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恵美と河童
40 治太夫と死神3
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鎌鼬を手に入れるため・・・。
治太夫は、その覚悟を決めた。
格子を開けて中へ入った。牢のような造りになっているが、実際は鍵など掛かっていない。関係ない河童を近寄らせないためのカモフラージュだ。
死神の前に坐る。
目の前にはニヤッと笑う皴々の顔…。
治太夫はゴクッと唾をのみ、声を掛けた。
「よろしく頼む」
死神の顔が近づいてくる。
パサッとした、枯れた唇が合わさった。
口の中に死神の舌が潜り込んできて、中を弄って来る。と、同時に、実体の無い、気配のようなものも口を通して流れ込んできた。
体が熱い・・・。
死神は、唇を離した。
「ようも、こんな薄汚い老婆と口づけしてくださった。これで念ずるだけで鎌鼬が使えます。
あとは、鍛錬次第。使いこなせるようになれば、至近距離であれば相手の骨も断ち切れるでしょう」
治太夫は口を押えながら無言で頷いた。
後は鍛錬次第…。森の中で毎日練習することにする。
「それと…。先ほどのご質問の答えが分かりました」
「うん?質問?」
治太夫がした質問。確認したかった、鬼の人界への行き来の方法だ。
「鏡です。鬼が持つ、特別な鏡に月の光を映し、それで特定の文様を描くことで『異界の門』が開きます」
これは、助吉の持ってきた書付の内容と一致すること。間違いない。あの書付に書かれていたことは正しいのだ。そして、その特定の模様はあの書付に記されていた。五芒星だ。
「あと、もう一つ・・・。貴方様の寿命についてです。大変申し上げにくいのですが・・・。
貴方様の寿命は、あと一年・・・」
「な、何!」
自分の寿命が、あと一年・・・。
死を宣告する死神からのお告げだ。
治太夫は、目の前が真っ暗になる気がした。
あと一年しか生きられない・・・。
これでは、人魚の支配から脱して河童だけの豊かな社会を作るなんてことは叶わない……。全ての希望が閉ざされてしまう。
絶望で、身動きもとれなくなった治太夫の頭に、死神の声だけが響いてくる。
「私は、このことをお知らせせずに逝こうと思っておりました。が、先ほど貴方様と口づけをしたとき、寿命を延ばす方法が見えましたので、お知らせしました。
大変困難な方法ではあるのですが・・・」
響いてきた死神の声・・・。
それは希望の光となり、真っ暗になっていた治太夫の頭の中を満たした。
「き、聞かせてくれ!!」
治太夫は、死神にとりすがった。
死神は頷き、口を開いた。
「人魚を喰うこと」
!?・・・。 人魚を、喰う・・・。
「我ら人の世では、八百比丘尼という話が伝わっております。私も母親から聞かされました。人魚の肉を喰った娘が死ねなくなり、八百歳まで生きたという話です。
聞かされた時には人魚だなんて作り話だと思っていました。が・・・。実在しますよね。人魚様は・・・」
人魚を喰う…。考えてもみなかった。
だが、確か、助吉の書付にも、真偽不明としながら書かれていたことだ。
それに、人魚の支配から脱するには、人魚を駆逐しなければならない。であるならば、喰っても問題無いかもしれないが…。
「人魚は不死と自己治癒の能力を持っております。人魚を喰うことで、その能力を奪えます。
単に肉を喰うだけではいけません。どこか、特定の部位を喰う必要があるようです。そこが人魚の急所。そこを喰われると、不死とされる人魚も死にます。
そして、喰った者が、人魚の力を受け継ぐことになります。不死だけでなく、その人魚が持つ、他の力も・・・」
他の力・・・。
人魚の持つ大きな力。それは、異界出入りの力。
その力があれば、鬼の神鏡も不要で、あっと言う間に全ての問題が解決してしまう。
河童にとってヒトは、食材であると同時に天敵でもある。そのヒトの進化系である鬼になど、出来ることならば近づきたくはない。
「どこの部位を喰えば力が得られるのかはわかりませんが、体のどこかの部分ですので、最高でも、一人丸々喰えば大丈夫でしょう」
治太夫は頷いた。
残された寿命が一年…。このままでは、どうしようもない。
不死になり、異界出入りも出来るようになるのであれば、一石二鳥だ。これは、もう実行するしかない。
彼は、すぐさま森へ入って鎌鼬の練習を開始した。
初めは木の葉を切り落とす程度にしか使えなかったが、回数を重ねる毎にコツがつかめてきた。
やがて、枝も切断できるようになってゆく。複数同時発動も可能になる。
三日で、太い木の枝もバッサリ切断できるまでになった。
喜び勇んで死神の牢へ行き、そのことを告げると、彼女は頷き、また口を開いた。
「明日、若い人魚が一人で童島に遊びに来ます。他の人魚には内緒で…。若いモノにありがちな、冒険願望でしょうかな?
絶好の機会です。この人魚は、金縛りが使えないようですので、捕えるのは容易いでしょう。
場所は、島の西はずれの岩場です」
島の西はずれ…。そこは、誰も住んでいないところ。
今は使われていない舟小屋が一つあったはず。そこに監禁することが出来るから、都合よい。
だが、気になる一言が添えられていた・・・。
「今、その人魚は金縛りが使えないと言ったか?
それはどういうことだ。人魚は全て金縛りや異界で出入りの能力があるのでは無いのか?」
「申し訳ありません。それは分かりません。
私には全てが分かる訳ではありません。知りたいと思ったことは分からない、不便な力です」
「そ、そうであったな…。すまぬ」
金縛りを使えないのなら、捕まえるのには難易度が格段下がる。
但し、その人魚の力を奪っても金縛りの能力は得られないということだ。そして、金縛りだけでなく、他の力に関しても、同じとなる。
治太夫は、全ての人魚が同じように全ての異能力を使えると思っていたのだが、どうも、そういうことでは無いようだ。
まあ、不死の力に関しては、人魚共通のはずだ。これは、死神が言い出した話だ。死神の言うようにして、不死の力が手に入らないということは無いであろう。
治太夫は、その覚悟を決めた。
格子を開けて中へ入った。牢のような造りになっているが、実際は鍵など掛かっていない。関係ない河童を近寄らせないためのカモフラージュだ。
死神の前に坐る。
目の前にはニヤッと笑う皴々の顔…。
治太夫はゴクッと唾をのみ、声を掛けた。
「よろしく頼む」
死神の顔が近づいてくる。
パサッとした、枯れた唇が合わさった。
口の中に死神の舌が潜り込んできて、中を弄って来る。と、同時に、実体の無い、気配のようなものも口を通して流れ込んできた。
体が熱い・・・。
死神は、唇を離した。
「ようも、こんな薄汚い老婆と口づけしてくださった。これで念ずるだけで鎌鼬が使えます。
あとは、鍛錬次第。使いこなせるようになれば、至近距離であれば相手の骨も断ち切れるでしょう」
治太夫は口を押えながら無言で頷いた。
後は鍛錬次第…。森の中で毎日練習することにする。
「それと…。先ほどのご質問の答えが分かりました」
「うん?質問?」
治太夫がした質問。確認したかった、鬼の人界への行き来の方法だ。
「鏡です。鬼が持つ、特別な鏡に月の光を映し、それで特定の文様を描くことで『異界の門』が開きます」
これは、助吉の持ってきた書付の内容と一致すること。間違いない。あの書付に書かれていたことは正しいのだ。そして、その特定の模様はあの書付に記されていた。五芒星だ。
「あと、もう一つ・・・。貴方様の寿命についてです。大変申し上げにくいのですが・・・。
貴方様の寿命は、あと一年・・・」
「な、何!」
自分の寿命が、あと一年・・・。
死を宣告する死神からのお告げだ。
治太夫は、目の前が真っ暗になる気がした。
あと一年しか生きられない・・・。
これでは、人魚の支配から脱して河童だけの豊かな社会を作るなんてことは叶わない……。全ての希望が閉ざされてしまう。
絶望で、身動きもとれなくなった治太夫の頭に、死神の声だけが響いてくる。
「私は、このことをお知らせせずに逝こうと思っておりました。が、先ほど貴方様と口づけをしたとき、寿命を延ばす方法が見えましたので、お知らせしました。
大変困難な方法ではあるのですが・・・」
響いてきた死神の声・・・。
それは希望の光となり、真っ暗になっていた治太夫の頭の中を満たした。
「き、聞かせてくれ!!」
治太夫は、死神にとりすがった。
死神は頷き、口を開いた。
「人魚を喰うこと」
!?・・・。 人魚を、喰う・・・。
「我ら人の世では、八百比丘尼という話が伝わっております。私も母親から聞かされました。人魚の肉を喰った娘が死ねなくなり、八百歳まで生きたという話です。
聞かされた時には人魚だなんて作り話だと思っていました。が・・・。実在しますよね。人魚様は・・・」
人魚を喰う…。考えてもみなかった。
だが、確か、助吉の書付にも、真偽不明としながら書かれていたことだ。
それに、人魚の支配から脱するには、人魚を駆逐しなければならない。であるならば、喰っても問題無いかもしれないが…。
「人魚は不死と自己治癒の能力を持っております。人魚を喰うことで、その能力を奪えます。
単に肉を喰うだけではいけません。どこか、特定の部位を喰う必要があるようです。そこが人魚の急所。そこを喰われると、不死とされる人魚も死にます。
そして、喰った者が、人魚の力を受け継ぐことになります。不死だけでなく、その人魚が持つ、他の力も・・・」
他の力・・・。
人魚の持つ大きな力。それは、異界出入りの力。
その力があれば、鬼の神鏡も不要で、あっと言う間に全ての問題が解決してしまう。
河童にとってヒトは、食材であると同時に天敵でもある。そのヒトの進化系である鬼になど、出来ることならば近づきたくはない。
「どこの部位を喰えば力が得られるのかはわかりませんが、体のどこかの部分ですので、最高でも、一人丸々喰えば大丈夫でしょう」
治太夫は頷いた。
残された寿命が一年…。このままでは、どうしようもない。
不死になり、異界出入りも出来るようになるのであれば、一石二鳥だ。これは、もう実行するしかない。
彼は、すぐさま森へ入って鎌鼬の練習を開始した。
初めは木の葉を切り落とす程度にしか使えなかったが、回数を重ねる毎にコツがつかめてきた。
やがて、枝も切断できるようになってゆく。複数同時発動も可能になる。
三日で、太い木の枝もバッサリ切断できるまでになった。
喜び勇んで死神の牢へ行き、そのことを告げると、彼女は頷き、また口を開いた。
「明日、若い人魚が一人で童島に遊びに来ます。他の人魚には内緒で…。若いモノにありがちな、冒険願望でしょうかな?
絶好の機会です。この人魚は、金縛りが使えないようですので、捕えるのは容易いでしょう。
場所は、島の西はずれの岩場です」
島の西はずれ…。そこは、誰も住んでいないところ。
今は使われていない舟小屋が一つあったはず。そこに監禁することが出来るから、都合よい。
だが、気になる一言が添えられていた・・・。
「今、その人魚は金縛りが使えないと言ったか?
それはどういうことだ。人魚は全て金縛りや異界で出入りの能力があるのでは無いのか?」
「申し訳ありません。それは分かりません。
私には全てが分かる訳ではありません。知りたいと思ったことは分からない、不便な力です」
「そ、そうであったな…。すまぬ」
金縛りを使えないのなら、捕まえるのには難易度が格段下がる。
但し、その人魚の力を奪っても金縛りの能力は得られないということだ。そして、金縛りだけでなく、他の力に関しても、同じとなる。
治太夫は、全ての人魚が同じように全ての異能力を使えると思っていたのだが、どうも、そういうことでは無いようだ。
まあ、不死の力に関しては、人魚共通のはずだ。これは、死神が言い出した話だ。死神の言うようにして、不死の力が手に入らないということは無いであろう。
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