巻き込まれ召喚娘の大逆転！？ ～転移者柚奈は、超絶理不尽な扱いを受けました～

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38 新女王

「私は父から、そして妹からも、王女殿下に命を賭してお仕えするよう託されました。王女殿下に終生お仕えします。下僕扱いで結構です。奴隷身分でも構いません。いかなることでもお命じください」

　カールは跪いたまま、改めてチェリル様に頭を下げました。

「なるほど、事情はよく分かりました。しかし、自領へ逃げ帰っているといっても、セトリバ公爵は正式に王に即位したのでしょう？　グランドル公爵も代理として居てくれているし、私が即位する必要ないでしょう」

「いえ、ダメなのです。隣のキャロル王国が攻めてきているのです。この疫病は、彼の国が意図的に我が国へバラまいたものです。薬が欲しければ降伏して国を明け渡せと言ってきています。
　今、ストンヒル侯爵が必死で防衛していますが、既に国境を突破されて国土の半分近く蹂躙されています。兵士にも疫病に掛かるものが出て、もう限界です。セトリバ公爵は、国を明け渡す代わりに自分の命と自らの所領を安堵するように、交渉中です」

「そ、そんな…」

「チェリル王女殿下が即位してくだされば、国民も、兵士も、奮起してまだ抵抗できます。国を救うには、もうそれしかないのです」

「嫌よ。王なんて…。私には無理」

　いやいや、この期に及んでまだ渋るのか、ワガママ姫…。２人のいたいけな少女もあなたの為に命を差し出しているのですよ。
　そう思ったら、私、ちょっとキレちゃいました。

「アンタ、いい加減になさいよ！　王族として産まれたんでしょ。今、正当な後継者はアンタしかいないんでしょ！　グダグダ言わず、とっとと女王になる宣言なさい！
　そんでもって、一刻も早く、感染者の治療よ。私が居るんだから、もう疫病なんて怖くないでしょ！」

　王女を『アンタ』呼ばわりなんて・・・。ああ、私は無礼者。周りの皆は引いています。
　でもね。仕方ないでしょ。チェリル様も、この場ではそのことを咎めません。

「そ、そうか…。そうよ、柚奈。あなたが居れば、疫病の治療ができるのよね！」

「そう！　疫病の方は大丈夫よ！　だから、アンタは早く女王になりなさいってば。アンタが即位しないと収拾付かないでしょ！」

「わ、分かった、分かったわよ。もう、どうにでもしてよ！」

　そんなことで、即座にチェリル王女の帰還が公表され、彼女の即位が宣言されたのです。　セトリバ公爵の即位は取り消され、チェリル新女王の誕生です。

　皆が望んでいた聖王女様が正式に国王となり、奮起した兵たちも頑張りました。戦線は何とか持ちこたえているようです。
　その間に、私は治療を開始します。ヘレーナも手伝ってくれます。

　あの、神の手の医師フロア先生はご無事でした。旦那様で内科医のブラフィルド子爵もです。その医者夫婦２人を治療責任者に任命し、まずは王都の感染者から治療開始です。
　採血器具と注射器は１セットだけ、向こうの世界から持ってきていました。これは深川医師から貰ったもの。私は『オリジナル治療薬』ですからね。万一必要になったときに役立つかもしれないからってことでもらっていたのです。本当に役立つことになりましたね。
　ただ、1セットだけでは数が足りません。
　複製できないかなとヘレーナに訊いたら、多分可能だと…。魔法ですよ。そういう能力を持ったヒトもいるらしいのです。見本と材料があれば同じものを複製できるのですって。
　プラスチックは無いけれど、無い物質は、この世界の代用できる物質での複製も可能。機能を果たせばよいんですからね。

　複製品はすぐに出来てきました。どんどん作らせているみたいです。私の血もどんどん採ってもらいますし、それで治った人の血でも治療してゆきます。向こうで流行っているのと違う疫病であっても、私の血は万能です。問題ありません。
　気を付けるのは血液型。私はO型だけど、それを輸血した人から他の人に輸血する場合は注意が必要。
　でも、これも調べてみると、あまり問題ないようでした。
　この世界の人、いや、この国限定かもしれませんが、みんなO型みたいなんですね…。
　アメリカインディアンもO型ばかりと聞いたことがあります。同じですね。


　王都の方の治療は軌道に乗ってきました。同時に重要なのは敵と戦っている兵士たちです。こちらにも感染者が出ているのです。
　私が前線近くまで出向き、感染者には私の血を輸血し、治った者の血でもって次の治療とつないでゆく…。
　新女王も、危険ではありますが前線近くにお越しくださり、自ら戦闘負傷者の治癒に当たってくれました。これは彼女にとっては専門分野ですからね。
　怪我が治り、力を取り戻した兵たちは、女王を伏し拝みます。士気もますます上がり、形勢大逆転。完全に敵を撃退し、旧領を取り戻してしまいました。