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2章 友人達とそして義姉と
団体戦決着! -ホコタテ対決
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レウルがココロにより繰り出されたヨーヨーの攻撃を、右腕の爪で相手の一つのヨーヨーを絡めとったまま捌く。
『ココロ、ここは片方は捨てよう。邪魔になるだけだ』
「了解」
プレイヤーの指示通り、レウルに絡めとられたままのヨーヨーから手を離し、自身の武器を一つのヨーヨーのみに絞る。
『“スピンドル・カリバー”!』
ココロのプレイヤーが1枚のスキルを発動させた。ヨーヨー武器限定の斬撃攻撃を放つSRスキルだ。少し前にフォーラムで交換募集をかけたところ手に入れたスキル。
ヨーヨー系スキルは珍しいのかいくらガチャを回してもあまり見なかった。やはりスキルカードは運に任せて手に入れようとするより他人から確実に手に入れるに限る。あの時交換に応じてくれたプレイヤーには感謝しなくてはならない。
そしてスキルの発動と共に、ココロがボディから刃物を展開した状態のヨーヨーを放り投げる。
するとそれは回転力を増し、一回り大きなホイールソソウのような光刃と化した。ギュインギュインと鋭い回転音が響く。
「まるで拷問器具だね」
レウルが笑うが、その笑みは次に繰り出された攻撃の勢いによって消えることになる。
ココロによって繰り出された光刃がフィールドを縦横無尽に駆け回る。カオルコとレウルはそれを躱すも、読みにくいその軌道に翻弄される。
「うおおおおおお!?こええええええ!?」
『ヨーヨーが2つ残ってればもっと強力なんですけどね……。でも、これでも十分みたいだ』
ココロのプレイヤーがそう言った。
確かにこれ1つでさえ躱し続けるのが精一杯なのだ。2つあればたまったものではない。レウルとリンクしている少年、クオンも額に汗を浮かべる。
『っ……!厄介だな……』
「ど、どうしましょう……!――きゃあああああ!!」
『カオルコ!?』
空中でいきなり軌道を変えたその光刃による攻撃を、ついにカオルコは回避できなかった。
背中をザックリと斬られ、ついにHPが0になる。
「ご、ごめんなさい……。避けきれませんでした……」
『……いや、俺ももっと周りをよく見て指示を出すべきだった。すまねえ』
「……!モトカズさんが、わたしに謝った……!?うわあああああ!!わたしまた何かやっちゃいましたあああああ!?」
『おい、そんな驚くことなのか――』
場外へと弾き出されるカオルコ達。クオンはついに残りが2人ずつになったことを確認すると、自らのスキルカードに触れ、発動させる。
『言い方は悪いけど、彼女が減ったおかげで動きやすくなった。……“ランブリング・クロー”』
「キタキタキタキタアアアアアア!!」
瞬間、漆黒の爪に赤い光を灯したレウルが駆ける。
まるで心電図を描くかのようなジグザグな動きで、光刃による攻撃の嵐をかいくぐる。
「……!速い……」
「速いだけじゃない!強いぜ!」
黒い爪が先ほどよりも素早い速度で振るわれ、軌道を変えて迫る光刃を弾く。殺傷力の高いスキルを、腕を振る勢いでたやすく弾き返してしまった。
「さぁ!宣言通り、殺戮ショー、いっくぞおおおお!!」
――だが、そんなレウルの宣言通りにはいかなかったりする。
カオルコが機械兵、ズィーガを打ち破る少し前のこと。
「楽しいな、ソウハ!」
「ええ、そうですねアーメス!」
ソウハとアーメスが互いの武器をぶつけ合う。
その顔は互いに笑っていた。お互いに実力の近しい者同士が必死で己の力をぶつけ合う、それが楽しくて、笑っていた。
それは当然、双方とリンクしているプレイヤーも感じていた。
(いいぞソウハ……!戦いの喜びに震えるって王道主人公って感じだよな……!燃える……!)
(うっひゃー!ボクのナイトったら相変わらず顔と声が良いなぁ……!)
それは、我が子の頑張りを微笑ましく見守る親のような気分…………で、いいのだろうか。
とにかく、2人とも萌え……ではなかった。燃え上がっていた。
――そっちのデーヴァが強いのは分かっている。だが。
――うちの相棒の方がもっと強いということを教えてやる!
時には相手の攻撃をステップで躱し、時にはくらい、時には防ぐ。
身のこなし方ゆえに有効打はソウハが与えているものの、鎧に守られたアーメスの身体に大きなダメージを与えるのは中々容易ではない。
ここは一気にスキルで大ダメージを狙うしか、とナギサは1枚のスキルカードに触れる。
相手の盾や鎧なんかお構いなしに破壊できるであろう必殺技。至近距離の今なら、どこかには当てれるはず!
『“ザンテツ・スラッシャー”!!いっけぇ!』
ソウハの持つ武刀の刀身が鈍く輝く。
ザンテツ・スラッシャー。自らの防御力を半減させる代わりに、渾身の一撃を繰り出す破壊力重視の必殺スキル。
いかにアーメスが自慢の盾と鎧で防御しようが関係無い。それごと破壊するだけだ。
だがアーメスには“アレ”がある。それは当然ナギサもソウハも理解していた。
『“アイアース・シールド”!』
カエデがそのスキルの名を口にした途端、アーメスの持つ盾の四方が展開し、一回り大きな盾へと変形する。
盾を変形させ、自身の防御力を向上させるスキルだ。残り体力はギリギリ6割。防御力をさらに向上させるための条件も整っている。
ザンテツ・スラッシャーとアイアース・シールド。攻撃と防御に特化したそれぞれの技が、ぶつかり合う。
「はああああああああああああ!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!」
“矛盾”という言葉がある。
どんな盾でも貫き通す矛と、どんな矛でも突き通すことが出来ない盾をぶつけ合ったらどうなるか……という、中学校の古文漢文の授業で習う有名なお話が由来の、あの言葉である。
今の状況はまさにそれだな、と互いのデーヴァを操るプレイヤーは感じていた。
『ナギサ君!君たちの“どんなものでも破壊する一撃”と、ボクの“どんな攻撃でも弾き返す聖なる盾”。どちらが強いか勝負だ!』
『それ、“どんな攻撃でも弾き返す”なんて説明文でしたっけ?……まあいいや、勝つのは僕達だ!』
そして矛盾対決の結果は……こうなった。
バキイイイイイイイィン!!
大きな破壊音が轟き、ソウハの刀とアーメスの盾はそれぞれ砕け散った。そろそろ武器の強化はしておくべきだな……とナギサが一瞬気をとられた。
その隙に、アーメスが自らの西洋剣を振りかぶる。盾が破壊されても、アーメスにはまだ武器が残されていた。
『これでぇ!』
「終わりだ!」
一瞬の判断の差だった。アーメスよりも先に動けていれば、この攻撃は躱せたかもしれない。
――普段のスピードならね!
『“高速化”!』
「何ッ!?」
ナギサが再使用可能になった高速化のスキルカードに触れ、それを発動させる。
ソウハのスピードが増す。これなら一瞬、ほんの一瞬だがアーメスが行動する前にこちらが動ける。
そしてソウハは、アーメスの懐に即座に飛び込んだ。
こちらに武器は無い。アーメスの鎧を打ち破るほどの有効打は残されていない。だが、それでも無防備な部分というものはある。
「しまっ――」
自分の懐に飛び込んできたソウハがしゃがみ込んだ時、アーメスが気付いた。
鎧は纏っているものの、その顔は無防備であることに。
『いっけええええ!ソウハー!!』
「てりゃああああああ!!」
「ぐっはぁ!?」
しゃがんだ体勢から立ち直るのを利用した勢いで、アーメスの顎に渾身のアッパーカット。
高速化によってスピードが上がっているため、その一撃の素早さとキレの良さは一味違った。アーメスが天を仰ぐ。
そして――。
「それまでー!試合、終了でーす!!」
スタジアムに試合終了を告げるブザーの音と、それに少し遅れて実況の声が鳴り響いた。
見ると試合時間はちょうど「00:00」を示していた。
「いやぁー!後半からは熱戦でしたねぇ!残り人数はAチーム、Bチームともに2人!残り体力の判定へと移ります!勝者は…………Bチーム!」
実況の声と共にスタジアムの電光掲示板に『WINNER Bチーム!』と表示され、その下に『MVP:クオン&レウル』というプレイヤーとそのデーヴァの名前が続いて表れる。
「お疲れ様!!どっちも良く頑張ってたねー!」
「うおおおおおおお!!最後はBチームの逆転かよ!!」
「クソッ!!Aチームに賭けた金返せえええええ!!」
そして観客席から拍手と、称賛の声と、少しのヤジが飛んだ。
「か、勝ちました……」
『だね……』
気が抜けたのか、ペタン、とソウハがその場に座り込んだ。
そんな勝者を称えるように、アーメスがパチパチと拍手する。
「おめでとう。最後の一発は中々効いたぜ」
『今日の所は、負けにしといてあげるよ。ナイトは――』
「謙虚なんですよね」
『あっ、酷いなぁソウハちゃん。ボクの決め台詞取るなんて』
『……決め台詞だったんですか、それ。しかも前々から思ってたけど聞き覚える台詞だし。確か30年くらい前のネットスラングとかじゃ――』
ボロボロの状態ながらも互いに談笑しあうソウハとアーメス達の少し向こうで、ヨーヨー使いココロと爪使いレウルが向かい合っていた。
――さぁ!宣言通り、殺戮ショー、いっくぞおおおお!!
そんなレウルの威勢の良い台詞の後、試合終了を告げるブザーが鳴り響いたのである。スキルを強制的に解除されたレウルはその場から落下。ココロも元の状態に戻ったヨーヨーを自分の手のひらに納め、2人はなんだか不完全燃焼と言った気分であった。
こちらは談笑、という空気ではなさそうだ。レウルがむすーっとした顔をしている。
「MVP獲れたのは別にいいけど……どーせなら、決着つけたかったな」
「……殺戮ショー」
「なっ!」
ボソッと呟いたココロに対し、レウルが顔を赤くした。
観客席にアピールするかのように「これから殺戮ショーを始める」と言っておいて、結局機械兵ズィーガも、ヨーヨー使いココロのどちらも倒せなかったことが恥ずかしいのだろう。
「……あれ、いつ始まる予定だったの?」
「きょ、今日のぼく様は調子が悪かったんだよ!」
「……くすっ」
「あー!笑ったな―!」
『……そもそも、君があんなに自信満々にアピールするから恥をかくんじゃないか……。あの時点で試合終了まで3分くらいだったんだし』
溜め息を吐くようにしてレウルのプレイヤーであるクオンが言った。それに対してココロのプレイヤーである男性が苦笑する。
声からして年齢は20代後半くらいだろうか?
『まあ、でも、あのまま続けてたらこっちが危なかったかもしれません。爪を武器に戦う相手は初めて見ました。団体戦は色んなデーヴァが見れて面白いですね』
それに応えるように、クオンも小さく笑う。
『そうですね。ぼくもヨーヨー使いと実際に戦うのは初めてだった。……また機会があれば、よろしくお願いします』
こうして今回のチーム戦が閉幕しようとしていた。
スタジアムに残されたデーヴァ達は観客席に向かってお辞儀をしたり、手を振ったりして軽くアピール。
そして場外でも、互いのプレーを称え合うようにチーム内のデーヴァとプレイヤーが言葉を交わしていたが、シューマとシャルディはそそくさとその場から立ち去ろうとしていた。
「あらシューマ様。皆様の輪に混ざっていきませんの?」
「別にいい。それに他の連中も何人かは既に帰ってるだろ」
――やれやれ、慣れないな。負けるってのは。
「あらあら、随分とカッコいい呟きですこと」
「……聞いてたのか」
「シューマ様のお声ならどこにいたって聞く自信がありますわ。さーて、今日の反省会も兼ねて、やけ食いにでも行きましょうかー!コインは貰ったことですしね!」
「……そうだな。たまには電脳世界の食事に金を使うのもいいか」
――でも、お前と一緒なら負けるのもさほど苦ではない。この世界に来てからそう感じているよ。
聞かれると恥ずかしいので、今度は心の中だけでそう呟いた。
『ココロ、ここは片方は捨てよう。邪魔になるだけだ』
「了解」
プレイヤーの指示通り、レウルに絡めとられたままのヨーヨーから手を離し、自身の武器を一つのヨーヨーのみに絞る。
『“スピンドル・カリバー”!』
ココロのプレイヤーが1枚のスキルを発動させた。ヨーヨー武器限定の斬撃攻撃を放つSRスキルだ。少し前にフォーラムで交換募集をかけたところ手に入れたスキル。
ヨーヨー系スキルは珍しいのかいくらガチャを回してもあまり見なかった。やはりスキルカードは運に任せて手に入れようとするより他人から確実に手に入れるに限る。あの時交換に応じてくれたプレイヤーには感謝しなくてはならない。
そしてスキルの発動と共に、ココロがボディから刃物を展開した状態のヨーヨーを放り投げる。
するとそれは回転力を増し、一回り大きなホイールソソウのような光刃と化した。ギュインギュインと鋭い回転音が響く。
「まるで拷問器具だね」
レウルが笑うが、その笑みは次に繰り出された攻撃の勢いによって消えることになる。
ココロによって繰り出された光刃がフィールドを縦横無尽に駆け回る。カオルコとレウルはそれを躱すも、読みにくいその軌道に翻弄される。
「うおおおおおお!?こええええええ!?」
『ヨーヨーが2つ残ってればもっと強力なんですけどね……。でも、これでも十分みたいだ』
ココロのプレイヤーがそう言った。
確かにこれ1つでさえ躱し続けるのが精一杯なのだ。2つあればたまったものではない。レウルとリンクしている少年、クオンも額に汗を浮かべる。
『っ……!厄介だな……』
「ど、どうしましょう……!――きゃあああああ!!」
『カオルコ!?』
空中でいきなり軌道を変えたその光刃による攻撃を、ついにカオルコは回避できなかった。
背中をザックリと斬られ、ついにHPが0になる。
「ご、ごめんなさい……。避けきれませんでした……」
『……いや、俺ももっと周りをよく見て指示を出すべきだった。すまねえ』
「……!モトカズさんが、わたしに謝った……!?うわあああああ!!わたしまた何かやっちゃいましたあああああ!?」
『おい、そんな驚くことなのか――』
場外へと弾き出されるカオルコ達。クオンはついに残りが2人ずつになったことを確認すると、自らのスキルカードに触れ、発動させる。
『言い方は悪いけど、彼女が減ったおかげで動きやすくなった。……“ランブリング・クロー”』
「キタキタキタキタアアアアアア!!」
瞬間、漆黒の爪に赤い光を灯したレウルが駆ける。
まるで心電図を描くかのようなジグザグな動きで、光刃による攻撃の嵐をかいくぐる。
「……!速い……」
「速いだけじゃない!強いぜ!」
黒い爪が先ほどよりも素早い速度で振るわれ、軌道を変えて迫る光刃を弾く。殺傷力の高いスキルを、腕を振る勢いでたやすく弾き返してしまった。
「さぁ!宣言通り、殺戮ショー、いっくぞおおおお!!」
――だが、そんなレウルの宣言通りにはいかなかったりする。
カオルコが機械兵、ズィーガを打ち破る少し前のこと。
「楽しいな、ソウハ!」
「ええ、そうですねアーメス!」
ソウハとアーメスが互いの武器をぶつけ合う。
その顔は互いに笑っていた。お互いに実力の近しい者同士が必死で己の力をぶつけ合う、それが楽しくて、笑っていた。
それは当然、双方とリンクしているプレイヤーも感じていた。
(いいぞソウハ……!戦いの喜びに震えるって王道主人公って感じだよな……!燃える……!)
(うっひゃー!ボクのナイトったら相変わらず顔と声が良いなぁ……!)
それは、我が子の頑張りを微笑ましく見守る親のような気分…………で、いいのだろうか。
とにかく、2人とも萌え……ではなかった。燃え上がっていた。
――そっちのデーヴァが強いのは分かっている。だが。
――うちの相棒の方がもっと強いということを教えてやる!
時には相手の攻撃をステップで躱し、時にはくらい、時には防ぐ。
身のこなし方ゆえに有効打はソウハが与えているものの、鎧に守られたアーメスの身体に大きなダメージを与えるのは中々容易ではない。
ここは一気にスキルで大ダメージを狙うしか、とナギサは1枚のスキルカードに触れる。
相手の盾や鎧なんかお構いなしに破壊できるであろう必殺技。至近距離の今なら、どこかには当てれるはず!
『“ザンテツ・スラッシャー”!!いっけぇ!』
ソウハの持つ武刀の刀身が鈍く輝く。
ザンテツ・スラッシャー。自らの防御力を半減させる代わりに、渾身の一撃を繰り出す破壊力重視の必殺スキル。
いかにアーメスが自慢の盾と鎧で防御しようが関係無い。それごと破壊するだけだ。
だがアーメスには“アレ”がある。それは当然ナギサもソウハも理解していた。
『“アイアース・シールド”!』
カエデがそのスキルの名を口にした途端、アーメスの持つ盾の四方が展開し、一回り大きな盾へと変形する。
盾を変形させ、自身の防御力を向上させるスキルだ。残り体力はギリギリ6割。防御力をさらに向上させるための条件も整っている。
ザンテツ・スラッシャーとアイアース・シールド。攻撃と防御に特化したそれぞれの技が、ぶつかり合う。
「はああああああああああああ!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!」
“矛盾”という言葉がある。
どんな盾でも貫き通す矛と、どんな矛でも突き通すことが出来ない盾をぶつけ合ったらどうなるか……という、中学校の古文漢文の授業で習う有名なお話が由来の、あの言葉である。
今の状況はまさにそれだな、と互いのデーヴァを操るプレイヤーは感じていた。
『ナギサ君!君たちの“どんなものでも破壊する一撃”と、ボクの“どんな攻撃でも弾き返す聖なる盾”。どちらが強いか勝負だ!』
『それ、“どんな攻撃でも弾き返す”なんて説明文でしたっけ?……まあいいや、勝つのは僕達だ!』
そして矛盾対決の結果は……こうなった。
バキイイイイイイイィン!!
大きな破壊音が轟き、ソウハの刀とアーメスの盾はそれぞれ砕け散った。そろそろ武器の強化はしておくべきだな……とナギサが一瞬気をとられた。
その隙に、アーメスが自らの西洋剣を振りかぶる。盾が破壊されても、アーメスにはまだ武器が残されていた。
『これでぇ!』
「終わりだ!」
一瞬の判断の差だった。アーメスよりも先に動けていれば、この攻撃は躱せたかもしれない。
――普段のスピードならね!
『“高速化”!』
「何ッ!?」
ナギサが再使用可能になった高速化のスキルカードに触れ、それを発動させる。
ソウハのスピードが増す。これなら一瞬、ほんの一瞬だがアーメスが行動する前にこちらが動ける。
そしてソウハは、アーメスの懐に即座に飛び込んだ。
こちらに武器は無い。アーメスの鎧を打ち破るほどの有効打は残されていない。だが、それでも無防備な部分というものはある。
「しまっ――」
自分の懐に飛び込んできたソウハがしゃがみ込んだ時、アーメスが気付いた。
鎧は纏っているものの、その顔は無防備であることに。
『いっけええええ!ソウハー!!』
「てりゃああああああ!!」
「ぐっはぁ!?」
しゃがんだ体勢から立ち直るのを利用した勢いで、アーメスの顎に渾身のアッパーカット。
高速化によってスピードが上がっているため、その一撃の素早さとキレの良さは一味違った。アーメスが天を仰ぐ。
そして――。
「それまでー!試合、終了でーす!!」
スタジアムに試合終了を告げるブザーの音と、それに少し遅れて実況の声が鳴り響いた。
見ると試合時間はちょうど「00:00」を示していた。
「いやぁー!後半からは熱戦でしたねぇ!残り人数はAチーム、Bチームともに2人!残り体力の判定へと移ります!勝者は…………Bチーム!」
実況の声と共にスタジアムの電光掲示板に『WINNER Bチーム!』と表示され、その下に『MVP:クオン&レウル』というプレイヤーとそのデーヴァの名前が続いて表れる。
「お疲れ様!!どっちも良く頑張ってたねー!」
「うおおおおおおお!!最後はBチームの逆転かよ!!」
「クソッ!!Aチームに賭けた金返せえええええ!!」
そして観客席から拍手と、称賛の声と、少しのヤジが飛んだ。
「か、勝ちました……」
『だね……』
気が抜けたのか、ペタン、とソウハがその場に座り込んだ。
そんな勝者を称えるように、アーメスがパチパチと拍手する。
「おめでとう。最後の一発は中々効いたぜ」
『今日の所は、負けにしといてあげるよ。ナイトは――』
「謙虚なんですよね」
『あっ、酷いなぁソウハちゃん。ボクの決め台詞取るなんて』
『……決め台詞だったんですか、それ。しかも前々から思ってたけど聞き覚える台詞だし。確か30年くらい前のネットスラングとかじゃ――』
ボロボロの状態ながらも互いに談笑しあうソウハとアーメス達の少し向こうで、ヨーヨー使いココロと爪使いレウルが向かい合っていた。
――さぁ!宣言通り、殺戮ショー、いっくぞおおおお!!
そんなレウルの威勢の良い台詞の後、試合終了を告げるブザーが鳴り響いたのである。スキルを強制的に解除されたレウルはその場から落下。ココロも元の状態に戻ったヨーヨーを自分の手のひらに納め、2人はなんだか不完全燃焼と言った気分であった。
こちらは談笑、という空気ではなさそうだ。レウルがむすーっとした顔をしている。
「MVP獲れたのは別にいいけど……どーせなら、決着つけたかったな」
「……殺戮ショー」
「なっ!」
ボソッと呟いたココロに対し、レウルが顔を赤くした。
観客席にアピールするかのように「これから殺戮ショーを始める」と言っておいて、結局機械兵ズィーガも、ヨーヨー使いココロのどちらも倒せなかったことが恥ずかしいのだろう。
「……あれ、いつ始まる予定だったの?」
「きょ、今日のぼく様は調子が悪かったんだよ!」
「……くすっ」
「あー!笑ったな―!」
『……そもそも、君があんなに自信満々にアピールするから恥をかくんじゃないか……。あの時点で試合終了まで3分くらいだったんだし』
溜め息を吐くようにしてレウルのプレイヤーであるクオンが言った。それに対してココロのプレイヤーである男性が苦笑する。
声からして年齢は20代後半くらいだろうか?
『まあ、でも、あのまま続けてたらこっちが危なかったかもしれません。爪を武器に戦う相手は初めて見ました。団体戦は色んなデーヴァが見れて面白いですね』
それに応えるように、クオンも小さく笑う。
『そうですね。ぼくもヨーヨー使いと実際に戦うのは初めてだった。……また機会があれば、よろしくお願いします』
こうして今回のチーム戦が閉幕しようとしていた。
スタジアムに残されたデーヴァ達は観客席に向かってお辞儀をしたり、手を振ったりして軽くアピール。
そして場外でも、互いのプレーを称え合うようにチーム内のデーヴァとプレイヤーが言葉を交わしていたが、シューマとシャルディはそそくさとその場から立ち去ろうとしていた。
「あらシューマ様。皆様の輪に混ざっていきませんの?」
「別にいい。それに他の連中も何人かは既に帰ってるだろ」
――やれやれ、慣れないな。負けるってのは。
「あらあら、随分とカッコいい呟きですこと」
「……聞いてたのか」
「シューマ様のお声ならどこにいたって聞く自信がありますわ。さーて、今日の反省会も兼ねて、やけ食いにでも行きましょうかー!コインは貰ったことですしね!」
「……そうだな。たまには電脳世界の食事に金を使うのもいいか」
――でも、お前と一緒なら負けるのもさほど苦ではない。この世界に来てからそう感じているよ。
聞かれると恥ずかしいので、今度は心の中だけでそう呟いた。
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エリディアンがこうした革新を適応し、統合していく中で、人類はその変化を見守り、知識の共有がもたらす可能性の大きさに驚嘆する。同時に、彼らが自然現象を調和させる能力、たとえばタイタン地震を振動によって抑える力は、人類の理解を超えた生物学的・文化的な深みを示している。
この「ファーストコンタクト」の物語は、共存や進化、そして異なる知性体がもたらす無限の可能性を探るものだ。光と振動の共鳴が、2つの文明が未知へ挑む新たな時代の幕開けを象徴し、互いの好奇心と尊敬、希望に満ちた未来を切り開いていく。
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プロモーション用の動画を作成しました。
オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。
https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ
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