月の影に隠れしモノは ~人魚と河童の事件編~

しんいち

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恵美と河童

43 ナナセと銀之丞1

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 美しき人魚のナナセ・・・。
 彼女の大切な心臓は、無残にも治太夫によって体外へ掴み出されてしまった。
 そして、喰われ、治太夫の胃袋の中に納まってしまった。

 急所を喰われると人魚は死に、能力が奪われる。
 心臓は、全身に血液を送り出す最も重要な臓器。通常、心臓が止まるということは、死を意味する。当然、急所であるはずの部分だ。
 ナナセの命も能力も、これで治太夫のモノになってしまうかと思われた。

 ところが・・・。
 ナナセの腹部の傷から、白いもやが発生した。

 直ぐに傷が治ってゆく。
 しばらく体を痙攣させてはいたが、ナナセは息を吹き返した。

 荒い息をしながら治太夫を鋭くにらみつけた。

「なんと! 心臓が急所では無いのか!」

 普通であれば一番の急所と考えられる心臓が違うとなると、いったいどこか?
 間違いなく目的の部位は心臓だと思い込んでいた治太夫は、分からなくなってしまった。
 が、死神にも言われた。一人丸ごと食べれば、どこかが当たるはずだ。

 治太夫は、悶え叫ぶナナセの腹を何度も何度も切り裂き、肝臓・胆嚢・肺・腸・腎臓と、他に可能性が高そうな部分から順番に喰って行った。
 だが、その度に白い靄が噴き出し、ナナセの体は元に戻っていった。
 但し、だんだん痩せて、ほおもこけてくる。対して、治太夫の腹はパンパンに膨れ上がった。

 ヒトを喰う場合でも、腸をすすり飲んで、血を吸うまでで、通常は少し時間を置く。
 それを、一気に全ての内臓分を喰ったのだ。河童の胃が大きいといっても、流石さすがにこれは辛い。一服するかと考えた、その時だった。

「な、何をしている! な、ナナセ様!」

 戸がいきなり開いて、入ってきたのは銀之丞。
 ナナセとの待ち合わせの時間になったのだ。

「銀様、助けて…」

 全裸で寝台に縛られているナナセが、弱々しい声で訴えた。

「御曹子!貴方は何ということを!」

 突然入ってきた銀之丞には、意表を突かれた。が、ここは元々、銀之丞の家の舟小屋だと、治太夫も承知している。彼が来ることに不思議は無い。
 それに、治太夫には鎌鼬かまいたちという切り札があるので、特に慌てる必要も無い。
 ナナセを縛り付けている寝台の端に治太夫は腰を下ろし、腕を組んで横柄に言った。

「銀之丞。これは、わが河童族の為だ。河童族が人魚にいいようにこき使われているのは、お前も十分承知しているだろう」

「だからといって、なぜナナセ様を! ナナセ様に何をしたんですか!」

「銀様…。助けて。私の不死の力が奪われる…。殺されてしまう……」

 相変わらず、ナナセの声は弱々しい。そして、聞き捨てならない訴えだった。

「お、御曹司!あ、貴方はいったい…」

 銀之丞の表情が、驚きから怒りへと一気に変化した。
 一方、治太夫は落ち着きはらっている。そして、先ほどからのナナセの言葉が気になっていた。
 銀之丞はナナセを「ナナセ様」と呼んでいる。彼は人魚に仕える料理人だから、これは普通だ。が、ナナセの方は、「銀様」と呼んでいる。
 使用人に様付け・・・。

 そして、よくよく考えてみれば、この舟小屋に寝台があるのは異常だ。普通は、こんなところで寝たりしない。
 改めて小屋の中を見渡すと、端に寄せて置いてある小舟に、水が入って水槽のようになっている。通常、そんなことはしない。舟は水に浮かべるモノだ。

 治太夫は悟った。二人は出来ていて、ここで逢引きを重ねていたのだと。乾燥に弱い人魚の為に、舟に水を入れて水槽にし、水に浸かれるようにしていたのだろう。

「御曹司! 今すぐ、ナナセ様を解放してください。そうしないと、皆にこの極悪な所業を訴えます!」

 銀之丞は、治太夫を睨みつけながら、殴りかかりたくなる衝動を抑えて警告した。
 が、治太夫は平然として口を開いた。

「お前たちこそ、良いのか?
 人魚が何故一人だけでこんな寂しい所へ来ていたのか…。
 舟小屋なのに何故、こんな寝台が置かれているのか…。
 そして銀之丞、お前はここへ何をしに来た?
 お前たち、ここで、いつも、二人で逢っていたな?
 二人きりで、いったいナニをしていたのやら……」

 銀之丞は言葉に詰まり、下唇を噛んだ。
 自分たちの関係が知られれば、大変なことになる。自分もであるが、それ以上にナナセの人魚内での立場が心配だ。
 しかし、放っておけるはずがない。ナナセが殺されようとしている。あの衰弱ぶりは単なる乾燥ではない。寝台も血でベットリ汚れている。何度も切り刻まれているのだ。

 人魚の急所を、銀之丞は知っている。ナナセから聞いたからだ。
 ナナセはまだ、そこにはダメージを受けていないようだ。だが、このまま放っておけば、治太夫もそれに気付く…。
 銀之丞は入り口に立てかけてあった舟のかいを取った。そして振りかぶり、治太夫に対して、直接攻撃に出た。
 ・・・はずだった。…が。

 櫂が、ガタッと音を立てて下に落ちた。それを握った銀之丞の両手首から先が付いたままで・・・。
 手首を失った銀之丞の手の断面から、真っ赤な血が噴き出す。

「う、うおおおおおお~」
「銀様~!」

 銀之丞とナナセの叫び声が重なった。
 治太夫の鎌鼬かまいたち。至近距離で有れば、手首くらいスッパリ切断できる。
 うずくまって悶え苦しむ銀之丞を、治太夫は寝台に腰かけたまま、ニヤニヤ笑って見下ろしていた。

 しかし、今度は治太夫が、目をいた。
 その内、出血多量で死ぬだろうと思っていた銀之丞の傷口から、白い靄が発生した。
 そして、その靄は転がっている手首に伸び、手首がスッと飛んで傷口につながった。両手首とも、ほぼ同時に・・・。

「お、おおお~!」

 驚愕の声を上げた治太夫…。
 自己修復の能力。これは、不死の能力と一体の物とされる。
 これがあるということは、目の前の銀之丞は河童でありながら、人魚の不死の力を得ている。
 この力を、治太夫は欲していたのだが、まだ手に入れられずにいるのだ。

………
 銀之丞は四年に渡りナナセと逢引きを重ねていた。
 人魚は精子を受けることで、卵が成熟して排出される。交わって産み出された卵を、ナナセは銀之丞に食わせていた。
 「人魚の肉を食えば、寿命が延びる。卵でも効果は変わらないだろう。銀之丞の寿命が延びれば、長く銀之丞と一緒にいられる」と考えての事だった。
 銀之丞も、愛する人が産み出し、与えてくれるモノ。有難く頂戴していた。

 その卵は成長して人魚になるモノ。つまり、人魚の全ての部分が含まれる。
 当然、まだ成長していないのだから、一個や二個食べたところで、数年寿命が延びる程度。
 ところが、それが四年続くと、食べた数は百個を超えていた。
 そして、その累積で、銀之丞は人魚同様の「不死の力」を得ていたのだ。
………

「な、なぜおまえが・・・。
 人魚と交われば得られる力なのか? ならば、交わってみるか・・・」

 治太夫は、縛り付けられたままのナナセの股間に手を伸ばした。

「や、やめろ~!!」

 必死にとりすがって来る銀之丞の顔を、治太夫は思いっきり殴りつけた。

「キャー! やめてー!!」

 一際大きな叫び声を、ナナセが上げる。こちらも必死な形相で藻掻きながら・・・。
 尻餅をついて倒れ込んだ銀之丞は、それでも、直ぐに起き上がって治太夫に跳び付いて行こうとした。

「ええい、鬱陶うっとうしい!」

 治太夫は、力を込めた鎌鼬を発動した。
 同時に、銀之丞の動きがスッと止まった。
 …表情を無くした銀之丞の頭部がゴロッと転がり落ちる。
 鎌鼬で切断されたのだ。
 頭部を失った首から血が噴き出し、胴体はビクッビクッと痙攣しながら倒れ込んだ。

「ギャー!! 銀様、銀様が!いやいや、銀様ー!!」

 ナナセの叫び声・・・。
 治太夫は構わず、床に転がった銀之丞の首級を足蹴にした。
 そして髪を掴んで拾い上げ、戸口へ向かった。

「ギャー! 止めて、止めて! お願いだから、頭は!!」

 更にナナセが叫ぶが、構わず、手にぶら下げた物を思いっきり外へ蹴り飛ばした。
 銀之丞の首は高く飛んで行き、ボチャンと海の中に落ちて沈んでいった。治太夫はそれを確認し、戸を閉めた。

「いや~!!ぎ、銀様!!銀様!!」

 ナナセは半狂乱になっている。閉められた戸の方を見て藻掻き叫ぶが、しっかり縛られているので動けない。

 治太夫は着物を脱ぎ、腰蓑も外して裸になった。
 股間のモノは既に大きく屹立していた。
 自分の事よりも、蹴り飛ばされてしまった銀之丞の首を気にして泣き叫んでいるナナセの脚の拘束を解き、暴れさせないようにしっかりつかんで、股を開かせた。

「い、いや~!!止めて!いやいや!絶対いや~!!」

 ようやく、自分が何をされようとしているか理解し、ナナセは拘束を解かれた脚を必死にバタつかせようとするが、河童の怪力には敵わない。

 無理やり広げられたナナセの股間。治太夫は初めて人魚の生殖器を観察する…。
 外見は、ヒトと似ている。陰毛もあり、縦の割れ目と、陰唇がある。
 だが、よく見ると、ヒトとは違うことが分かる。
 まず、尿道口が無い。人魚はオシッコをしないのだ。
 陰唇に隠されている穴は一つのみ。生殖口で、ヒトよりも少し大き目の穴。
 その下、ヒトの肛門に当たる場所にあるのは排泄口。ここから、大便と小便の混じった物を排泄する。
 治太夫は、ナナセの生殖口に、自分のモノをあてがった。そして、前戯も無しに、いきなり・・・。

「はう~!! いや~!! やめ、やめて! ダメ!抜いて!銀様以外と交わるなんて、絶対イヤ~!!」

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