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沙織
29 沙織の帰還3
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診察中の美雪と亜希子の会話は、権兵衛には知られないように、少し離れて小声で交わされていた。診ては離れたところで解剖図と照らし合わせ、亜希子と相談し、再度診てということを繰り返していた。
だから、権兵衛は、まだ結果を知らない。しかし、亜希子と美雪の深刻な顔、そして、二人の会話を聞いて顔面蒼白になっている沙織の様子を見て、権兵衛は、良くないようだと予想を付けていた。
全員揃ったところで、亜希子からの告知が始まる。
「お父様。なぜ、もっと早く医者に行かなかったんですか!かなりの痛みがあったでしょうに…。
癌です。それも、かなり進行しています。胃と十二指腸、肝臓・膵臓も侵されていますし、その他にも転移しているようです。
普通ですと、もう手術しても助かる見込みは、かなり低い。というか、無理。完全な手遅れ。もうダメです」
「そ、そうか…。もうダメか……」
権兵衛は、流石に動揺を隠せなかった。良くは無いと予想はしていたが、癌とは…。
更に、名医と評判の医者に「完全手遅れ」と宣告されたのだ。ショックを受けないはずがない。
「ですが、お父様。あなたは、とっても、運が良い。本当なら三ヶ月も持ちません。ですが、今日、ここへ来たことで、命拾いしました。
治ります。そして、治してくれるのは、ここに居る、皆さんです。」
青い顔をして祖父の手を握り、先程とは別の意味での涙目になっていた沙織が呟く。
「そ、そうか、慎也さんの治癒の力なら…」
「いえ、沙織さん。慎也さんの治癒能力は、癌には効かないことが判明しています。傷を再生させるだけで、癌細胞を消すことは出来ないのです。ですから、末期癌の治療は慎也さんの能力では無理です」
沙織は皆と別れた後、慎也たちの方の情報が殆ど無い状態で暮らしていたので、後に判明したこの事を、まだ知らなかった。当然、早紀の「聖液」のことも。だから、自分が予想したことを否定され、当惑した。
(慎也さんで無いとすれば祥子さん? でも、治癒の力では慎也さんの方が上のはず…。いや、その治癒の力自体が癌には無効…)
沙織の思考が混乱する。
「大丈夫です。他の方法が、ちょうど見つかったところなのです。そして、それが出来るのは、慎也さん始めとする、この皆さんなのです。沙織さんにも、協力してもらいますよ!」
沙織は、どういうことか、さっぱり、全く、分からないが、とにかく頷いた。自分の祖父のことだ。協力せよと言われれば、否やは無い…。
慎也たちにしても、亜希子の発言は少し不自然に聞こえた。
実際に癌を治せるとすれば、早紀の「聖液」だ。だから、早紀が治してくれると言うのが普通である。だが、早紀の力は、一応、内緒にしておくことになっている。
……早紀の力を特定できないようにという亜希子の配慮か? だけれども、沙織の協力も必要としたのはなぜか……
慎也がそんなことを考えていると、亜希子が、権兵衛に分からないようにウインクしてきた。どうも、それだけでなく、何か考えがあるらしい。
同じくウインクに気が付いた舞衣が、慎也にテレパシーを送ってくる。
…『慎也さん! 亜希子さん、何か謀り事があるみたいよ。話を合わせてあげて!』
…『了解! 他のみんなにも伝えて!』
…『分かったわ。』
亜希子の話は続く。
「私の研究所の噂、お父様は御存じですよね?」
「うん? あ、ああ、康市君から聞いた。重症の患者でも治してしまうと、かなりの評判のようだが…」
「そう、それです。ですが、実際の治療をしているのは、私ではありません。慎也さんたちです。沙織さんの異能力について知っていらっしゃるんですから、分かりますよね。ここに居る皆さんは、皆、異能力を持っていらっしゃいます。先ほど、お父様を診た美雪さんは、透視の力です。あとは、あまり具体的には明かせませんが、それぞれに凄い力を持っていて、治療に当たってくださっています」
ただ一人だけ名前と能力を公開されてしまった美雪は面食らった。
確かに自分は透視の力があるが、診察として使ったのは、権兵衛が三人目。一人目と二人目はスミレと早紀であって、身内のことであり、ここでの診察に協力してきたことなど全く無いのだ。
ここでキッパリ否定しないと、きっとこの後も治療協力と称して透視させられる羽目になる。これは、まず間違い無い。亜希子も、そのつもりで美雪の名前を出したのだということは容易に想像できた。
だから美雪は、即座にそのことを指摘しようとした。
が…。舞衣からのテレパシーによる指令を受けて、開きかけた口を閉ざした。渋い顔をして…。
大いに不満であるが、慎也の妾となった以上、正妻様には逆らえない…。
「実際の治療をするのは、皆さん。だけど、皆さんは医療資格を持っていませんので、医療行為は出来ない。なので、私がしていることになっています。
当然、これは、絶対に公言出来ないことです。前内閣総理大臣・現職国会議員に明かして良い事ではありませんが、私の父親として、秘密を保持してくれる人だと信頼して話しています。このことは理解してくださいね」
「あ、ああ、もちろんだ。孫も絡んでおるしな」
権兵衛は、杏奈と環奈を見て了承の意を示した。
その双子二人はニヤッと怪しい笑顔を見せた。これから亜希子が何を言おうとしているのか、察知したようだ。
「ここの治療は、通常の治療と違いますから、保険適応外です。治す患者は、通常では命を失うような人ばかりです。法外な額を吹っかけているつもりはありませんが、それ相応にお礼を置いて行ってもらっています。
ですが、お父様からは、治療費は頂きません。その代わり…。沙織さん・杏奈さん・環奈さんを、慎也さんたちの元に返すのに、協力してもらいます」
「うん?」
権兵衛は、そのことには反対していないのだ。さっきも、亜希子も同席する場で、慎也たちとそれについて話したばかりだ。
とりあえず会えるようにしたというところだが、亜希子の要求は、これを完全に元に戻すということか?
「具体的には、どうすれば…」
「特に、お父様が何かする必要はありません。素直に皆さんの治療を受けて貰えば、それだけで結構です。
ただ、姉さんを説得するための、出汁になって貰いますので、そのつもりで」
亜希子はニヤッと笑った。杏奈と環奈も、先ほどからニヤついている。
権兵衛も理解した。同じように笑って頷く。
「取引成立ね」
怪しい相談がまとまった。
慎也たちが力を合わせて権兵衛の癌を治療し、完治させたということにする。それを、沙織たちが戻ることに一番の障害となっている優子に認めさせ、彼女に皆の仲を承諾させるという計画だったのだ。
そのためには、沙織の力も必要ということにしておかなければならない。杏奈と環奈も同様。
権兵衛には、実際の治療の詳細を話す必要は無い。
皆で治すことにしておけば、秘密にしておきたい早紀の能力も特定されない。
これで沙織たちも戻ることが出来れば、一石二鳥だ。
とにかく権兵衛は、医者は嫌いだなどと抵抗せずに黙って従順に治療を受け、トットと治ってくれれば良い。
それで優子を説得する口実になって貰い、場合によっては、ちょっとした口添えくらいして貰えれば、更に良しということだった。
だから、権兵衛は、まだ結果を知らない。しかし、亜希子と美雪の深刻な顔、そして、二人の会話を聞いて顔面蒼白になっている沙織の様子を見て、権兵衛は、良くないようだと予想を付けていた。
全員揃ったところで、亜希子からの告知が始まる。
「お父様。なぜ、もっと早く医者に行かなかったんですか!かなりの痛みがあったでしょうに…。
癌です。それも、かなり進行しています。胃と十二指腸、肝臓・膵臓も侵されていますし、その他にも転移しているようです。
普通ですと、もう手術しても助かる見込みは、かなり低い。というか、無理。完全な手遅れ。もうダメです」
「そ、そうか…。もうダメか……」
権兵衛は、流石に動揺を隠せなかった。良くは無いと予想はしていたが、癌とは…。
更に、名医と評判の医者に「完全手遅れ」と宣告されたのだ。ショックを受けないはずがない。
「ですが、お父様。あなたは、とっても、運が良い。本当なら三ヶ月も持ちません。ですが、今日、ここへ来たことで、命拾いしました。
治ります。そして、治してくれるのは、ここに居る、皆さんです。」
青い顔をして祖父の手を握り、先程とは別の意味での涙目になっていた沙織が呟く。
「そ、そうか、慎也さんの治癒の力なら…」
「いえ、沙織さん。慎也さんの治癒能力は、癌には効かないことが判明しています。傷を再生させるだけで、癌細胞を消すことは出来ないのです。ですから、末期癌の治療は慎也さんの能力では無理です」
沙織は皆と別れた後、慎也たちの方の情報が殆ど無い状態で暮らしていたので、後に判明したこの事を、まだ知らなかった。当然、早紀の「聖液」のことも。だから、自分が予想したことを否定され、当惑した。
(慎也さんで無いとすれば祥子さん? でも、治癒の力では慎也さんの方が上のはず…。いや、その治癒の力自体が癌には無効…)
沙織の思考が混乱する。
「大丈夫です。他の方法が、ちょうど見つかったところなのです。そして、それが出来るのは、慎也さん始めとする、この皆さんなのです。沙織さんにも、協力してもらいますよ!」
沙織は、どういうことか、さっぱり、全く、分からないが、とにかく頷いた。自分の祖父のことだ。協力せよと言われれば、否やは無い…。
慎也たちにしても、亜希子の発言は少し不自然に聞こえた。
実際に癌を治せるとすれば、早紀の「聖液」だ。だから、早紀が治してくれると言うのが普通である。だが、早紀の力は、一応、内緒にしておくことになっている。
……早紀の力を特定できないようにという亜希子の配慮か? だけれども、沙織の協力も必要としたのはなぜか……
慎也がそんなことを考えていると、亜希子が、権兵衛に分からないようにウインクしてきた。どうも、それだけでなく、何か考えがあるらしい。
同じくウインクに気が付いた舞衣が、慎也にテレパシーを送ってくる。
…『慎也さん! 亜希子さん、何か謀り事があるみたいよ。話を合わせてあげて!』
…『了解! 他のみんなにも伝えて!』
…『分かったわ。』
亜希子の話は続く。
「私の研究所の噂、お父様は御存じですよね?」
「うん? あ、ああ、康市君から聞いた。重症の患者でも治してしまうと、かなりの評判のようだが…」
「そう、それです。ですが、実際の治療をしているのは、私ではありません。慎也さんたちです。沙織さんの異能力について知っていらっしゃるんですから、分かりますよね。ここに居る皆さんは、皆、異能力を持っていらっしゃいます。先ほど、お父様を診た美雪さんは、透視の力です。あとは、あまり具体的には明かせませんが、それぞれに凄い力を持っていて、治療に当たってくださっています」
ただ一人だけ名前と能力を公開されてしまった美雪は面食らった。
確かに自分は透視の力があるが、診察として使ったのは、権兵衛が三人目。一人目と二人目はスミレと早紀であって、身内のことであり、ここでの診察に協力してきたことなど全く無いのだ。
ここでキッパリ否定しないと、きっとこの後も治療協力と称して透視させられる羽目になる。これは、まず間違い無い。亜希子も、そのつもりで美雪の名前を出したのだということは容易に想像できた。
だから美雪は、即座にそのことを指摘しようとした。
が…。舞衣からのテレパシーによる指令を受けて、開きかけた口を閉ざした。渋い顔をして…。
大いに不満であるが、慎也の妾となった以上、正妻様には逆らえない…。
「実際の治療をするのは、皆さん。だけど、皆さんは医療資格を持っていませんので、医療行為は出来ない。なので、私がしていることになっています。
当然、これは、絶対に公言出来ないことです。前内閣総理大臣・現職国会議員に明かして良い事ではありませんが、私の父親として、秘密を保持してくれる人だと信頼して話しています。このことは理解してくださいね」
「あ、ああ、もちろんだ。孫も絡んでおるしな」
権兵衛は、杏奈と環奈を見て了承の意を示した。
その双子二人はニヤッと怪しい笑顔を見せた。これから亜希子が何を言おうとしているのか、察知したようだ。
「ここの治療は、通常の治療と違いますから、保険適応外です。治す患者は、通常では命を失うような人ばかりです。法外な額を吹っかけているつもりはありませんが、それ相応にお礼を置いて行ってもらっています。
ですが、お父様からは、治療費は頂きません。その代わり…。沙織さん・杏奈さん・環奈さんを、慎也さんたちの元に返すのに、協力してもらいます」
「うん?」
権兵衛は、そのことには反対していないのだ。さっきも、亜希子も同席する場で、慎也たちとそれについて話したばかりだ。
とりあえず会えるようにしたというところだが、亜希子の要求は、これを完全に元に戻すということか?
「具体的には、どうすれば…」
「特に、お父様が何かする必要はありません。素直に皆さんの治療を受けて貰えば、それだけで結構です。
ただ、姉さんを説得するための、出汁になって貰いますので、そのつもりで」
亜希子はニヤッと笑った。杏奈と環奈も、先ほどからニヤついている。
権兵衛も理解した。同じように笑って頷く。
「取引成立ね」
怪しい相談がまとまった。
慎也たちが力を合わせて権兵衛の癌を治療し、完治させたということにする。それを、沙織たちが戻ることに一番の障害となっている優子に認めさせ、彼女に皆の仲を承諾させるという計画だったのだ。
そのためには、沙織の力も必要ということにしておかなければならない。杏奈と環奈も同様。
権兵衛には、実際の治療の詳細を話す必要は無い。
皆で治すことにしておけば、秘密にしておきたい早紀の能力も特定されない。
これで沙織たちも戻ることが出来れば、一石二鳥だ。
とにかく権兵衛は、医者は嫌いだなどと抵抗せずに黙って従順に治療を受け、トットと治ってくれれば良い。
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