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残虐非道なる異世界生活

16 聖女の死

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 大変です。事件です!! 
 私と一緒に召喚された(・・・というか、私がオマケなんだけど)深川亜衣さん。亡くなったんですって!!

 彼女、少し前から体調を崩して寝込んでいたみたい。
 自分で自分の治癒ってのは、難しいそうです。
 でも、彼女には聖王女チェリル様が付いている。だから、すぐ治るだろうと思ったら、そうでもないんですよ。治癒魔法が効かない場合があるのです。
 怪我はOK。腫瘍も治る。毒の場合は、吐かせて治療すれば大丈夫。しかし、風邪のような、人に伝染する病気は効きにくいんですって。一時的に良くなっても、またぶりかえしてしまう…。
 それ多分、症状の改善は出来ても、病原菌の排除までは出来ないのでしょうね。

 亜衣さんも、良くなって…悪化して…を繰り返していたんだそう。
 それでも徐々に症状は軽くなってきていて、もうすぐ完治できそうというところまで来ていた。で、皆安心していたのに…。
 朝、侍女が彼女の部屋に行くと、胸に剣を突き刺されて血みどろ状態の彼女の遺体が…。
 心臓を貫かれ、殺されてしまったのです。
 いったい誰がそんなヒドイことを!!

 そうそう、彼女の余命は68年だったはず。ですけど、病気や大怪我を負えば、それより早く死んでしまうことも有るんですって。
 つまり、鑑定した時点での余命でしかなく、絶対のモノでは無いとか…。
 それじゃあ、私も?
 いや、私の体は特別仕様。ほぼ100%、あと489年生きますね…。私の方こそ、早く死にたいくらいですよ。

 だけどですね、困ったことになりました。
 またまた治癒魔法を使える人がチェリル様だけになってしまったではないですか。
 これ、どうするんですか?!


 ところで、この亜衣さんの死を教えてくれたのは、神の手の医師フロア先生です。今日は旦那様と一緒に私のところへ。また解剖されるのだと思ったら、ちょっと違いました。
 旦那様は子爵様で、医者でもあります。内科医なんだそうですが、痛みを和らげる魔法が使えるとか。彼の治療は、苦痛を取り除き、薬草や滋養のある物を食べさせて養生させるという方法。
 …この世界、医学はあまり発達していないみたい。
 外科医のフロア先生にしても、戦闘での傷や切れた手足を繋ぐのが専門で、内臓手術は殆ど経験ないそうです。内臓にダメージくらうと、かなりの確率でそこから腐って死んでしまうんですって。
 だから、私の内臓、特に消化器系を詳しく調べたがるんだ…。まあ、そんなことは、いいや。
 それで、お二人から私に訊きたいことがあるんですって・・・。

 亡くなった亜衣さん、前の世界のご実家はお医者さん(=お父様が開業医で、お母様も看護師)だったみたい。治癒魔法保持者というのは天職みたいなものだったのですね…。
 亜衣さんの治療は聖王女チェリル様が当たっていましたが、そのチェリル様にはあまり医学知識はありません。手を翳して念じるだけで治るんですからね。知識もへったくれも無いのです。
 亜衣さんは、自分の病気は細菌かウイルスの感染症だと言っていたみたい。チェリル様には意味が分かりませんでしたが、治癒魔法で取り敢えずは回復できる。すぐにまたぶり返しますが、再度回復させる。それを何度も繰り返すと、徐々にですが、良くなってくるという、いつもの治療…。
 亜衣さんは、それを『メンエキ』が出来て治るのだと言っていた…。その意味が分かれば、教えて欲しいと…。
 私も同じ世界の人間だから、もし分かればということだったのです。

 私はシガナイ女子高生。ですが、それくらいのことは分かりますよ。病気を引き起こすウイルスや細菌について、それに打ち勝つ免疫機能についてお話ししました。

「そうなんですか。では、その免疫機能を担っているのは体の中のどの臓器なのですか?
 できれば今日はあなたの体で、その臓器について詳しく調べさせて欲しいと思って来たのです。この世界の医学の発展のために、是非お願いします!」

 フロア先生、そうおっしゃいますが…。

「え、ええっと、それは見るのは無理だと思いますよ。免疫機能を担っているのは臓器じゃなくて、確か、血液の中の白血球という、とっても小さな細胞です。
 だって、相手も小さいですからね。ですので、特殊な器具でないと見えないのです」

「と、特赦な器具?それは、作れませんか?」

「い、いや、私には、そんなの無理ですよ」

「そうですか、無理ですか…。小さくて見えないモノが病気を引き起こし、それをまた血液の中の小さくて見えないモノが退治しているということなんですね」

「そうですね。亜衣さんの場合、違う世界から来て、今までに遭ったことのないウイルスに犯されてしまったんでしょうね。この世界のヒトは平気でも、全く免疫がない亜衣さんにとっては重症化してしまう物だった。でも王女様の治癒魔法を繰り返し受け、徐々に免疫が出来て快方に向かっていたということでしょうね」

 召喚者は早死にしてしまうのが多いというのは、おそらく、これが原因だったのでしょう。

「なるほど、そういうことなのですか。いや、勉強になりました。ありがとう」

 そう言って、夫妻は帰ってゆきました。
 お~、やったよ。今日は体を切られずに済みました。超ラッキー♡



 その日の夕食後の時間です。

「柚奈、少し私もお伺いしたいことがありますが、良いですか?」

 あら、珍しい。ヘレーナからの質問です。まあ、私に答えられることならば…お答えしますよ。

「昼間、あなたが言っていたウイルスとか細菌とかいうモノ。犯されないようにする方法は無いのですか?」

 ヘレーナも、昼間、いつものように同席していたのです。変なことに興味持ちましたね・・・。

「え~っと…。簡単に言えば、それを体に入れなければ大丈夫よね。病原体の種類にもよるけど、入念な手洗いとウガイが効果的みたいですよ。
 ああ、そう言えば、私たち召喚者って、こっちについたらすぐに裸にされて、身に着けていた物は焼却処分され、体を隅々まで綺麗に洗われるよね。あれって、こっちの世界に私たちの世界のウイルスなんかを持ち込ませない効果があるかもしれないね」

「なるほど。お清めということで、意味も分からず慣習でしてきたことも、実は大きな意味があったということですか…。
 ところで、あなたの世界ではウイルスに犯された場合は、どういう風に治療するのですか?」

「ああ、そうね。薬があるから別に慌てることは無いのかな。ワクチンって言って、先に体に注射してウイルスにかからなくする薬もあるよ」

「そうなんですか。あなたのいた世界は医学が進んでいるのですね」

「そうね。その分、治癒魔法なんて、万能なのはないけどね…」

「そうですか・・・」

 ヘレーナ、何か考え込んでいるみたい。どうしたんだろう…。
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