月の影に隠れしモノは ~人魚と河童の事件編~

しんいち

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恵美と河童

61 狙われた月影村2

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 ――― リナの御殿 ―――

 奥の部屋から、恵美が歩いて出て来た。
 切り裂かれて血みどろになった着物の代わりに、空色のミニドレスを着ている。
 …リナのロングドレスと同じ色。リナの物を借りたのだろう。
 着慣れない衣裳に恥ずかしそうだが、それなりに似合っている。

「恵美母様!」

 恵美の姿を認めるや、すぐにあいが駆け寄った。

「いや~、面目ない、面目ない~。
 鬼にも内臓掴みだされたけど~、河童にもやられちゃいました~」

「バカ~!! ふえええ~ん!!」

 あいは恵美に抱き着いて、大泣きしだした。
 恵美が死んでしまったらと思うと、気が気でなかったのだ。

貴女あなたは私の命の恩人です。有難うございました」

 ナナミが抱き合っている二人に近づき、恵美に対して丁寧に頭を下げた。

「私からも、改めて御礼を申し上げます。娘を救って下さり、有難うございました」

 遅れて出て来たリナも、頭を下げた。

「いやいや、私の方こそ、治してもらったんだから~。それに、あいちゃんの分もあるから、まだこっちが足りないくらいですよ~」

 照れながら、あいと揃って、こちらも頭を下げた。
 傷が癒え、ひとまずホッとすると、気になるのは大怪我を負わせてくれた相手の事…。

「逃げたアイツどうしてるかな・・・」

恵美は目を閉じて、暫くそのまま黙る。いつもの能力での探索開始だ。

「おやおや、これは~、人手…じゃなくて、河童手を集めようとしてるのかな~? こっちに攻め込む気かしら~?」

 恵美が千里眼の能力で見たのは、治太夫が門を潜って屋敷に入るところ。そして、その屋敷は物々しい雰囲気で、兵が集められようとしていた。

 実は、出兵準備を命じたのは父親の村主すぐりで、治太夫を捕らえるためのものだ。
 しかし、治太夫には勝手知ったる我が家。既に自分を捕らえる準備が開始されようとしていたとは知らず、また、たまたま家人にも兵にも見つからなかっただけだが、堂々と門を潜っていて、傍目には隠れているようには見えなかった。これは、夜ということもあっての事だ。
 この為、恵美は、治太夫が兵を集めていると勘違いしてしまった。
 まあ、実際、治太夫は協力者を集めるつもりでいたのであるから、同じ様な事ではあったのだが・・・。


 この発言者の恵美を、リナが身を乗り出すようにマジマジと見て、首を傾げた。
 恵美に向かい、不審気に尋ねる。

「先ほども不思議に思ったのですが、貴女には、なぜ分かるのですか?」

「いや~、私の持つ特種能力っていうか、千里眼なんですけどね~」

「せ、千里眼・・・。貴女はヒトではないのですか?」

 驚愕の目で恵美を見詰めるリナ…。ナナミも同様だ。
 千里眼は、五百歳を超えるリナでも有していない能力だった。

「だから~、何でみんなバケモノ見るような目で見るかな~。ヒトです、ヒト。ちょっと事情があって、普通じゃない能力を持っているだけです~。
 私だけじゃないわよ~。あいちゃんの母親の舞衣さんはテレパシー使えるし~、旦那の慎也さんは、貴女と同じ治癒能力を持っているわ~」

「え? では、そのお嬢さんの治療も、旦那様にしてもらえばよかったのでは?」

「それがね~。異界の門が開かなくなっちゃって~、人界に帰れなくなって……。
 あ・・・」

 そこまで言って、恵美は気付いた。
 あいも、同じく…。

「恵美母様! 人魚さんに送ってもらえば、人界に帰れるんじゃない?」

「人界ですか? お送り出来ますよ。お安い御用です。貴女は娘の命の恩人ですし」

 二人からの視線を受け、リナは簡単な事だと、頷いた。実際、彼女にとっては何でもないことなのだ。

「よ、よかった~。もう、一生帰れないかと思ってたのよ~」

 恵美は体の力を抜き、垂れた眉をさらに下げた。

「すぐに帰られますか?」

「いや~。この件が全て片付いてからね~。そうしないと、帰っても心配だから~」

「そうですか。いつでもお送りします。
 それから、先ほどの、治太夫がこちらへ攻め込むという話ですけど、それは恐らく無いと思います。
 既に村主すぐりに通達を出しました。現村主は身内にも厳しい厳格な河童で、信用できます。河童たちは、治太夫には従わないでしょうし、治太夫も、それは分かっていると思います。
 通達が行き渡る前に治太夫が河童を集めているのであれば、狙いは鬼の住む島ではないでしょうか…」

「また神鏡を狙ってくるってこと~? あの神鏡、効力失っているのにね~」

「恵美母様!村が危ない・・・」

 あいは、青い顔をして恵美の手を握った。
 村には大切な家族・姉妹たちがいるのだ。河童に襲われ、自分や恵美がされたようなことになったらと思うと、冷静ではいられない。

「奴が島を出る前に討ち取らなきゃね~。タケ!出番よ~。また転送お願い!」

 遅れてふらふらになって走ってきたタケが到着したところだった。
 彼は自分自身を転送できない。自分は走るしか無いのだ。そして・・・。

「め、恵美様…。いくら何でも、鬼使いが荒すぎます。
 只でさえ、生きた者を転送するのは気を使うのです。今日、私はそれを、どれだけしてきたとお思いですか…。
 もうこれ以上は無理です・・・」

 確かに、タケは今日、恵美たちだけでなく、警備の河童も多数、能力で転送していた。まさに、大活躍だ。
 そして、どんな能力も無限では無い。

「だ、ダメなの? ・・・。
 舟で向こうの島へ渡って、港から走っていたんでは、気付かれて逃げられるし、それ以前に間に合わないかも…。
 月影村に帰って迎え撃つにしても、向かい風で帆が使えない。これはヤバい・・・」

「お母様! お婆様、セーラ様の力なら・・・」

 頭を抱えて項垂うなだれる恵美を見たナナミが、リナに向かって言った。

「そうね…。こんな時間に行くと怒られそうですが、仕方ありませんね」

「? ナニ?」

 疑問符を浮かべる恵美たちに向かってリナが説明する。

「私の母セーラは、瞬間移動能力を持っています。貴女と同じ、千里眼も。童島でも、行ったことの無い鬼の島でも、送ってもらうことが可能です。
 たいへん気難しい人ですので、あまり頼りたくないのですが、仕方ありません。すぐに行きましょう」

 リナは、月の輝く屋外へ出た。ナナミも続く。
 恵美・あいも従った。
 タケは歩くのも辛そうだったので、銀之丞が背負って後に続いた。
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