。なにしろトモという発音は、 友、共、 知と三つもあった。
桃寧の丸い文字が殺風景な教室に書き加えられていく。 結城はなんとなく嬉しいような誇らしいような気持ちだった。
自分たちのクラスのことは自分たちで決める。
これまでの自分を変えるために就いた仕事は面白かった。どうして今までやらなかっ たんだろう的な言い回しをするほどではなくても、自分が変わるきっかけとして十分すぎると思う。
畢竟学生は大人たちに決められたことに文句を言いつつ依存し守られている身。 それは政治家と国民とは違う。 かつての絶対王政社会の王と国民とも違う。 こどもを自立させるための程よいルールは変えられる。
そう思うと、 生徒会というものも悪くないと思えた。 高校では役員になってみようか。
「お~い」
すっかりざわついたクラスメイトに静かにしようといったつもりがかわいいと声が上がった。
聴こえないふりをしながら結城はそのまま続けていく。
それからダイヤモンドランキングが完成するまでは案外早かった。結城はテレビ番組のMCにでもなったような気分で教室を見回し、意見を見落とさないようにしてい た。
「じゃあクラス目標をちょっと考えてください」
結城は言いながら、 桃寧と二人でプリントを配った。
一度席に戻り一〇分間、班ごとに目標スローガンを考える。
一位「友」
二位「挑戦」「革命」
三位「笑顔」「知」「自信」
四位 「絶」「解」
五位「共」
「友と共に知を得る、 とか!」
結城が己の国語力のなさを嘆いていると、同じ班の南山孝多がいった。
「あ、 それいい~」
御剣愛理 が賛同する。
「じゃあそれでいい?」
「さんせーい」
結城はそれを聴くと紙に書き入れた。
桃寧の班はみんなゲラゲラと大笑いしている。 フレンドリーで面白い彼女の班は面白そうなメンバーばかりだった。
桃寧と結城は再び前に立った。今度はクラス目標を決める番だ。六つの中から選ばれた一つ。 それが今年一年、 そしてこのクラスの卒業までの目標となる。
五つ挙手の投票を終えた結城は、深呼吸した。 決めるのはみんなだと言ってもやっぱ り緊張はする。
「じゃあ最後『302革命~トモとの挑戦 その先の未来へ~』 がいい人」
これは桃寧の班が考えたスローガン。というか、桃寧が考えたスローガン。
結城は挙がった手を数えていく。
一、二、三……
結城はホワイトボードマーカーで22と書いた後、 赤色で丸を付ける。
「三〇二のクラス目標はこれに決まりました」
桃寧が言った。場違いにも思える拍手が起こり、はなみずきが二人を席に戻るよう促した。
根町中学校、三年二組。
302革命~トモとの挑戦 その先の笑顔へ~
―3に続く―
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