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貧乏神に取り憑かれました
14 お世話とは?
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で、この機会。思兼様は、はぐらかして教えてくれない、ビンちゃんも何もしなくてよいという、訳の分からない「お世話」について。
やっぱりこういうことは神主さんに訊くべきでしょう。
神主さん、少し困った表情。
そんな難しい質問だったかな……。
「我々神職は、神に仕えると言いますが、普段、実際にしているのは神社の維持です。
神様の鎮まりになっているお社を守り、立派に維持してゆくこと。これが、神職のする神様のお世話ということになるかと思いますが……。
あなたの求めている答えとは…、おそらく違いますよね」
う~ん。違いますね…。
ビンちゃん、お社に鎮まっていないから……。
「え~とですね。例えば、例えばですよ。私に取り憑いて、私をいつも守っていて下さる神様が居るとします。その神様のお世話をするとしたら、どうしたら良いでしょうか?」
「おっと、これは、また……。う~ん、そうですね」
神主さん、少し考えこみます。
ホント、ごめんなさい。ややこしいこと訊きまして……。
「そうですね。先ほど、分かりやすいように神職の普段の業務について言いましたが、神社で最も大切なのは祭祀です。
普段、我々をお守りくださっている神様に対し、『有難うございます』と感謝し、お礼をするのが祭祀です。この『感謝の心』を持ち、それを神様に伝えるというのが大事なことなのです。
鎌倉時代に制定された『貞永式目』の中の一節に、『神は人の敬いによりて威を増し、人は神の徳によって運を添う』とあります。
神様を敬い、感謝の気持ちをキチンと神様に伝えることが出来れば、それによって神様も更に勢いを増すことが出来るということです。
これが、お世話するということにもなるかもしれませんね」
「感謝の気持ち……。それを伝える……」
「そうです。そのために行われるのが祭祀です。
形の無い『気持ち』を、分かりやすく形にしたものです」
祭祀…。つまり、神社で神主さんがやっている式典ですね。
祭典なんても言うでしょうか。
「祭祀には神様に失礼にならないように様々な作法・決まり事と、手順があります。
どちらの足から歩きはじめるかといったような細々とした決まりもあって非常にややこしいのですが、手順としては難しいものではありません。誰か、目上の人をオモテナシするようなものだと考えてください」
オモテナシ?
「綺麗で清潔にした座について頂き、御馳走を並べます。これが、『祓』と『献饌』であって、御馳走が『お供え=神饌』ですね。
それで、感謝の言葉の述べ、これからもよろしくお願いしますと伝える。『祝詞奏上』です。
その後、余興があったりもします。『舞楽・神事舞』ですね。
『玉串拝礼』は、願いを玉串に込めて捧げるものなんですが、一人ずつ前へ出て御挨拶するようなものと考えれば良いのかな?
そのあと、『直会』。神様にお供えしたモノを頂きます。神と同じものを頂く。神と一緒に食事をし、神と一緒に我々も楽しむのです。
こんなふうに考えると、難しくはないでしょう」
なるほど、なるほど。確かに分かりやすい。
「で、これが。撤下品、神様のおさがりです。お供えしたモノを下げてお渡しするのが撤下品です。
その場で直会をしない場合、お持ち帰り頂き、後でこれを口にすることで、神様と同じ食事をしたことになります。直会の簡略版ですね。
これはどうぞお持ちください。お神酒も入っています。結構イケル口でしょ」
あちゃ~。バレちゃいましたか。
そうです。私、お酒、大好きです。
…まあ、昨夜かなり飲んでましたからね。
分かりますよね。
有難く、神主さんから神社名の入った袋を頂戴します。
うん? ……あ!!
そうだ、今朝、私、これをしたんだ。
お供えをし、お礼を言い、そんでもって、そのおさがり頂いた!
難しい作法やなんかは知らない。けれど、大事なのは心…。
助けてくれたビンちゃんに心から有難うって思い、自然にしていたけど……。
既に出来てるって、そういうことだったのね。
分かった!分かりました!!
「有難うございます。たいへん勉強になりました。何とかやってゆけそうです」
「ん? 答えになっていないような回答で申し訳なかったですが、ヒントにでもなったなら、良かったです」
その後は、「神社にも旅館にも、また是非来てください。歓待します」とのお言葉。
まあ、これは社交辞令でしょう。
こんな容姿も言動もオカシイ奴に付きまとわれては、迷惑極まりありませんよね。
でも、是非、また来たいです。
次は、お金払って泊まらせて頂きます!
……あ。そういや、私、貧乏神憑きだ。
お金を払ってだなんて、そんなこと、もう、無理かな……。
――――― 後書き
章の終わりに第5話の「氏神様」という表現について、少し。
似た意味合いの言葉に「鎮守様」というのがあります。
氏神様は、『源氏の氏神、八幡神』というように、血縁氏族が崇める神様。
一方、鎮守様は、昔の唱歌にもありますが、村とか、地区とかの、地域の守り神様。
ですが今と違い、昔は人の移動も少なく、村の住人はほとんど血縁だなんてことも…。
よって、この二つの言葉、混同し、どちらも「地域の守り神様」という同じ意味合いで使われるようになってしまいます。
そして今では、「氏子」という言葉とセットになって「氏神様」という表現の方が多く使用されるようになりました。
語源的には「鎮守様」の方が適当かと思いますが、ここでは一般的に使用される「氏神様」という表現を使用しました。
悪しからず御了承ください。
―――――
やっぱりこういうことは神主さんに訊くべきでしょう。
神主さん、少し困った表情。
そんな難しい質問だったかな……。
「我々神職は、神に仕えると言いますが、普段、実際にしているのは神社の維持です。
神様の鎮まりになっているお社を守り、立派に維持してゆくこと。これが、神職のする神様のお世話ということになるかと思いますが……。
あなたの求めている答えとは…、おそらく違いますよね」
う~ん。違いますね…。
ビンちゃん、お社に鎮まっていないから……。
「え~とですね。例えば、例えばですよ。私に取り憑いて、私をいつも守っていて下さる神様が居るとします。その神様のお世話をするとしたら、どうしたら良いでしょうか?」
「おっと、これは、また……。う~ん、そうですね」
神主さん、少し考えこみます。
ホント、ごめんなさい。ややこしいこと訊きまして……。
「そうですね。先ほど、分かりやすいように神職の普段の業務について言いましたが、神社で最も大切なのは祭祀です。
普段、我々をお守りくださっている神様に対し、『有難うございます』と感謝し、お礼をするのが祭祀です。この『感謝の心』を持ち、それを神様に伝えるというのが大事なことなのです。
鎌倉時代に制定された『貞永式目』の中の一節に、『神は人の敬いによりて威を増し、人は神の徳によって運を添う』とあります。
神様を敬い、感謝の気持ちをキチンと神様に伝えることが出来れば、それによって神様も更に勢いを増すことが出来るということです。
これが、お世話するということにもなるかもしれませんね」
「感謝の気持ち……。それを伝える……」
「そうです。そのために行われるのが祭祀です。
形の無い『気持ち』を、分かりやすく形にしたものです」
祭祀…。つまり、神社で神主さんがやっている式典ですね。
祭典なんても言うでしょうか。
「祭祀には神様に失礼にならないように様々な作法・決まり事と、手順があります。
どちらの足から歩きはじめるかといったような細々とした決まりもあって非常にややこしいのですが、手順としては難しいものではありません。誰か、目上の人をオモテナシするようなものだと考えてください」
オモテナシ?
「綺麗で清潔にした座について頂き、御馳走を並べます。これが、『祓』と『献饌』であって、御馳走が『お供え=神饌』ですね。
それで、感謝の言葉の述べ、これからもよろしくお願いしますと伝える。『祝詞奏上』です。
その後、余興があったりもします。『舞楽・神事舞』ですね。
『玉串拝礼』は、願いを玉串に込めて捧げるものなんですが、一人ずつ前へ出て御挨拶するようなものと考えれば良いのかな?
そのあと、『直会』。神様にお供えしたモノを頂きます。神と同じものを頂く。神と一緒に食事をし、神と一緒に我々も楽しむのです。
こんなふうに考えると、難しくはないでしょう」
なるほど、なるほど。確かに分かりやすい。
「で、これが。撤下品、神様のおさがりです。お供えしたモノを下げてお渡しするのが撤下品です。
その場で直会をしない場合、お持ち帰り頂き、後でこれを口にすることで、神様と同じ食事をしたことになります。直会の簡略版ですね。
これはどうぞお持ちください。お神酒も入っています。結構イケル口でしょ」
あちゃ~。バレちゃいましたか。
そうです。私、お酒、大好きです。
…まあ、昨夜かなり飲んでましたからね。
分かりますよね。
有難く、神主さんから神社名の入った袋を頂戴します。
うん? ……あ!!
そうだ、今朝、私、これをしたんだ。
お供えをし、お礼を言い、そんでもって、そのおさがり頂いた!
難しい作法やなんかは知らない。けれど、大事なのは心…。
助けてくれたビンちゃんに心から有難うって思い、自然にしていたけど……。
既に出来てるって、そういうことだったのね。
分かった!分かりました!!
「有難うございます。たいへん勉強になりました。何とかやってゆけそうです」
「ん? 答えになっていないような回答で申し訳なかったですが、ヒントにでもなったなら、良かったです」
その後は、「神社にも旅館にも、また是非来てください。歓待します」とのお言葉。
まあ、これは社交辞令でしょう。
こんな容姿も言動もオカシイ奴に付きまとわれては、迷惑極まりありませんよね。
でも、是非、また来たいです。
次は、お金払って泊まらせて頂きます!
……あ。そういや、私、貧乏神憑きだ。
お金を払ってだなんて、そんなこと、もう、無理かな……。
――――― 後書き
章の終わりに第5話の「氏神様」という表現について、少し。
似た意味合いの言葉に「鎮守様」というのがあります。
氏神様は、『源氏の氏神、八幡神』というように、血縁氏族が崇める神様。
一方、鎮守様は、昔の唱歌にもありますが、村とか、地区とかの、地域の守り神様。
ですが今と違い、昔は人の移動も少なく、村の住人はほとんど血縁だなんてことも…。
よって、この二つの言葉、混同し、どちらも「地域の守り神様」という同じ意味合いで使われるようになってしまいます。
そして今では、「氏子」という言葉とセットになって「氏神様」という表現の方が多く使用されるようになりました。
語源的には「鎮守様」の方が適当かと思いますが、ここでは一般的に使用される「氏神様」という表現を使用しました。
悪しからず御了承ください。
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