月の影に隠れしモノは ~人魚と河童の事件編~

しんいち

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美雪と早紀

14 遠藤スミレ3

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 運命の日、当日。まずは舞衣さんからです。
 すでに、舞衣さんがいるはずの神社の鳥居前。特に、アポは取ってありません。
 もう緊張しかない……。喉が渇いて、唾をゴクッと飲み込みます。
 鳥居をくぐって、社務所前へ。受付には誰もいません。

「こんにちは!」

 声を掛けると、

「は~い!」

 聞き覚えのある綺麗な声。舞衣さんです。

「へ? スミレちゃん? うわ、久しぶり~! ビックリした! 上がって、上がって!」

 障子を開けて顔を出した、舞衣さん。いきなりの大歓迎?こちらがビックリです。
 指示された入口から上がり、畳敷きの部屋へ入ります。総司さんも私に続いて入り、二人で坐ります。

「何? どうしたの、今日は……。そちらの方は?」

 正面に坐った舞衣さんからの質問。しかし、それは置いておいて、私はまず、目的を果たします。

「舞衣さん!ごめんなさい!」

「何、何?」

 舞衣さんは、私のいきなりの謝罪に、目を白黒させています。

「あ、あの日……。あのコンサートの日。下剤の入ったジュースを運んで美月ちゃんに渡したのは私です。
 勿論もちろん、そんな、変な薬が入れられていたなんて、全然知りませんでした。でも、私が運んだのは事実です。本当に、ごめんなさい!」

 畳みに打ち付けるくらいの勢いで頭を下げた私に、舞衣さんはスーッと寄ってきて、頭を優しく上げさせました。

「バカね。そんなの全然気にしてないわよ。
 もしかして、ずっと気に病んでいたの? 大丈夫よ。全く気にしてないから。」

 舞衣さんは、私を抱きしめてくれました。温かく、良い香りのする舞衣さんの胸に顔を埋めます。
 良かった、許してもらえたんだ・・・。

「ねえ、スミレちゃん、それより……。そちらの方は…」

 再度の、舞衣さんからの質問。

「あ、ごめんなさい!」

 舞衣さんは私を解放し、正面に坐りなおします。舞衣さんが坐ったのを確認して、私は口を開きました。

「こちらは、私の旦那様になる人です。私、結婚します」

「エッ?」

 舞衣さんは驚き顔で固まっています。それはそうでしょう、旦那様というより、父親といった歳ですから…。

「あ、ごめんなさい。私が言うのも何だけど・・・。かなりの歳の差カップルね・・・。あ、いや、失礼…。おめでとう!」

「あ、有難うございます・・・。やっぱり、変ですかね、私たち…」

「変じゃないわよ! そういうカップルも結構あるでしょ!変なのは私の方だから!知ってるでしょう?」

「は、はい・・・」

「ははは…。まあ、そういうことで・・・。で、お二人のなれそめは?」

「彼は、私の命の恩人なんです。彼が居なかったら、私は自殺してました…」

 私は隅田川乙女組が解散になった後から、男に襲われ、彼のところにお世話になっていたことを話しました。勿論もちろん、体の秘密や、彼の病気に関係することは内緒。ただ、妊娠のことは伝えました。

「そうだったんだ。スミレちゃんも大変だったのね。ごめんなさい。私の所為せいでもあるのよね」

「そんな! 舞衣さんの所為じゃありません! 私の方こそ、舞衣さんに謝りたくって!
 グループにいた時から、本当は舞衣さんと、もっと親しくさせてもらいたかったけど、一期生の目が怖くて…」

 私の目から、涙がほおを伝いました。
 舞衣さんは、そんな私を再び、優しく抱いてくれました。

「美月から聞いてたから知ってるよ。私と話したがってたって…。ゴメンね。そして、幸せになってね。
 そうだ、スミレちゃん。なんなら、結婚式、この神社でしちゃいなよ!」

 考えてもみなかったこと。
 私は、彼と一緒に暮らせるならば、それだけで良いと思っていました。
 結婚式か・・・。舞衣さんの所でさせてもらえるなら、嬉しい!
 彼を見ると、うなずいてくれました。

是非ぜひ! 是非、お願いします!」

「オッケーオッケー、旦那にも言っておくね。
 あ、だけど、ゴメン。これから、ちょっと大事なお客様の予定があって、もうそろそろ、ここを閉めて家の方に戻らなきゃならないの」

「ゴメンナサイ!私たち、お忙しい時に突然来ちゃって!」

「ううん。大丈夫よ。普段はこんなこと、あまりないんだけどね。今日は、ちょっと重大な予定が入っていてね。ごめんね」

「実は、スミレにもまだ話してなかったんですが、春から名古屋支社に転勤になることになりまして、こっちに引っ越しを考えています」

 彼の口から、想定外の嬉しいニュース。そうなれば、もっと気軽に、ここへ来ることが出来ます。
 時間が迫ってあせっている舞衣さんに再度謝り、また改めて来るということで、連絡先を交換して、退出しました。
 良かった。許してもらえて・・・。

 しかし、次の予定が難関です。彼の娘さんに、結婚の許可をもらわなければなりません。
 娘さんの指定した場所は、なんと、神社の目の前。鳥居から見て百メートル位のところにある「御屋敷」だそうです。娘さんの彼氏も、そこに来るとか…。
 約束時間まで、あと二十分くらい。場所はすぐに分かりました。
 「御屋敷」といえば、目の前に見えている、あそこしかない。

 御屋敷というより・・・。なんか、小型のお城みたいな感じ・・・。
 特殊な料亭か何かなのかな?
 時間的にちょっと早いですけど、他に行くところもありませんので、そのまま向かいます。
 石段を上がり、開いている門を潜ると、小柄な、中高生くらいの女の子。私を見て、固まりました。

「え、も、もしかして、遠藤スミレちゃん・・・」

 私のことを、知っていてくれたようです。

「あ、あれ、なんで? 何で早紀の小父おじ様と一緒に?」

「え~と、田中さんでしたよね。娘がいつも、お世話になります。娘が今、こちらに居るということなんですが…」

 総司さんは、彼女のことを知っている様…。
 娘さんの友達かな? でも、それにしては、かなり年齢差があるような…。娘さんは、私と同い年のはずです。ここのバイトちゃん? バイト仲間ということかな?

「あ、は、はい…。え? どういうこと? え・・・」

 なんだか、ぎこちない動きをする変な子です。大丈夫かな…。
 その子に案内され、立派な玄関から上がってお座敷の上座に導かれました。

「父さん、早かったわね」

 娘さんが来たようです。結構、高身長の子。

「え・・・。ど、どういうこと?」

 娘さんも、私を見て固まりました…。
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