月の影に隠れしモノは ~人魚と河童の事件編~

しんいち

文字の大きさ
上 下
72 / 80
河童騒動の後始末

71 河童の助吉、その後…

しおりを挟む
 工業高校を卒業し、IT関係の会社にプログラマーとして就職した。

 会社の飲み会で入った居酒屋でたまたま藤越の仲間と一緒になった。解散したとかいいながらまだ馬鹿みたいに集まってる奴らは一体何なんだろう。結局ただ集まって飲んでだべりたいだけなのか。
 俺は気付かれたくなかったので、端の方でこっそり座っていた。個室じゃないので、周りの席からは丸見えで、あまり意味はなかったかもしれない。
「あれ、高橋っちじゃん」
 だいたい何で最初に気付くのがあいつなんだ。
 藤越がそう言うと、他の奴らがこっちに覗きに来た。いちいち会社の人間に説明しなきゃいけないのが面倒だった。気にせず飲んでればいいのにと思う。
「友達?」と聞かれたので、「そんなようなものです」と適当に答えた。藤越はともかく、他の奴らなんかほとんど知らないけど。

 会社の飲み会が終わってもまだあいつらはいたので、仕方ないから混ざることにした。このまま帰ったら色々言われそうだから。
「あ、えーとここあいてる?」
 と座ろうとしたら、「野上さんの」と言われて見回すと、がたいのいい男がトイレから戻ってきてどけと言われた。一体何なんだと思ったが、おとなしくどく。
 あまり知っている奴がいなくて居心地が悪かった。やっぱり気にせず帰れば良かったと思う。
「お前見たことないけど、いついたんだ?」
 と聞かれて俺は困った。ちょくちょく顔を出してはいたけれど、藤越の様子を見ていただけで、他の奴らとはほとんど交流していなかった。全く興味なかったから仕方ない。
「えーと、今はいないみたいだけど多村が」
 と言うと、「多村?」と聞き返される。多村のことは知っている奴がいるようだ。
「多村っちに誘われたの?」
 と藤越に聞かれる。
「知らなかったのかよ」
 とつい口にすると、
「透馬さんへの口の利き方に気をつけろよ」
 と言ってくる奴がいた。
 どうしてそんなこと言われなきゃいけないのか。めんどくさいと正直思った。
「俺は別に構わないけど」
 と何故か藤越が言う。
「でも、透馬さん」
「俺一度も敬語でしゃべれなんて言ったことないんだけどね」
 といつものように肩をすくめる。しばらくぶりのあいつは元気そうで安心したが、周りの奴らが心底うっとうしかった。何をそんなに藤越をあがめたり奉ったりしているのか。意味が分からない。いや、元々思ってた。何でボスとかリーダーとかやっているのか。
 あんまり藤越がそういうのが好きそうには見えないのだが、そうでもないんだろうか。
「えーじゃあ俺もため口利いていいっすか?」
 と誰かが言うと、「中島っちはだめ」と藤越が突っ込む。本気で言ってるわけじゃなくて、からかっているようだった。そいつが中島だという名前なのはわかった。
 みんなは笑い出す。俺のことはうやむやになる。もしかして庇われたんだろうか。それはそれで気に入らなかった。別に藤越が庇ってくれなくたって構わない。
「で、これ何のために集まってるんだ?」
 と聞いてみた。
「さあ。なんとなく」
 と藤越が答えると、みんなが非難するように、「透馬さん!」と呼ぶ。
「別にみんな飲みたくて適当に集まってるだけでしょ」
「そうですけど」
「まあいいじゃんか」
 と言ったのはさっきの中島という奴だった。
「中島っちは俺をあがめてたたえないと駄目」
 また藤越がふざけた調子で言う。俺が見たことない顔だった。慕われたりあがめられたりするのはそれなりの理由があるのか。中島という奴は、頭が上がらないみたいに言う。
「勘弁してくださいよ」
「今日片岡っちは?」
「大学が忙しいみたいで」
「ふーん」
 俺の知らない話をし出した。なんとなく疎外感を感じる。やっぱり自分は場違いな気がした。
 ほとんど酒に口をつけてないのを見て、「飲まないのか?」と誰かに聞かれた。
「え、あ。あんまり強くないから」
 ぼたんさんの店で飲んだ失敗はしたくなかった。それにまだ一応未成年だし。
「俺も高橋っちもまだ飲んじゃいけない年齢だけどね」
 と藤越が口を挟む。
「え、透馬さんと同じ年?」
 ここにいる奴らはほぼ年上のようだった。何だよ年下かよと見下されたので、多分そうなのだろう。
「同級生だから」
 確かにそうなのだが、そもそも学生時代にほとんど話した覚えはない。小学校の時はいじめていたわけだし。こいつらにそれがばれたらやばそうだなと思った。
「同級生?」
「別に仲良くなかったけど」
 と口を挟むと、藤越は
「何でわざわざそういうこと言うのかね」
 と言って肩をすくめる。
 わざとだった。気に入らなかった。今だって友達でも何でもない。ここにいる意味なんて本来はない。俺はこいつらの仲間なんかじゃない。
「仲良くないのに何で参加するんだよ」
 と誰かにすごまれた。もうどうでもよくなっていた。このまま完璧に嫌われてしまおうかと思う。そしたら二度とこんな飲み会には誘われないだろう。
「俺が声かけたからじゃない」
 藤越に庇われるのが一番気に入らない。
「別にそのまま帰るのも空気悪いと思っただけで、およびじゃないなら帰るよ」
 俺は立ち上がった。
 その時無意識で藤越の方を見た。無表情で、別に止めようともしない。俺は背を向けて居酒屋の入口まで歩いた。藤越の様子は見れたしもうこんなところに用はないと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...