月の影に隠れしモノは ~人魚と河童の事件編~

しんいち

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恵美と河童

49 愛の危機1

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 ――― 二日間遡って、妖界 ―――

 十一月九日に鬼の神鏡を奪取すべしという治太夫の命を受けた二河童、太吉と三太…。翌十日の明け方に、鬼ヶ島に泳ぎ着いた。

 まだ早い時刻で、人影、いや、鬼影は無い。
 見つからないように上陸し、上半身裸・腰蓑姿のまま、森の中を彷徨さまよい歩く…。
 太陽がてっぺんに昇り、更に半分くらい下りた頃、かなりの大回りをして神社まで到達した。

 治太夫からは、この島には二十人ほどしか住んでいないとのことだ。
 祭礼日でない限り、日中の神社になぞ誰も居ないだろうし、神鏡というからにはこんな神社のようなところにある可能性が高いだろう。そう考えた二人は、神社を捜索することにした。

 まずは、拝殿の手前にある館に侵入することにする。左右に五棟ずつ並んでいるが、右の方から。
 一人一棟ずつ調べ、最初の館は何も見つからない。

 次に侵入した二棟の内、手前から四番目の太吉が入った館…。太吉は、室内に寝かされている赤子を見つけた。
 小さな角がある。鬼の子だ。

 赤子が居るということは母親も居るはず。この館は無人で無いということ…。一気に緊張が走る。
 が、これはチャンスでもある。赤子を人質に取って母親を脅迫し、神鏡のありかを吐かせるのだ。
 赤子を抱き上げると、すぐに泣きだした。
 隣の部屋から、壁越しに優しく声が掛かる。

「どうしたの~? 待っててね。すぐ行くから~」

 若い女の声だ。
 即座に太吉は、壁越しに警告を発した。

「来るな! 言うことを聞かないと赤子を殺すぞ!」

「だ、誰!」

 壁の向こう側からの女の声が、鋭く変わった。

「騒ぐな! もう一度言う。赤子を殺されたくなかったら、言う通りにしろ!」

「わ、分かったから、赤ちゃんに酷いことしないで!」

「よし、目を閉じたまま戸を開けろ。そして、後ろ向きで入ってこい。こちらを絶対に見るな。見たら、即、赤子を殺す」

「分かりました」

 戸がスーッと開き、白い着物姿で、目を瞑った女が現れる。

 太吉は、その顔を見て驚愕した。
 何故なら、河童族が神の様に仰ぐ人魚様によく似ていたのだ。
 但し、かなり若く見える。十代後半といったところか…。
 人魚は皆、二十代中頃の見た目だ。見た目だけであって、実年齢は全く違うが…。

 目を瞑ったまま入室してきた女性…。それは、神子かんこあいだった。
 彼女は、素直にそのまま後ろを向き、部屋に入って戸をキッチリ閉めた。

「顔はそちらに向けたまま、四つん這いになれ」

 子供を人質に取られては抵抗できない。あいは指示通りに両ひじひざを突き、尻を侵入者に向けるように四つん這いになった。

 実は、隣の部屋では、もう一人の子がスヤスヤ寝ていた。それを気付かせないように、そして、そこへ通じる戸を塞ぎ守るように、あいは四つん這いになっていた。

「目を開けるなよ。そのまま質問に答えろ。変な抵抗をすると、即座に赤子を殺す」

「わ、分かりました。だから、赤ちゃんに手を出さないで!」

「よし。素直に答えろ。見たところ、角が無いようだが、お前は鬼では無いのか?」

「はい、違います。私は神子かんこ。人間です。鬼の子を産むために来た、鬼の妻です」

「ヒトか…。これは都合良い。お前たちがここへ来るときに使われた神鏡は、どこにある?」

「神鏡? 貴方は、いったい誰なんです?どうしてそんなことを?赤ちゃんは無事?」

「質問にだけ答えろ。でないと、赤子を殺すぞ」

 あいは心配でならない。さっきまで泣いていた赤子の声がしないのだ。
 そんなあいの心配を察知した太吉は、赤子の様子を話す。

「大丈夫だ。心配するな。赤子は寝ている。こ奴、なかなか図太いぞ…。目を開けるのだけ許す。見てみろ」

 ヒトであれば金縛りは大丈夫だと考え、太吉はあいに赤子の様子を見るのを許可したのだ。
 そして、その考え通り、あいには金縛り耐性はあっても、金縛りを行使する能力は無い。

 あいが目を開け、四つん這いのまま首だけ後ろを向けると、彼女の赤子は抱かれて、スヤスヤ寝ている。確かに図太い。誰に似たのか。…あいの脳裏に浮かんだのは、赤子の祖母にあたる舞衣だ。

 しかし、そんなことは、どうでも良いこと。その子を抱いてあいを脅迫しているのは、気味の悪い緑色の肌をした、上半身裸・腰蓑姿の小男だった。

「我は河童だ。おさの御曹司であらせられる治太夫様の命令で、鬼の神鏡を頂きに来た。神鏡は、どこにある?」

 河童・・・。
 神鏡の秘密を知っている…。しらばくれる訳には行かないだろう。
 しかし、現在は効力をなくしていると言え、やすやす奪われて良いモノではない。

 神鏡は三面存在する。
 その内、村長むらおさの神鏡は、彼女の夫のテルも一緒に守っている。
 テルは、今ちょうど、同じ境内の村長御殿にいるのだ。テルならば、何とかしてくれるだろうとあいは考えた。

「神鏡は、村長むらおさ様が保管しています。拝殿右横の建物に村長むらおさ様は、いらっしゃいます」

村長むらおさ・・・。神鏡は、常に持ち歩いているのか?」

「そこまでは、私は知りません。大事な神鏡の事です。私なんかに教えて貰えないことです」

「そうか。まあ、良い。拝殿右の建物か・・・」

 太吉は、赤子をそっと後方の床に寝かせた。
 それを、振り返っての横目で確認し、あいは取り敢えずホッとした。
 このまま出ていってくれれば、更に良いのだが・・・。
 しかし、そんなに甘くはない。

 太吉にとって、目撃者のあいは邪魔者でしかない。ここを出た後、仲間を呼び集められるのは間違いないのだ。
 そんな者を、このままにして行けるはずが無い。

 それに、太吉は長い距離を泳いで来た上に、昨夜から何も食べていなかった。無性に腹が減って、気が変になりそうな状態だった。
 今、太吉の目の前で、尻を向けて四つん這いになっている、人魚様に似た美しいヒトのメス・・・。
 若く、着物越しでもスラッとした素晴らしい体つきが分かる…。
 欲望がグツグツと湧き上がってきて、よだれこぼれそうだ。

 この欲望を、満たしたい・・・。

 太吉は、あいの真後ろに立った。

「赤子に何もされたくなければ、そのまま動くなよ。なに、心配は要らない。大人しくしていれば、赤子には決して手を出さない。約束する」

 あいの着物の裾が、ガバッとまくられる。
 彼女は、普段からショーツを着けていない。この鬼の村では、そんな物は入手困難なのだ。だから、白く可愛らしいお尻が、完全丸出しの状態となってしまった。

「い、イヤ…。 赤ちゃんの前で、変なコトしないで…」

 赤子を起こしてしまわないように、あいは声を抑えて訴えた。

 あいの尻に生暖かい息がかかる。
 顔を近づけられ、覗き込まれているのか。いや、恥ずかしい部分の臭いを嗅がれているのか…。悪感が走る。

「これは、これは・・・。最上級特上品では無いか!
 かぐわしい香りで、堪らぬな~。肌も綺麗で柔らかな上に、程よく締まって弾力ありそうだ。
 こんな極上の一品を味わえるとは、なんと幸せな・・・」

「やめて…。許してください。味わうなんて、冗談じゃない・・・」

 硬い手があいの股の間にスッと入れられた。そして、その白くスラッとした美脚をガバッと広げさせてきた。
 四つん這いのまま、股を開けた姿。恥ずかしい全てが、後方から丸見え・・・。
 ハシタナイ恰好にされて、あいは羞恥で顔をゆがめる。

 ……このままでは、犯されてしまう! テル以外と交わるなんて、絶対にイヤだ!……

 そう思っても、河童の方が赤子に近い。下手へたに抵抗すれば、危害を加えられる恐れがある。
 大切な我が子の事を考えると、あいは、動くに動けなかった。

「お願いです。止めてください。赤ちゃんも起きちゃうわ…。こんなの、赤ちゃんに見せられない。だから・・・」

「なに? ああ、まあ、そうだな…。幼子おさなごに、母親がもだえ苦しむ姿を見せるのも、残酷なものだ。
 しかし、大丈夫だ。お前を頂戴している最中を見られなければ良いことだ。赤子が寝ている間に、手早くサッと済ませてやる。全く問題無いぞ!」

 いやいや、それは、違う。問題大有りだ。
 あいは、赤子に見られない内に済ませて欲しいのではない。
 そんな行為はされたくない・・・というか、そんな行為は許されないだろう!
 反論しようと思ったが、その前に太吉が続けた。

「ズブッとれて、ビューッと『出す』だけの、至極単純な作業コトだ。たいして時間が掛かるものでは無い。あっと言う間に処理を終えてやる。
 もっともな、作業コトは単純だが、これが非常に気持ちの良くてな。甘美なモノで・・・」

 太吉は、あいの恥ずかしい部分を眺めながら、舌なめずりした。

「あなたは気持ち良いのかもしれませんが、犯される私は・・・」

 あいは、姿勢を保ったままで振り返り、キッと太吉をにらみつけながら、小声でささやくように言った。

「そう睨むな…。お前は滅多にお目にかかれない、最上級の素晴らしい体をしておる。その貴重な身を捧げて貰うからには、最大限の敬意を払って、綺麗に終わらせてやるぞ。
 時間が限られて居るから、残念ながら肉体からだの隅から隅まで、余さず楽しみ尽くすことが出来ぬ。その分、せめて、お前の体内なかのモノの感触と味わいだけは、存分に楽しませて貰うことにしよう」

 勝手な言い分だ。
 身を捧げるなんて、そんな同意は一切していない。
 敬意を払うなんて冗談じゃない。単に女の体をもてあそぶだけではないか・・・。

 そうは思うが、今のあいに出来ることは限られる。
 逃げ出すことは出来ない。下手な抵抗も不可。
 我が子が人質なのだ。
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