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美雪と早紀

7 美雪、決断する。1

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 翌日。
 日曜日だが、天気は続いて雨。だが、昼前には上がって晴れてくる予報である。
 美雪は、いつもより早く家を出て、神社に向かった。

 社務所は、まだ開いていない。が、美雪も(…早紀も)合鍵を渡されているので、問題無い。
 解錠し、巫女衣裳に着替えて軽く掃除し、お守りを並べる。
 そうしておいて、中の部屋の中央に、正座した。

 すぐに早紀が出社してくる。そして、キッチリ坐っている美雪の姿を見て、ギョッとした。

「な、何?美雪。やたらと早いわね。それに・・・、顔怖い・・・」

「宮司さんと祥子さんを、これからトッチメマス! 不倫よ、不倫!」

「は~あ? 何、言ってるのよ。あの二人だったら、変則的ではあるけど、一応夫婦よ。不倫もへったくれも無いじゃない」

 妾ではあっても正妻公認で、正妻と同居もしているのだ。第二夫人として、夫婦と言っても差し支えあるまい。それが不倫??
 美雪の言っていることの意味が分からないが、とりあえず着替えてからと、早紀は更衣室へ入った。
 そして着替え終わって再度美雪が居る部屋へ入り、さあ、理由をこうとしたときに、慎也たちが出社して来てしまった。都合が良いのか悪いのか、今日は三人そろって…。

「おはよう。早いのね」

 舞衣が部屋に入ると、巫女姿の美雪が部屋中央にキッチリ正座していて、あわれむような視線を向けてくる。その後ろには、やはり巫女姿に着替えた早紀が困惑顔で立っていた。

 美雪は、部屋の横隅をチョンチョンと指さす。これは美雪恒例の、坐れの合図。舞衣は訳が分からないが、とりあえず指示通り、おずおずと坐る。
 何事かと、部屋の中をのぞき込むように入ってきた慎也と祥子。その二人に対し、美雪は鋭い視線を向け、両手でそれぞれ、自分の目前の畳をチョンチョンと指差した。
 慎也と祥子も、訳が分からないまま、とりあえず合図に従い、美雪の前に正座する。

 美雪はフーッと息を一つ吐き出し、口を開いた。

「私、宮司さんと祥子さんを見損みそこないました。
 昨日の午後。お二人は何をしていましたか?」

「「へ?」」

 慎也と祥子は、同時に一声発した。

 美雪は、目の前の、間の抜けたような顔をしている二人をにらながら、続ける。

「昨日の午後! 駅前のラブホテル!
 五階の五〇三号室、とっても豪華な部屋の中!
 服を脱いで、ベッドで二人きり!
 神社を早紀一人に任せて、舞衣さんの留守中に!
 一体、ナ・ニ・を、していましたか!」

「「は、はあ??」」

 慎也と祥子は、間抜け顔を見合わせた。
 横で、舞衣がプッと噴き出す。そして、爆笑し始めた。

 美雪は、笑っている舞衣に憮然とする。

「な、何ですか舞衣さん。他人事じゃないですよ。これは舞衣さんに対する裏切り行為です! 不貞行為です! 不倫です!」

「み、美雪ちゃん・・・。あ、あなた、見たのね。透視の力で、二人がラブホでイタシテいる所・・・」

 舞衣は、込み上げ続ける笑いを抑えながら、何とか言葉にした。
 きまり悪そうにしている慎也と祥子を指差して、美雪は舞衣に訴えかける。

「だって、一昨日おととい、二人が話しているのを聞いたんです。『舞衣さんには悪いけど二人っきりで』とか、『神社は早紀が来てくれるから大丈夫』とか・・・。あ、あれ? 昨日、舞衣さん留守じゃなかったの?」

 美雪が振り返って早紀に確認すると…。
 早紀は、しかめっつらで大きくうなずいた。

「ずっと、私と一緒だった。舞衣さん、手を振って二人を送り出してた」

「えっ? じゃ、じゃあ、舞衣さんに内緒で不倫してたんじゃないの?」

「あのね、美雪ちゃん。俺が、そんな恐ろしい事するはず無いじゃない…」

「それにじゃぞ、ワラワも一応、妻の一人なのじゃ。不倫は無かろう…」

 慎也と祥子からの返答に、美雪は、泣き出しそうな顔を舞衣に向けた。
 舞衣は、まだ込み上げてくる笑いをこらえている。

「ご、ごめん・・・。私の承諾済みよ。二人がラブホテルに行ったのは・・・。
 お別れの日の夜、祥子さんが気を使ってくれて、私と慎也さんを二人きりにしてくれたの。昨日のは、そのお返し。祥子さん、一度ラブホテルに行ってみたかったんだって」

「まったくもって、何を言い出すやら。じゃから、オヌシのいない時が良かったのじゃが、まさか、あの話を盗み聞きしておって、その上、二人のねやを盗視してくるとは…」

 祥子のあきれ顔…。
 そして、美雪は真っ赤な顔になり……。

「ご、ごめんなさい!」

 頭を畳にり付けた。

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい・・・」

 そのままの格好で、何度も、何度も繰り返す。そこまで謝られると、慎也も祥子も逆に困ってしまう。
 舞衣にしても、自分のことを心配してくれたということだ。悪い気はしない。

 ひたすら謝り続ける美雪に、後ろに立っていた早紀が、やれやれといった表情をしながら寄り添った。そして、畳に擦り付けている美雪の頭を、強制的に上げさせる。

 顔を上げた美雪は、何とも情けない顔をしていた。そして、

「ご、ごめんなさい~!」
 と大きく付け加えた。

 早紀が、優しく語り掛ける。

「あのね、美雪。私たちは、身内同然の扱いをしてもらっているけど、同然で有って、身内じゃないの。人様の家庭のことに、口出ししちゃダメ」

 しょんぼりと項垂うなだれる美雪に、早紀は、また優しく続ける。

「だけどね。身内になっちゃえば、オッケーなんじゃないかな? だから、これを機会に、もう、身内になっちゃおうよ。好きなんでしょう?宮司さんのこと」

 ビクッとして早紀を見る美雪。その顔は、アッと言う間に、真っ赤に再沸騰する。

「人様のセックスまで見ちゃったのよ。ゴメンナサイでは、済まないわよ。もうこれは、身内にならなきゃ、収まりません」

 優しい語り掛けとは裏腹の、とんでもない過激発言だ。
 美雪は、こいのように口をパクパクさせている。

「ねえ・・・。 恵美さんにも言われたでしょ!いい加減に覚悟を決めなさい!」

 だんだん、早紀の口調が強くなってくる。

「私はね、宮司さんのめかけになりたいの!でも、あなたが居るから!宮司さんが初恋相手だって言うあなたが居るから、私は遠慮して、待っているのよ! もう、いい加減にしないと、あなたは放っておいて、私だけ妾にしてもらっちゃうから!」

 早紀から飛び出した、爆弾発言!
 恵美にそそのかされた時も、早紀は確かに自分も一緒に「夫人」になると言っていた。だが、皆、てっきり冗談だと思っていたのだ。

 人の心を読むことが出来る舞衣にも、これは全く予想外の発言だった。
 考えてみると、舞衣は、早紀の心を読んだことが無かった。
 心を読むには親しい間柄でないと難しいし、集中して意識をつなげる必要がある。早紀と親しくないということではない。しかし、美雪の親友として受け入れていて、少し遠慮があったのも事実。だから、積極的に心をのぞこうと思ったことは無かった…。

 早紀の熱い訴えは続く。

「宮司さん! 美雪と私、一緒に妾にしてください! お願いします!」

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