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河童騒動の後始末

75 北野照子の受難2

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 神社に着くと、舞衣は社務所受付窓口に坐って居た。
 隣に居るのは…遠藤スミレ? なぜ、彼女がここに??

 受付の二人は照子を視認し、明らかに不快な顔をしている…。
 あの下剤事件の際、照子がスミレに下剤入りジュースを渡して、細田美月経由で舞衣に届けさせた。つまり、スミレをも巻き込んだ形になっている。
 どういう経緯で、今ここにスミレが居るのか、照子には全くもって不明だが、よりによって、舞衣と一緒に…。なんと、間の悪いことか。
 回れ右して逃げ出したい気分になったが、そうも行かない。彼女も切羽詰まっている。なにしろ、河童に脅迫されているのだ。

「あ、あの・・・」

「何しに来たの?」

 舞衣の、凍り付きそうな冷たい声。
 そして、スミレの刺すような鋭い視線・・・。

 とにかく、まず謝っておこう…。そう思い、照子は勢いよく頭を下げた。

「ごめんなさ…」
 ゴキ!
「ぐがっ!痛~!」

 勢い余って、受付の台に頭をぶつけた・・・。

(絶対、これは瘤になる…。情けない……)

 もう、気が動転しまくって、照子は正常な判断も何も出来ないような状態になっていた。
 しかし受付の二人は、冷静だ。目の前で豪快に頭をぶつけた照子を心配するでもなく、冷たい視線を向け続けている。

「あ、あの……。
 隅田川乙女組時代は、意地悪ばっかりして、本当にゴメンナサイ!」

「なによ。今更ね…。そんな事を言いに、わざわざ来たの?」

 これは舞衣の嫌味だ。
 舞衣は、照子もあの下剤事件の共犯者だと既に知っている。が、照子は知られているとは思っていない。だから、謝る内容にズレが生じる。
 舞衣からすれば、「あなたがまず謝る内容は、それじゃないでしょ」ということだ。

 まあ、照子は所詮、主犯二人の腰巾着であって、自ら積極的にしたことでも無いだろう。
 舞衣にとっては、照子は今更どうでも良い存在…。その、「今更」でもある。

「い、いや、その…。
 今日は、舞衣さんに折り入ってお願いがあって・・・」

「何?」

「あ、あの……。そ、その・・・」

 もう不快な過去を思い出したくない舞衣とスミレだ。照子になんか関わり合いたくない。当然、視線も言葉も鋭くなる。
 照子にとっては、針の筵に坐らされているような状態。非常に、言い出し辛い。

「だから、何? ハッキリなさいよ!」

 舞衣からの叱責が飛ぶ。
 照子は腰を落とし、眉の両端を下げ、バツが悪そうに上目遣い…。坐っている二人を見上げた。
 他に方法は思いつかない。言うしかない…。

「ま、舞衣さん! あ、あなたのウンチ、百万で売ってください!!」

「は、は~!!」

 舞衣は余りのことに、目を大きく見開いて、後ろに仰け反った。

「へ、変態・・・」

 スミレが汚物でも見るような顔をしてつぶやいた。
 舞衣も、仰け反った姿のまま、同様の顔をしている。

 後ろの障子が開き、中から恵美と沙織、それに慎也も顔を出した。
 だが、人数が増えようと、もう口にしてしまった照子は、後には引けない。

「お、お願いします。
 今は、これだけしか手持ちが無いの!
 足りなければ、追加であと百万出しても良いから!」

「か、帰れ~!!」

 言われた当人は余りのことに言葉を失ってしまったが、隣のスミレが切れてしまった。彼女は、舞衣が人魚の托卵を受け入れて体調が思わしくないと聞き、神社を手伝いに来ていたのだ。近くに置いてあった清めの塩を掴んで、照子に思いっきり投げつけた。

「きゃ~! 眼が…。 う、しょっぱい!」

 堪らず照子は逃げ出した。




(困った…。舞衣のウンチを入手できなかった)

 しかし、冷静に考えてみれば、あれで「ハイどうぞ」などとなるはずがない。別に舞衣は金に困っている訳でも無いのだ。
 照子は、もう、どうすれば良いのか分からない…。神社の鳥居の外で、頭を抱えてうずくまった。

(そうだ、あの説話…。ウンチを別の物と取り替えたんだ…。
 そうよ、ウンチなんて同じような物。舞衣のじゃなくても、分かんないんじゃない?)

 照子に出来る最後の手段。それは、自分のモノを舞衣のだと偽ることだった…。
 といっても、出そうと思ってすぐに出せるモノでも無い。あの二人の元には、まだ戻れない。
 取り敢えず、駅前のホテルにチェックインしたのだった。




 翌朝…。
 照子は河原へ行った。箱へ入れた、「ブツ」を、持参して・・・。

 川のほとり、竹薮の中に、見事な隠れ家が出来ていた。
 外からは、単なる竹薮にしか見えない造作。しかし中には水も引かれ、河童モドキの二人は水を浴びながら、待っていた。

「遅かったわね。持ってきた?」

「は、はい・・・」

 照子はオズオズと箱を差し出した。樋箱ならぬ、ブリキの箱だ。

 河童モドキ二人は、嬉々として受け取り、蓋を取った。
 かぐわしい香木の香り…ではない。排泄物の悪臭が漂ってくる…。
 入っているのは、今朝、照子が頑張って出した、バナナ型の立派なブツ。

「こ、これが舞衣の・・・」
「これで、私たち戻れるのよね!」

(え?戻れる? 舞衣をはずかしめるのじゃないの? どういうこと?)

 頭に疑問符を浮かべる照子の目の前・・・。黒崎が木の枝でブツを二つに切り分けた。
 悪臭が強くなる・・・。

 二人は仲良く、二等分されたソレを、躊躇ためらうこともなく直接手でつまんで・・・。

(そうだ。あの説話、男は、女の樋箱の中身を・・・)

 照子は、自分のブツが、二人の大きく開かれた口に入ってゆくのを見た。
 そして、そのまま卒倒した・・・。
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