月の影に隠れしモノは

しんいち

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襲撃

139 鬼狩り!2

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 何が起きたのか、薄れそうな意識の中でも、テルには状況が分かった。

(もうダメだ。姉者あねじゃは、自らの死の瞬間まで金縛り状態から抜け出せない。自分の命も、もうすぐ尽きる。終わった……)

 だが、ヒトの行動は予想外だった。

 ヒトの男が来た。
 首をねられるかと思っていたのに…。
 駆け付けてきたヒトは、持ってきていたテルの手首を取り出し、つないだ…。
 痛みが消えて行く。
 手首が戻ってゆく。動かせる…。
 右肩の傷も、消えて行く…。

(治してくれているのか……。なぜだ!)

 傷は治ったが、出血がひどかったせいか、思うように動けない。よろつきながら、テルは目の前の慎也を見上げた。

「な、なぜ治す。我らは、お前たちの仲間をさらったのだぞ」

「やりたくなかったけど、仕方なくだろ? いったい、何がどうなっているのか、説明してくれないかな?」

「今更、せん無き事。我は負けた。姉者あねじゃは、自らの術で、一生あのままだ。もう、お終いなんだ!」

 テルの両目から涙がこぼれた。

「もう一生あのままって、じゃあ、あの人は、なぜ動けるようになっているのでしょう?」

 慎也が指差した、その先には…。
 月に照らされ、浮遊しながら近づいてくる祥子。

 ……祥子はアマの金縛りに掛かって動けなくなっていたはずなのに……

「お、おお~! なぜだ! 術者本人が解除するか、術者が死ぬ以外に解けぬはず! 方法があるなら、頼む、姉者あねじゃの術を解いてくれ。姉者を助けてくれ!」

 テルは驚愕し、慎也に取りすがった。

 自らの術で四つん這いのまま動けなくなったアマにも、この会話は聞こえている。そして、アマの金縛りを破った祥子も見えていた。
 今、アマの首には、恵美の刀が当てられ、その刃の冷たさを感じている。
 まだ斬られてはいないが、即座に引き斬ることが可能な状態での一時停止。恵美が刀をズイッと引けば、自分の首は血を吹き乍らゴロリと落ちる。さらに、自分は自分の金縛りでもう動くことが出来ず、一切の抵抗は出来ない。詰みなのだ。

 …アマは声を出さずに泣いた。負けた悔しさに…。

 負けを認め、許しをうのは我慢ならない。術を解いて欲しいと頼むのは、彼女のプライドが許さない。いっそ、このまま引き斬って欲しい。この首を斬り落として欲しい。
 しかし、そうなれば村は…。
 村を守らなければ…。
 その思いで、自尊心を抑え込んだ。

「た、頼む。助けてくれ…」

 屈辱に耐えながら、小声で請願した。

「仕方ないわね~。でも、まず、事情を話すのが先よ~」

 恵美は刀をアマの首から外し、さやに納めた。アマに話させるのは難しそうと判断し、テルに視線でうながす。
 テルはうなずいた。
 そして、大昔からの村と鬼の歴史、五年前からの村に起こったこと、カル・タエ・クイのこと、クイの陰謀と、それに操られた今回の騒動を、すべて詳しく語った。
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