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貧乏神に取り憑かれました
9 白結の巫女
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その夜。
私は、ふと、目を覚ましました。
常夜灯が灯るだけの薄暗い部屋。
確か左側に時計があった…。
そっちを見ると、午前二時。草木も眠る丑三つ時……。
うん? 私しかいないはずの、部屋の中…。
でも、他に誰かいるような気配……。
だ、誰!!
時計と反対側。
右横に視線を移すと、暗がりに浮かぶ、あの白髪白髭の老人と女の子!
思わず叫び声を上げそうになった私に、老人は指を一本立てて、「シー」のポーズ。
私は上げかけた叫び声を、ゴックンと飲み込みました。
普通なら、そのまま大声で叫ぶべきところなのに、何故か……。
「儂は、戸隠中社に坐ます天思兼命と申す。
此度は我が社での事故、誠に相済まなんだ。
若い身空で千円も賽銭を入れてくれたのでの、御籤で二度忠告したのじゃが、ダメじゃったのう」
「か、神様……。う、嘘…」
布団に横になった状態から体を起こします。
「嘘ではない。儂は神。天思兼命じゃ」
「思兼命様…。ほ、ホントに??
御籤で忠告って……。あ、あれか……」
あの二枚の正体不明の御籤は、まさに神様からのお告げだったのです。
しかし…。
「あ、あのですね。あれじゃ、分かりませんよ……」
書いてあるのが、「大凶」と「大当たり」だけでは、何のことか分かるはずが無い。
確かに、木の枝大当たりで大凶なんですけど……。
「済まぬ、済まぬ。儂も慌てておったのじゃ。
でな。ちょこっと、其方にとって大問題が起きた」
「はあ?」
「其方、覚醒してしまったのじゃ」
「へ?」
覚醒??
あ、まあ、今、目を覚ましたとこですけど、そういった事じゃないよね。
全く意味不明なんですけど……。
「儂らの姿が見えておるじゃろう?声が聞こえておるじゃろう?」
確かに、見えています。聞こえています。
「儂らは、普通の人間には見えぬ」
見えない……。
そ、そうです。あの夕御飯の時!
この二人に誰も気付いていませんでした。
みんな、まるで、誰もいないようにしていた……。
「其方は神と人とを結ぶ存在。白き姿の結びの巫女『白結の巫女』じゃ。その力が覚醒したのじゃ。
そして、この力は、悪しきモノに対しても同様に効力を発揮する。じゃから、対抗手段を持っておらぬと、悪しきモノに狙われることになりかねん。
悪しきモノも見ることができ、関りを持つことが可能となるからな…」
「そ、そんな!!」
いきなり、そんな訳の分からない事態を突き付けられても困るんですけど!
「うむ。これは仕方ない。まあ、考えようによっては運が良かったかもしれぬぞ。いつ覚醒することになるか分からなかったのじゃ。変なところで覚醒して居れば、大変なことになっておった。
儂の目前で覚醒した其方は運が良いの。ラッキーガールじゃ」
「止めてよ、私の口癖盗るの! ラッキーなんかじゃないです!」
全く、なんで私の口癖知ってるの?
あ、神様だからか……。
「まあ、そう言うな。其方、仕事を求めておったであろう?
千円の賽銭も貰ったからな。其方に仕事を授ける。
神から授かる仕事じゃ。心して承れ」
「し、仕事って、どんな?」
「なに、簡単なこと。この子を憑けてやるから世話をせよ。
この子も神じゃ。この子と一緒に居れば、其方に悪しきモノは近づけぬ。
ちょうど良い」
「せ、世話!? だいたい、仕事っていうのは、それをして報酬を得るものでしょ。それじゃあ報酬なんて出ないじゃない…」
「何を言うか。この子は其方の身を守ってくれるのじゃ。
それ以上の報酬を望もうなどと、不届き至極。
これは神の命じゃ。断れば神罰が下るのもの心得よ」
「ひ、ひえ~!! あ、あんまりだ~!!パワハラだ~!!
そ、それに、世話って言われても、どうすれば良いのですか?!」
「それに関しては、自分で考えよ。まあ、直ぐ分かるし、難しいことは無い。
それより、この子を紹介しておく。この子は、スサノオの隠し子じゃ。
あのスサノオの子じゃからな。途轍もない力を秘めておる。こんな強い神が憑いて居れば、悪いモノは近づけぬ。どうじゃ。安心じゃろう?
では、まあ、そういうことでなああ~~」
へ? 消えた……。
白髪白髭の老人は、スーッと消えてしまいました…。
一方的に、神の命令を下して……。
私は、ふと、目を覚ましました。
常夜灯が灯るだけの薄暗い部屋。
確か左側に時計があった…。
そっちを見ると、午前二時。草木も眠る丑三つ時……。
うん? 私しかいないはずの、部屋の中…。
でも、他に誰かいるような気配……。
だ、誰!!
時計と反対側。
右横に視線を移すと、暗がりに浮かぶ、あの白髪白髭の老人と女の子!
思わず叫び声を上げそうになった私に、老人は指を一本立てて、「シー」のポーズ。
私は上げかけた叫び声を、ゴックンと飲み込みました。
普通なら、そのまま大声で叫ぶべきところなのに、何故か……。
「儂は、戸隠中社に坐ます天思兼命と申す。
此度は我が社での事故、誠に相済まなんだ。
若い身空で千円も賽銭を入れてくれたのでの、御籤で二度忠告したのじゃが、ダメじゃったのう」
「か、神様……。う、嘘…」
布団に横になった状態から体を起こします。
「嘘ではない。儂は神。天思兼命じゃ」
「思兼命様…。ほ、ホントに??
御籤で忠告って……。あ、あれか……」
あの二枚の正体不明の御籤は、まさに神様からのお告げだったのです。
しかし…。
「あ、あのですね。あれじゃ、分かりませんよ……」
書いてあるのが、「大凶」と「大当たり」だけでは、何のことか分かるはずが無い。
確かに、木の枝大当たりで大凶なんですけど……。
「済まぬ、済まぬ。儂も慌てておったのじゃ。
でな。ちょこっと、其方にとって大問題が起きた」
「はあ?」
「其方、覚醒してしまったのじゃ」
「へ?」
覚醒??
あ、まあ、今、目を覚ましたとこですけど、そういった事じゃないよね。
全く意味不明なんですけど……。
「儂らの姿が見えておるじゃろう?声が聞こえておるじゃろう?」
確かに、見えています。聞こえています。
「儂らは、普通の人間には見えぬ」
見えない……。
そ、そうです。あの夕御飯の時!
この二人に誰も気付いていませんでした。
みんな、まるで、誰もいないようにしていた……。
「其方は神と人とを結ぶ存在。白き姿の結びの巫女『白結の巫女』じゃ。その力が覚醒したのじゃ。
そして、この力は、悪しきモノに対しても同様に効力を発揮する。じゃから、対抗手段を持っておらぬと、悪しきモノに狙われることになりかねん。
悪しきモノも見ることができ、関りを持つことが可能となるからな…」
「そ、そんな!!」
いきなり、そんな訳の分からない事態を突き付けられても困るんですけど!
「うむ。これは仕方ない。まあ、考えようによっては運が良かったかもしれぬぞ。いつ覚醒することになるか分からなかったのじゃ。変なところで覚醒して居れば、大変なことになっておった。
儂の目前で覚醒した其方は運が良いの。ラッキーガールじゃ」
「止めてよ、私の口癖盗るの! ラッキーなんかじゃないです!」
全く、なんで私の口癖知ってるの?
あ、神様だからか……。
「まあ、そう言うな。其方、仕事を求めておったであろう?
千円の賽銭も貰ったからな。其方に仕事を授ける。
神から授かる仕事じゃ。心して承れ」
「し、仕事って、どんな?」
「なに、簡単なこと。この子を憑けてやるから世話をせよ。
この子も神じゃ。この子と一緒に居れば、其方に悪しきモノは近づけぬ。
ちょうど良い」
「せ、世話!? だいたい、仕事っていうのは、それをして報酬を得るものでしょ。それじゃあ報酬なんて出ないじゃない…」
「何を言うか。この子は其方の身を守ってくれるのじゃ。
それ以上の報酬を望もうなどと、不届き至極。
これは神の命じゃ。断れば神罰が下るのもの心得よ」
「ひ、ひえ~!! あ、あんまりだ~!!パワハラだ~!!
そ、それに、世話って言われても、どうすれば良いのですか?!」
「それに関しては、自分で考えよ。まあ、直ぐ分かるし、難しいことは無い。
それより、この子を紹介しておく。この子は、スサノオの隠し子じゃ。
あのスサノオの子じゃからな。途轍もない力を秘めておる。こんな強い神が憑いて居れば、悪いモノは近づけぬ。どうじゃ。安心じゃろう?
では、まあ、そういうことでなああ~~」
へ? 消えた……。
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一方的に、神の命令を下して……。
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