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沙織
30 亜希子の秘密1
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少し打ち合わせをし、権兵衛はすぐに、沙織と一緒に山本家へ向かった。
そして、到着するなり優子の前で、痛い痛いとのたうち回って見せた。
慌てて近くの病院に担ぎ込まれる。
医師には、「秘書」として、沙織がそっと、「癌らしい。家族以外には、絶対内密に」と耳打ちした。
すぐに検査され、実の娘の優子に告知がされた。癌であり、手術も難しい状態で、あと三ヶ月生きられないと…。
わざわざ別の医者に診察させたのも、もちろん理由があってのこと。優子の方から亜希子を頼るという形にするためだ。
だから、医師には沙織から、もう一つ、耳打ちしてあった。「手に負えない状態なら、野村医療研究所への紹介状を作成してほしい」と…。
優子は医師から渡された紹介状を持ち、青い顔をして、実の父親の病床に来た。
ショックを隠すつもりで隠しきれていない優子に、権兵衛から話しかけた。
「医者は、あとどれだけの命だと言った?」
「え・・・」
絶句する優子。
「癌じゃろう。もう、手遅れだな」
「お父様・・・」
「まだ、この国の為に、やり残したことが幾つかある。無念だ。無念だ…」
痛そうに顔を顰める。実際に痛いのを常に我慢していたのだ。これは、別段、演技でもない。
「大丈夫よ。先生から、亜希ちゃんのところの紹介状をもらってるの。こんな物無くても、亜希ちゃんなら診てくれるけどね。
今、評判になっているのよ。死にそうな重傷者も完璧に治してしまう、奇跡の医者って!」
医師からは、まず助からないと、ハッキリ言われた。万一、可能性があるなら、野村医療研究所しかないとも。
だがそれも、「万一」である。あまり期待は出来ないが、もう妹を頼るしか他に方法が無い。
「あ、亜希子か。治るかどうかはともかく、会ってはおきたいな。生きているうちに・・・」
懐かしそうに、そして寂しそうに言う権兵衛……。
ついさっき会ってきたばかりだというのに、これは大した演技だ。流石は総理まで務めた大政治家といったところか。
秘書として部屋隅に控えて見ていた沙織は、権兵衛の迫真の演技に感心し、苦笑していた。
勿論、青い顔をして権兵衛の言葉を聞いていた優子には、気付かれないようにである。
即刻、権兵衛と沙織は、優子も伴って亜希子の研究所に蜻蛉返りしてきた。優子は帰りのことも考え、自分の車で権兵衛の乗った車の後をついてきた。
三人が到着した時、慎也たちは、他の患者の治療相談や権兵衛の入院準備の手伝いと、その後の杏奈・環奈との歓談とで、まだ研究所内にいた。しかし、顔を合わせるのは拙いということで、亜希子の指示するところへ、すぐに隠れる。
ただ、杏奈と環奈がここでバイトしているのは、優子も承知していること。(今日は学校をサボって午前中から来ているということは知らないが…)だから、この二人は堂々と出ていって、診察に付き添った。
亜希子は何事も無かったように、再度の診察をする。診察と言っても、先ほど終えたばかりであるし、透視が出来る美雪も同席していないから、これは、診察しているフリ…。
そして、亜希子の口から、同じ癌告知。さらに、治せる宣言だ。
「亜希ちゃん!お願いします。さっきの病院では、もう助からないって言われたのよ。もう、あなただけが頼りなの!」
優子は両手で亜希子の手を握って懇願した。亜希子にとっては、これも予定通り。
「姉さん。大丈夫よ。私にとっても大事なお父様ですし、これは、治せます。ただ・・・」
「え?なに?亜希ちゃん。あ、そうだ、保険が利かない治療なのよね。費用が掛かるなら、言ってよ。何とかするから!」
「違うのよ。お父様は治せます。ただ、治療出来るのは、私では無いの。治してくれるのは、この人たちよ」
亜希子は、一枚の写真を優子に差し出した。
約五年前に、優子の依頼で亜希子が撮影した慎也たち家族の写真。あの時優子に渡された写真には慎也が入っていなかったが、そのあと撮りなおした慎也も含めての写真の方である。
「亜希ちゃん・・・。どういうこと?」
優子は亜希子を睨みつけながら、低い声で訊く。
「姉さん…。 沙織さん、杏奈さん、環奈さんが五年間、何をしていたかは知ってる?」
優子は亜希子の問い掛けに答えず、かといって亜希子から目を逸らさない。睨みつけたままだ。
亜希子は構わず続ける。
「『神子』と呼ばれる、この世を救う存在となる子を身籠り、産み、育てて、鬼の世界へ鬼の妻として送り出したの」
「お、鬼?」
優子はギョッとして、同室している娘三人に視線を移した。鬼の件については一般には伏せられていることなのだ。
「そう、鬼。滋賀県で起きた警察署襲撃事件と、アイドル細田美月さん惨殺事件。あれは鬼の仕業よ。義兄さんに訊いてみれば分かるわ。その鬼を退治したのは、この皆さん。
報道されていない事件もあるわ。私も、鬼に拉致されたのを助けてもらったの。皆さんは、それぞれ、異能の力を獲得している。これを見て」
次に亜希子が出してきて、優子に見せた物。それは、早紀が撮った鬼との闘いの写真の一部。……これは、舞衣から恵美に管理が委任されていたものだったが、恵美は月影村への旅立ちの直前、密かに亜希子に託していっていた。
恵美が鬼を仕留める場面。それと、深手を負った恵美。さらに、その傷を治す慎也の、二〇枚ほどの写真。勿論だが、亜希子自身のアラレモナイ写真は抜き取ってある。
「分かる?姉さん。こんな深手の傷が、一瞬で治ってるのよ。トリックでも何でもない。
この皆さんが、お父様を治してくれます。この皆さん以外に、お父様を救える人はいません。ここまで酷い癌だと、杏奈さん、環奈さん、沙織さんの力も必要よ」
「お母様!私たちがお爺様を治します。だから、私たちを慎也さんの元へ戻らせください!私は慎也さんの元に戻りたい!」
(あ、ダメ!)
沙織が優子へ訴えようとするのを、亜希子は目で止めさせようとした。が、もう遅かった。
亜希子は、まず誰が治療するのかを先に知らせるだけに留め、治療完了後に沙織たちを慎也の元に戻すように説得しようと考えていたのだが…。
「何! あなた、またあの男のところへ戻ってしまうというの? あの男に娘を差し出せって言うの? 冗談じゃありません! そんなことは、絶対に、許しませんよ!!」
優子は激高し、机をバンと激しく叩いた。
権兵衛も、これはマズイと思った。そして、咄嗟の判断…。腹を抑えて苦しそうに倒れて見せた。
「ゆ、優子・・・。頼む。私には、まだやり残したことがある・・・。もう少し・・・。もう少し時間が欲しい・・・。だから・・・」
役者顔負けの演技をする権兵衛を、沙織・杏奈・環奈が駆け寄って起こした。そして、その四人で、揃って悲し気な視線を優子に送った。
「お、お父様!!」
優子は唇を噛んだ。
「ひ、卑怯よ!お父様を人質に取るなんて! この、人で無しども!!」
誰も、権兵衛を人質になんかしていない。が、優子にしてみれば、そんな気にもなるだろう。亜希子をキッと睨みつけ、部屋を飛び出して行ってしまった。
慎也たちが亜希子に指示されて隠れていたのは、診察室の衝立の向こう側。前に、杏奈と環奈が隠れていたところだ。だから、交わされていた亜希子たちの会話は筒抜けだった。
慎也は頭を抱えた。…全く話に成らない。
優子が出て行ってしまったので衝立から顔を出して覗いてみると、沙織も杏奈も環奈も、泣き出しそうな顔をしていた。
権兵衛も、自分の娘のことながら困り顔だ。
亜希子は、優子が後ろ手で勢いよく閉めて言った扉を再度開け、廊下に優子がいないのを確認した。扉を閉め、窓から外を眺めると、優子が車に乗り込むのが見えた。
権兵衛を放って一人で帰るつもりらしい。つまり、権兵衛の処置に関しては亜希子に任せたということか。
しかし、娘たちが慎也の元に戻ることには全く同意の気配も無い。
「沙織さん、ダメよ。焦り過ぎ…。お父様は、ナイス!」
絶望の表情で項垂れる沙織の肩を、亜希子は優しく叩き、権兵衛にはウインクした。そして、衝立から覗き込んでいる慎也たちに手招きし、皆を集めて改めて見渡した。
立ち並ぶ面々は、一様に暗い顔をしている。
「まあ、大丈夫よう、皆さん。そんな顔しなくても…。事前に宣言しておくのも、考えてみれば良かったかもしれないわ。徐々に覚悟を決めさせるためにね。
だいたい、娘三人も治療に当たることになっていて、他に治療法が無いとなれば、妨害する訳にいかないでしょ。嫌でも、沙織さんたちをこちらに送らなければならないわよ。
お三人は、行くなって言われても、お爺様の為だって言って、振り払って出てきてね。義兄さんにもお願いしておくけど、あんまり煩いようなら、家を出ちゃって、こっちに泊まっても良いから」
「しかし、これでは治った後はまた、沙織たちを引き離そうとするんじゃないだろうか…。
杏奈と環奈がここでアルバイトするということの意味も分かってしまっただろうし…」
権兵衛の心配していることも、当然考えられることだ。これでは杏奈と環奈のアルバイトも禁止される可能性が高い。いや、アルバイトどころか、ここへの就職も・・・。
「大丈夫だって。今、怒り狂っていても、お父様の病気が治ってくれば、落ち着いてくるわよ。父親の命の恩人ともなれば、無下にも出来ないから」
果たして、そう上手くゆくのであろうか…。亜希子一人、楽観視しているようだが、他の皆は不安を隠せなかった。
そして、到着するなり優子の前で、痛い痛いとのたうち回って見せた。
慌てて近くの病院に担ぎ込まれる。
医師には、「秘書」として、沙織がそっと、「癌らしい。家族以外には、絶対内密に」と耳打ちした。
すぐに検査され、実の娘の優子に告知がされた。癌であり、手術も難しい状態で、あと三ヶ月生きられないと…。
わざわざ別の医者に診察させたのも、もちろん理由があってのこと。優子の方から亜希子を頼るという形にするためだ。
だから、医師には沙織から、もう一つ、耳打ちしてあった。「手に負えない状態なら、野村医療研究所への紹介状を作成してほしい」と…。
優子は医師から渡された紹介状を持ち、青い顔をして、実の父親の病床に来た。
ショックを隠すつもりで隠しきれていない優子に、権兵衛から話しかけた。
「医者は、あとどれだけの命だと言った?」
「え・・・」
絶句する優子。
「癌じゃろう。もう、手遅れだな」
「お父様・・・」
「まだ、この国の為に、やり残したことが幾つかある。無念だ。無念だ…」
痛そうに顔を顰める。実際に痛いのを常に我慢していたのだ。これは、別段、演技でもない。
「大丈夫よ。先生から、亜希ちゃんのところの紹介状をもらってるの。こんな物無くても、亜希ちゃんなら診てくれるけどね。
今、評判になっているのよ。死にそうな重傷者も完璧に治してしまう、奇跡の医者って!」
医師からは、まず助からないと、ハッキリ言われた。万一、可能性があるなら、野村医療研究所しかないとも。
だがそれも、「万一」である。あまり期待は出来ないが、もう妹を頼るしか他に方法が無い。
「あ、亜希子か。治るかどうかはともかく、会ってはおきたいな。生きているうちに・・・」
懐かしそうに、そして寂しそうに言う権兵衛……。
ついさっき会ってきたばかりだというのに、これは大した演技だ。流石は総理まで務めた大政治家といったところか。
秘書として部屋隅に控えて見ていた沙織は、権兵衛の迫真の演技に感心し、苦笑していた。
勿論、青い顔をして権兵衛の言葉を聞いていた優子には、気付かれないようにである。
即刻、権兵衛と沙織は、優子も伴って亜希子の研究所に蜻蛉返りしてきた。優子は帰りのことも考え、自分の車で権兵衛の乗った車の後をついてきた。
三人が到着した時、慎也たちは、他の患者の治療相談や権兵衛の入院準備の手伝いと、その後の杏奈・環奈との歓談とで、まだ研究所内にいた。しかし、顔を合わせるのは拙いということで、亜希子の指示するところへ、すぐに隠れる。
ただ、杏奈と環奈がここでバイトしているのは、優子も承知していること。(今日は学校をサボって午前中から来ているということは知らないが…)だから、この二人は堂々と出ていって、診察に付き添った。
亜希子は何事も無かったように、再度の診察をする。診察と言っても、先ほど終えたばかりであるし、透視が出来る美雪も同席していないから、これは、診察しているフリ…。
そして、亜希子の口から、同じ癌告知。さらに、治せる宣言だ。
「亜希ちゃん!お願いします。さっきの病院では、もう助からないって言われたのよ。もう、あなただけが頼りなの!」
優子は両手で亜希子の手を握って懇願した。亜希子にとっては、これも予定通り。
「姉さん。大丈夫よ。私にとっても大事なお父様ですし、これは、治せます。ただ・・・」
「え?なに?亜希ちゃん。あ、そうだ、保険が利かない治療なのよね。費用が掛かるなら、言ってよ。何とかするから!」
「違うのよ。お父様は治せます。ただ、治療出来るのは、私では無いの。治してくれるのは、この人たちよ」
亜希子は、一枚の写真を優子に差し出した。
約五年前に、優子の依頼で亜希子が撮影した慎也たち家族の写真。あの時優子に渡された写真には慎也が入っていなかったが、そのあと撮りなおした慎也も含めての写真の方である。
「亜希ちゃん・・・。どういうこと?」
優子は亜希子を睨みつけながら、低い声で訊く。
「姉さん…。 沙織さん、杏奈さん、環奈さんが五年間、何をしていたかは知ってる?」
優子は亜希子の問い掛けに答えず、かといって亜希子から目を逸らさない。睨みつけたままだ。
亜希子は構わず続ける。
「『神子』と呼ばれる、この世を救う存在となる子を身籠り、産み、育てて、鬼の世界へ鬼の妻として送り出したの」
「お、鬼?」
優子はギョッとして、同室している娘三人に視線を移した。鬼の件については一般には伏せられていることなのだ。
「そう、鬼。滋賀県で起きた警察署襲撃事件と、アイドル細田美月さん惨殺事件。あれは鬼の仕業よ。義兄さんに訊いてみれば分かるわ。その鬼を退治したのは、この皆さん。
報道されていない事件もあるわ。私も、鬼に拉致されたのを助けてもらったの。皆さんは、それぞれ、異能の力を獲得している。これを見て」
次に亜希子が出してきて、優子に見せた物。それは、早紀が撮った鬼との闘いの写真の一部。……これは、舞衣から恵美に管理が委任されていたものだったが、恵美は月影村への旅立ちの直前、密かに亜希子に託していっていた。
恵美が鬼を仕留める場面。それと、深手を負った恵美。さらに、その傷を治す慎也の、二〇枚ほどの写真。勿論だが、亜希子自身のアラレモナイ写真は抜き取ってある。
「分かる?姉さん。こんな深手の傷が、一瞬で治ってるのよ。トリックでも何でもない。
この皆さんが、お父様を治してくれます。この皆さん以外に、お父様を救える人はいません。ここまで酷い癌だと、杏奈さん、環奈さん、沙織さんの力も必要よ」
「お母様!私たちがお爺様を治します。だから、私たちを慎也さんの元へ戻らせください!私は慎也さんの元に戻りたい!」
(あ、ダメ!)
沙織が優子へ訴えようとするのを、亜希子は目で止めさせようとした。が、もう遅かった。
亜希子は、まず誰が治療するのかを先に知らせるだけに留め、治療完了後に沙織たちを慎也の元に戻すように説得しようと考えていたのだが…。
「何! あなた、またあの男のところへ戻ってしまうというの? あの男に娘を差し出せって言うの? 冗談じゃありません! そんなことは、絶対に、許しませんよ!!」
優子は激高し、机をバンと激しく叩いた。
権兵衛も、これはマズイと思った。そして、咄嗟の判断…。腹を抑えて苦しそうに倒れて見せた。
「ゆ、優子・・・。頼む。私には、まだやり残したことがある・・・。もう少し・・・。もう少し時間が欲しい・・・。だから・・・」
役者顔負けの演技をする権兵衛を、沙織・杏奈・環奈が駆け寄って起こした。そして、その四人で、揃って悲し気な視線を優子に送った。
「お、お父様!!」
優子は唇を噛んだ。
「ひ、卑怯よ!お父様を人質に取るなんて! この、人で無しども!!」
誰も、権兵衛を人質になんかしていない。が、優子にしてみれば、そんな気にもなるだろう。亜希子をキッと睨みつけ、部屋を飛び出して行ってしまった。
慎也たちが亜希子に指示されて隠れていたのは、診察室の衝立の向こう側。前に、杏奈と環奈が隠れていたところだ。だから、交わされていた亜希子たちの会話は筒抜けだった。
慎也は頭を抱えた。…全く話に成らない。
優子が出て行ってしまったので衝立から顔を出して覗いてみると、沙織も杏奈も環奈も、泣き出しそうな顔をしていた。
権兵衛も、自分の娘のことながら困り顔だ。
亜希子は、優子が後ろ手で勢いよく閉めて言った扉を再度開け、廊下に優子がいないのを確認した。扉を閉め、窓から外を眺めると、優子が車に乗り込むのが見えた。
権兵衛を放って一人で帰るつもりらしい。つまり、権兵衛の処置に関しては亜希子に任せたということか。
しかし、娘たちが慎也の元に戻ることには全く同意の気配も無い。
「沙織さん、ダメよ。焦り過ぎ…。お父様は、ナイス!」
絶望の表情で項垂れる沙織の肩を、亜希子は優しく叩き、権兵衛にはウインクした。そして、衝立から覗き込んでいる慎也たちに手招きし、皆を集めて改めて見渡した。
立ち並ぶ面々は、一様に暗い顔をしている。
「まあ、大丈夫よう、皆さん。そんな顔しなくても…。事前に宣言しておくのも、考えてみれば良かったかもしれないわ。徐々に覚悟を決めさせるためにね。
だいたい、娘三人も治療に当たることになっていて、他に治療法が無いとなれば、妨害する訳にいかないでしょ。嫌でも、沙織さんたちをこちらに送らなければならないわよ。
お三人は、行くなって言われても、お爺様の為だって言って、振り払って出てきてね。義兄さんにもお願いしておくけど、あんまり煩いようなら、家を出ちゃって、こっちに泊まっても良いから」
「しかし、これでは治った後はまた、沙織たちを引き離そうとするんじゃないだろうか…。
杏奈と環奈がここでアルバイトするということの意味も分かってしまっただろうし…」
権兵衛の心配していることも、当然考えられることだ。これでは杏奈と環奈のアルバイトも禁止される可能性が高い。いや、アルバイトどころか、ここへの就職も・・・。
「大丈夫だって。今、怒り狂っていても、お父様の病気が治ってくれば、落ち着いてくるわよ。父親の命の恩人ともなれば、無下にも出来ないから」
果たして、そう上手くゆくのであろうか…。亜希子一人、楽観視しているようだが、他の皆は不安を隠せなかった。
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