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襲撃
136 二鬼、襲来!1
しおりを挟む「来た!」
恵美の声に、皆、緊張を新たにする。
既に武装完了して、準備万端となっていた。これから始まるのは、前回杏奈が攫われた時とは異なる事になる予感…。恐らく、戦闘となるだろう。
言葉を発した恵美の視線の先は、窓の外、庭…。
前に襲来した鬼の男女が、月に照らされた庭にいる。そして、刀を抜いている。やはり、明らかにやり合う気だ。
慎也たちも、すぐに外へ出る。
出て早々、祥子は弓に矢をつがえた。十分距離はある。この距離なら金縛りになることも無いはずだと、アマをしっかり見据え、狙いを定めて…。
しかし、アマの目が赤く光ると同時に、それを見ていた祥子の動きが止まった。
…祥子の目算は甘かったのだ。
アマの金縛りは、鬼たちの中でも特に強力だ。かなり離れたところからでも掛けることが出来る。その上、アマのみの力として、相手の異能の力までも封じることが出来た。
前回の時にアマが恵美に取った距離は、金縛りが届かなくなる距離の半分でしかない。そうそう簡単に、能力の限界を曝け出してしまうような愚かなマネはしていなかった。
…祥子は手足が動かなくなり、念力を行使しようにも、それも使えなくなった…
テルは、まず動けなくなった祥子を血祭りに上げるべく、迫る。
が、その祥子の前に、三人の美少女が飛び出した。手にはそれぞれ、短めの刀を持っている。
神子である、娘たちだ。
娘たちは恵美から剣術も習っている。すでに、かなりの腕前となっていた。
祥子の子の「里」が中央。舞衣の子「愛」が向かって右。沙織の子「幸」が左。それぞれ抜刀し、刀身に月光を反射させて構えている。
鬼にとって神子は神聖な存在。神子を傷つけることは、断じて許されない、絶対のタブーだ。
テルは一旦止まり、目を赤く光らせた。邪魔をしようとする神子を金縛りにするため…。
娘たちは、テルの赤く光る目を、じっと見据えていた。
(これで、神子様の動きは封じた)
テルは刀を構え直し、祥子を斬るべく、進もうとして愕然とした。
「な、なぜ動ける!」
娘たちは金縛りに掛かっていなかった。
アマは、祥子を金縛りにしてすぐ、恵美に対峙した。相手の恵美も抜刀している。
「なぜ? 鏡は返すつもりだったのに!」
アマは恵美の問いかけに答えず、冷たい表情で恵美を見て、赤く目を光らせた。
が…。刀を構えた恵美の動きが止まらない。
恵美は目を閉じていた。目を合わせなければ、金縛りには掛からないのだ。
(そのままでは、戦えまい)
アマは、即座に走り寄り、上段から鋭く斬り込む。
その刀を、恵美は目を閉じたままで受け止めた。
キン!という鋭い金属音の刹那、素早く返した恵美の刀がアマを掠め、切れた髪の毛が舞う。
まさかの受けと反撃に驚愕しながらも、すんでのところで躱し、アマは後ろへ飛び下がった。
…恵美は千里眼を使っていた。よって目を閉じたままでも戦うことが出来る。
おまけに、恵美には二人の少女が加勢してきた。杏奈の子「歌」と、環奈の子「咲」である。
恵美の子「月」は、戦闘力の無い慎也・舞衣・沙織の前に立って、三人を守っていた。少女たちは皆、刀を構えている…。
アマは異能の能力は高いが、剣術は得意な方ではない。とは言っても、それは、鬼の中では、の話。ヒトが相手であれば、別である。恵美より上、悪くて同程度くらいの技量であるつもりでいた。
だが、先ほどの恵美の刀捌き…。どうも、それは甘かったようだ。
その上さらに加勢が入っては、あきらかに不利。おまけに、その加勢は、傷つけることを許されない神子たちなのだ。
恵美は目を閉じたままだが、神子たちはしっかりと目を開き、アマをキッと睨みつけている。
当然の如く、加勢に入った神子の自由を奪おうと、アマは目を赤く光らせた。
しかし…。
やはり、こちらも金縛りに掛からない…。
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