61 / 80
恵美と河童
60 狙われた月影村1
しおりを挟む
治太夫は走った。
…リナと河童たちに、自分の所業が知られてしまった。すぐに大規模な追っ手が掛かるはずだ。
とにかく、神島から脱出する。
漆黒の海を泳いで童島に渡り、自分の屋敷の門を潜ると、灯りのついている主殿の中から怒声が聞こえてきた。父の声だ。
「な、何というトンデモナイことを、あのバカ息子め!
奴に村主職を継がせるのは撤回だ。すぐに捕らえよ。抵抗するなら殺しても構わん!
各部落に、至急の通達を出せ!」
これはマズイことになってしまった。
まさか、殺しても構わないとまで言われるとは・・・。
現在の村主は父親。治太夫は、まだ就任していない。
その父親の命令となれば、全河童が従う。治太夫には、まだ何の権限も無いのだ。
河童の社会を救うどころか、河童の敵とされてしまった…。
神島の方は既に警戒されているから人魚を襲うのは不可能だ。
となると、残される道はただ一つ。当初の計画通りに、やはり鬼の神鏡を奪うしかない。
異界出入りの力さえ手に入れば、治太夫は不死の身だ。後は何とでもなるのだ。
各部落への緊急通達は、港のあるこの部落から二人の伝令が、それぞれ左回り、右回りで順次伝えて行くことになっている。集落は全て島の海岸沿いにあるからだ。
伝令が出るのは、これから。今なら、島の正反対側の部落へ直行すれば間に合う。
その部落は、村第二の勢力で屈強な男が揃っている所。鬼ヶ島から逃げ戻ってきた三太の居る部落でもある。
通達が届く前に男たちを招集し、鬼ヶ島へ渡るしかない。
治太夫は見つからないように屋敷を出て、暗闇の中、真っ直ぐ島の反対側に向かって駆けだした。
森を抜け、内陸を通る最短の道をひた走った。
目的の島東北端の部落に着くと、夜ということもあり、ひっそりしている。
治太夫は村役屋敷に駆け込んで、男たちの緊急招集を命じた。
村主の御曹司直々の緊急命令だ。事情をまだ知らない村役は慌てて従った。
だが、急がせても、既に寝床に入らんとする夜の事…。集まってくるのには時間が掛かる。
伝令が到達する前に、島を出てしまわなければならないが、焦りながらも治太夫は、通された座敷で待つしかなかった。
案内された座敷…。
治太夫は、床の間前に置かれた座布団にドカッと坐った。
その床の間には、珍しい物が飾ってあった。古い甲冑だ。
昔のヒトが使用していた物だろう。おそらく、人界で誰かが拾ってきて村役に献上したのだろうが、屈強な者が多いこの部落には、ふさわしい飾り物と言えた。
治太夫は、昔のヒトの武将が使っていた武具にも興味を持って、詳しく調べたことがある。しかし、実物を見るのは初めてだった。
目の前の甲冑は良い素材で丁寧に作られており、上級の武将が使用した物と思われる。
だが、その割には飾りの少ないシンプルな造りだ。
ヒトの武将は、己の武功を誇示する為に派手な物を好んだと聞いていたが、こんな地味な物もあったのかと、触りながら観察する。
顔面を守る面頬と、喉を守る咽喉輪の部分が無いが、その他の部位は全て揃っていて、持ってみるとしっかりして頑丈で、かなりの重量…。
こんなものを着けて戦っていたとは…。
これでは重くて自由に動けず、不利では無いかとも思う。河童の甲冑は亀の甲羅で作られていて、軽量で動きやすいのだ。
しかし、相手も同様のモノを身に付けて居れば、お互い様なのか…。可笑しなものだ。
そうこうしていると、三太が招集に応じて、いの一番に出て来た。
彼は一度鬼ヶ島に行って、逃げ帰ってきている。だから、これから治太夫が何をしようとしているか、おおよそ見当がついていた。
他にも次々と集まって来るが、それらの連中は訳が分からない状態。夜中の突然の招集で、眠い目を擦り擦りの二十七河童…。
そして、もうそろそろ、伝令が到達してもおかしくない頃合いとなった。
時間の限界を感じた治太夫は、村役とその配下三河童も入れての合計三十二河童を引き連れ、島東北端の海岸に向かった。
詳しい事情は話さない。ただ、「河童族の未来のために働いてもらう。恩賞は弾むぞ」とだけ告げた。
海に入り、三太に案内させて鬼ヶ島に向かい、進軍を開始した。
伝令が部落に到着したのは、その五分ほど後の事だった。
右回りの伝令と左回りの伝令が、ほぼ同時に到着した。
二人の伝令は頷き合い、一緒に村役の屋敷に駆け込んだ。
だが、既に屋敷にも、また、部落にも、女子供と老河童しかいなかった。
そして・・・。
村役屋敷の床の間に飾られていた甲冑から、兜が消えていた・・・。
…リナと河童たちに、自分の所業が知られてしまった。すぐに大規模な追っ手が掛かるはずだ。
とにかく、神島から脱出する。
漆黒の海を泳いで童島に渡り、自分の屋敷の門を潜ると、灯りのついている主殿の中から怒声が聞こえてきた。父の声だ。
「な、何というトンデモナイことを、あのバカ息子め!
奴に村主職を継がせるのは撤回だ。すぐに捕らえよ。抵抗するなら殺しても構わん!
各部落に、至急の通達を出せ!」
これはマズイことになってしまった。
まさか、殺しても構わないとまで言われるとは・・・。
現在の村主は父親。治太夫は、まだ就任していない。
その父親の命令となれば、全河童が従う。治太夫には、まだ何の権限も無いのだ。
河童の社会を救うどころか、河童の敵とされてしまった…。
神島の方は既に警戒されているから人魚を襲うのは不可能だ。
となると、残される道はただ一つ。当初の計画通りに、やはり鬼の神鏡を奪うしかない。
異界出入りの力さえ手に入れば、治太夫は不死の身だ。後は何とでもなるのだ。
各部落への緊急通達は、港のあるこの部落から二人の伝令が、それぞれ左回り、右回りで順次伝えて行くことになっている。集落は全て島の海岸沿いにあるからだ。
伝令が出るのは、これから。今なら、島の正反対側の部落へ直行すれば間に合う。
その部落は、村第二の勢力で屈強な男が揃っている所。鬼ヶ島から逃げ戻ってきた三太の居る部落でもある。
通達が届く前に男たちを招集し、鬼ヶ島へ渡るしかない。
治太夫は見つからないように屋敷を出て、暗闇の中、真っ直ぐ島の反対側に向かって駆けだした。
森を抜け、内陸を通る最短の道をひた走った。
目的の島東北端の部落に着くと、夜ということもあり、ひっそりしている。
治太夫は村役屋敷に駆け込んで、男たちの緊急招集を命じた。
村主の御曹司直々の緊急命令だ。事情をまだ知らない村役は慌てて従った。
だが、急がせても、既に寝床に入らんとする夜の事…。集まってくるのには時間が掛かる。
伝令が到達する前に、島を出てしまわなければならないが、焦りながらも治太夫は、通された座敷で待つしかなかった。
案内された座敷…。
治太夫は、床の間前に置かれた座布団にドカッと坐った。
その床の間には、珍しい物が飾ってあった。古い甲冑だ。
昔のヒトが使用していた物だろう。おそらく、人界で誰かが拾ってきて村役に献上したのだろうが、屈強な者が多いこの部落には、ふさわしい飾り物と言えた。
治太夫は、昔のヒトの武将が使っていた武具にも興味を持って、詳しく調べたことがある。しかし、実物を見るのは初めてだった。
目の前の甲冑は良い素材で丁寧に作られており、上級の武将が使用した物と思われる。
だが、その割には飾りの少ないシンプルな造りだ。
ヒトの武将は、己の武功を誇示する為に派手な物を好んだと聞いていたが、こんな地味な物もあったのかと、触りながら観察する。
顔面を守る面頬と、喉を守る咽喉輪の部分が無いが、その他の部位は全て揃っていて、持ってみるとしっかりして頑丈で、かなりの重量…。
こんなものを着けて戦っていたとは…。
これでは重くて自由に動けず、不利では無いかとも思う。河童の甲冑は亀の甲羅で作られていて、軽量で動きやすいのだ。
しかし、相手も同様のモノを身に付けて居れば、お互い様なのか…。可笑しなものだ。
そうこうしていると、三太が招集に応じて、いの一番に出て来た。
彼は一度鬼ヶ島に行って、逃げ帰ってきている。だから、これから治太夫が何をしようとしているか、おおよそ見当がついていた。
他にも次々と集まって来るが、それらの連中は訳が分からない状態。夜中の突然の招集で、眠い目を擦り擦りの二十七河童…。
そして、もうそろそろ、伝令が到達してもおかしくない頃合いとなった。
時間の限界を感じた治太夫は、村役とその配下三河童も入れての合計三十二河童を引き連れ、島東北端の海岸に向かった。
詳しい事情は話さない。ただ、「河童族の未来のために働いてもらう。恩賞は弾むぞ」とだけ告げた。
海に入り、三太に案内させて鬼ヶ島に向かい、進軍を開始した。
伝令が部落に到着したのは、その五分ほど後の事だった。
右回りの伝令と左回りの伝令が、ほぼ同時に到着した。
二人の伝令は頷き合い、一緒に村役の屋敷に駆け込んだ。
だが、既に屋敷にも、また、部落にも、女子供と老河童しかいなかった。
そして・・・。
村役屋敷の床の間に飾られていた甲冑から、兜が消えていた・・・。
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
荷車尼僧の回顧録
石田空
大衆娯楽
戦国時代。
密偵と疑われて牢屋に閉じ込められた尼僧を気の毒に思った百合姫。
座敷牢に食事を持っていったら、尼僧に体を入れ替えられた挙句、尼僧になってしまった百合姫は処刑されてしまう。
しかし。
尼僧になった百合姫は何故か生きていた。
生きていることがばれたらまた処刑されてしまうかもしれないと逃げるしかなかった百合姫は、尼寺に辿り着き、僧に泣きつく。
「あなたはおそらく、八百比丘尼に体を奪われてしまったのでしょう。不死の体を持っていては、いずれ心も人からかけ離れていきます。人に戻るには人魚を探しなさい」
僧の連れてきてくれた人形職人に義体をつくってもらい、日頃は人形の姿で人らしく生き、有事の際には八百比丘尼の体で人助けをする。
旅の道連れを伴い、彼女は戦国時代を生きていく。
和風ファンタジー。
カクヨム、エブリスタにて先行掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる