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34 聖女
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さてと、この伝染病が治せるという大ニュース、すぐにお隣のコミュニティーである中学校に伝えられました。
そちらでも感染者が出てしまい、パニック状態になっていたところだったとか。
大丈夫ですよ。みんなこっちへ来なさい。私の血で治してあげますよ。
さあ、ドーンと来い!
なんて、余裕ぶっこいていた私です。
しかし・・・。これで終わるはずありませんでした。
その他のコミュニティーにもこの話は一気に伝わり、日に日に感染者が集まってくる…。
2週間もすると・・・、いやちょっと、これは勘弁。いくら血を抜かれてもキリがない。
これじゃ、そのうち私、毎日血を搾りつくされて、ミイラみたくなっちゃうよ。
ヘレーナもチェリル様も同情してくれますが、彼女たちにはどうにもできません。
う~ん。これじゃあ、向こうの世界と変わらない状態になっちゃう!
でも、流石ですね。お医者様、こうなるのを見越して、ある実験をしてくれていたのでした。
私の血でなくても、私の血を輸血して治った人の血でも効果があるというのを発見してくれたのです。
きっかけは、ナント先生の奥様。体育館隔離から解放されて、外の人たちも感染していたことが分かったとき。その中に、先生の奥様も居ました。
あの、最初に私の手を取って感謝の言葉を掛けてくれた女性ですよ!
私からそんなに血を抜いたら、私が死んでしまうと心配してくれたのです。優しい人です。
その上で、先生に内緒での進言。治った人の血には効果が無いのかと…。
そこで、実験的に先生の血を奥様に注射していたのですね。どちらも同じ血液型でしたから…。
なんか、一人分足りない気がしていたんですが、そういうことだったのです。
で、その結果は、効果あり。奥様も熱下がって治りましたからね。
そして更に、先生は秘密裏に実験を重ねていました。奥様の血にも効果あることが判明したのです。
但し、先生の血も、奥様の血も、効果は接種後一週間で消えました。永遠では無いのですね。
しかしこれなら、治った人には効果がある期間は他の人の治療に協力してもらうという条件で私の血を提供し、その後はその人たちの血でつないでゆけばよいということです。
そういうシステムを構築してくれたのです。
ですから、私の血はもう抜く必要なくなりました。
いや助かったよ。
直接の私への感謝は少なくなるでしょうが、そんなのどうでも良いですよ~。
お役御免だ。ホッとしました。
これで、この世界を壊滅に追い込んだ伝染病への対抗手段が出来、希望が生まれて皆活気付いて来ました。
私の家族を奪った伝染病を私の血で駆逐できるなんて、私にとっても嬉しい限りです。
その日の治療が一段落したお医者様、私のところへ来ます。
「みんな未来が見えてきて明るくなった。君たちのお蔭だよ。君たちはホントに不思議な存在だ。まるで別の世界から来た救世主なんじゃないかと思えてくるよ」
いや、救世主と言うのは措いておきまして、別の世界からというのは実際そうなんですけどね。ここでそれを肯定するのもね…。
「実は、私には20歳になる娘がいたんだ。でも、去年の12月に、急にいなくなってしまった。何の前触れも無い行方不明。誘拐かとも思ったが、目撃者が居たんだ。急に白い光と共に消えてしまったと…。神隠しにでもあったとしか思えない。別の世界に迷い込んでしまったのではないかなんてね」
「えっ! 12月? そ、それ・・・」
白い光と共に、去年の12月に消えた。それは、おそらく、私が巻き込まれた異世界召喚。というコトは、先生って…。
「もしかして、先生の苗字は深川? 娘さんは深川亜衣さん?」
「な、なんで、それを? 娘を知っているのか?!」
驚いて私に詰め寄る先生。いや、驚いているのは、こっちですよ!
先生って、聖女亜衣さんのお父様だったのです!
そういえば、亜衣さんの実家はお医者さんだったはずよ。
「私と亜衣さんは、あの時、一緒に異世界に行ってしまったのです」
「ええっ、なんだって? そうだ、目撃者の話では、女の子2人が消えたって・・・」
「そうです。それ、私と亜衣さんのことです」
「じゃ、じゃあ、君が帰って来たというコトは、亜衣も!」
いえ、亜衣さんは帰ってきていません。それどころか、向こうで惨殺されてしまった。でも、これ言っていいのだろうか…。
先生の背後の方からこの話を聞いていたヘレーナに視線を向けると、ヘレーナは首を横に振ります。このヘレーナの行動は、先生には見えていません。
・・・そうですよね。死んでしまった、ましてや、殺されたなんて、絶対言わない方が良い。
「亜衣さんは、異世界で病気の人を治しています。異世界転移することで、病気治癒の力を得たのです。癒しの聖女様と崇められているのですよ」
「癒しの聖女・・・。じゃあ、戻ってきてはいないのかい?」
「そうです。私と一緒にいる2人は異世界人です。私が戻ってこられたのは、ホントに偶然。彼女たちがこっちに来てしまったのも、偶然。ですから、亜衣さんもこっちへ帰ってこられるかどうかは分かりません」
「そ、そうなんだ・・・。でも、むこうで立派に活躍しているんだね。それなら、よかった。安心したよ」
ゴメンナサイ。私、大嘘つきました。
全部が全部嘘ではないけれど、私が帰って来たのは偶然ではありません。亜衣さんも、もう死んじゃっています。
でも、仕方ないですよね・・・。
「異世界で聖女様になっているのか・・・」
先生の遠くを見つめる、寂しそうでもあり嬉しそうでもある目…。
ううう、心が痛いよ・・・。
そちらでも感染者が出てしまい、パニック状態になっていたところだったとか。
大丈夫ですよ。みんなこっちへ来なさい。私の血で治してあげますよ。
さあ、ドーンと来い!
なんて、余裕ぶっこいていた私です。
しかし・・・。これで終わるはずありませんでした。
その他のコミュニティーにもこの話は一気に伝わり、日に日に感染者が集まってくる…。
2週間もすると・・・、いやちょっと、これは勘弁。いくら血を抜かれてもキリがない。
これじゃ、そのうち私、毎日血を搾りつくされて、ミイラみたくなっちゃうよ。
ヘレーナもチェリル様も同情してくれますが、彼女たちにはどうにもできません。
う~ん。これじゃあ、向こうの世界と変わらない状態になっちゃう!
でも、流石ですね。お医者様、こうなるのを見越して、ある実験をしてくれていたのでした。
私の血でなくても、私の血を輸血して治った人の血でも効果があるというのを発見してくれたのです。
きっかけは、ナント先生の奥様。体育館隔離から解放されて、外の人たちも感染していたことが分かったとき。その中に、先生の奥様も居ました。
あの、最初に私の手を取って感謝の言葉を掛けてくれた女性ですよ!
私からそんなに血を抜いたら、私が死んでしまうと心配してくれたのです。優しい人です。
その上で、先生に内緒での進言。治った人の血には効果が無いのかと…。
そこで、実験的に先生の血を奥様に注射していたのですね。どちらも同じ血液型でしたから…。
なんか、一人分足りない気がしていたんですが、そういうことだったのです。
で、その結果は、効果あり。奥様も熱下がって治りましたからね。
そして更に、先生は秘密裏に実験を重ねていました。奥様の血にも効果あることが判明したのです。
但し、先生の血も、奥様の血も、効果は接種後一週間で消えました。永遠では無いのですね。
しかしこれなら、治った人には効果がある期間は他の人の治療に協力してもらうという条件で私の血を提供し、その後はその人たちの血でつないでゆけばよいということです。
そういうシステムを構築してくれたのです。
ですから、私の血はもう抜く必要なくなりました。
いや助かったよ。
直接の私への感謝は少なくなるでしょうが、そんなのどうでも良いですよ~。
お役御免だ。ホッとしました。
これで、この世界を壊滅に追い込んだ伝染病への対抗手段が出来、希望が生まれて皆活気付いて来ました。
私の家族を奪った伝染病を私の血で駆逐できるなんて、私にとっても嬉しい限りです。
その日の治療が一段落したお医者様、私のところへ来ます。
「みんな未来が見えてきて明るくなった。君たちのお蔭だよ。君たちはホントに不思議な存在だ。まるで別の世界から来た救世主なんじゃないかと思えてくるよ」
いや、救世主と言うのは措いておきまして、別の世界からというのは実際そうなんですけどね。ここでそれを肯定するのもね…。
「実は、私には20歳になる娘がいたんだ。でも、去年の12月に、急にいなくなってしまった。何の前触れも無い行方不明。誘拐かとも思ったが、目撃者が居たんだ。急に白い光と共に消えてしまったと…。神隠しにでもあったとしか思えない。別の世界に迷い込んでしまったのではないかなんてね」
「えっ! 12月? そ、それ・・・」
白い光と共に、去年の12月に消えた。それは、おそらく、私が巻き込まれた異世界召喚。というコトは、先生って…。
「もしかして、先生の苗字は深川? 娘さんは深川亜衣さん?」
「な、なんで、それを? 娘を知っているのか?!」
驚いて私に詰め寄る先生。いや、驚いているのは、こっちですよ!
先生って、聖女亜衣さんのお父様だったのです!
そういえば、亜衣さんの実家はお医者さんだったはずよ。
「私と亜衣さんは、あの時、一緒に異世界に行ってしまったのです」
「ええっ、なんだって? そうだ、目撃者の話では、女の子2人が消えたって・・・」
「そうです。それ、私と亜衣さんのことです」
「じゃ、じゃあ、君が帰って来たというコトは、亜衣も!」
いえ、亜衣さんは帰ってきていません。それどころか、向こうで惨殺されてしまった。でも、これ言っていいのだろうか…。
先生の背後の方からこの話を聞いていたヘレーナに視線を向けると、ヘレーナは首を横に振ります。このヘレーナの行動は、先生には見えていません。
・・・そうですよね。死んでしまった、ましてや、殺されたなんて、絶対言わない方が良い。
「亜衣さんは、異世界で病気の人を治しています。異世界転移することで、病気治癒の力を得たのです。癒しの聖女様と崇められているのですよ」
「癒しの聖女・・・。じゃあ、戻ってきてはいないのかい?」
「そうです。私と一緒にいる2人は異世界人です。私が戻ってこられたのは、ホントに偶然。彼女たちがこっちに来てしまったのも、偶然。ですから、亜衣さんもこっちへ帰ってこられるかどうかは分かりません」
「そ、そうなんだ・・・。でも、むこうで立派に活躍しているんだね。それなら、よかった。安心したよ」
ゴメンナサイ。私、大嘘つきました。
全部が全部嘘ではないけれど、私が帰って来たのは偶然ではありません。亜衣さんも、もう死んじゃっています。
でも、仕方ないですよね・・・。
「異世界で聖女様になっているのか・・・」
先生の遠くを見つめる、寂しそうでもあり嬉しそうでもある目…。
ううう、心が痛いよ・・・。
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