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襲撃
120 クイの策謀1
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月影村では、アマとテルが人界に行った直後に、事件が起きていた。
村長と大婆がいる神社御殿に、一人の体格の良い男鬼が談判に来たのだ。
殺されたカルとタエの兄、クイである。
鬼の世界では、物事を合議による多数決で決めることになっていた。
但し、合議に加わる資格は、先代神子の子からというのが定めである。現在、全ての神子が没しているが、正式に「先代」となるのは新神子が就任してから。よって、それまでは、その子らには資格が与えられない。
疫病の為、年寄が死に絶え、現在資格があるのは村長・大婆を含めて七名。通常は村長・大婆は決に加わらないので、実質五名の多数決で決まるということになる。
しかし、今は非常時である。「全村人十六人の合議とすべきだ」というのが、クイの主張であった。
これ自体は、正論といえば正論だ。自分を含めた若鬼七名分の嘆願書も持っていた。加わっていない若鬼は、神鏡奪還に行っているアマとテルのみである。
クイは、現在合議の資格を持つ五名を、勝手に神社に呼びつけていた。
五人は訳も分からず神社に来て、いきなりこの要求の決を求められた。
本来、合議の招集は村長が行う。慣例を無視したクーデターのような行為だが、アマとテルを除けば、能力の面でも腕力の面でもクイに敵う者は、もういない。皆、疫病で死に絶えてしまったのだ。
…クイは、自分より強いアマとテル不在の時を狙って仕掛けてきた。
妹たちの仇といって、人界に押し入るつもりかもしれない。
しかし、カルとタエも、かなりの実力者だった。その二人が、いとも容易く討たれている。以前のような、全滅覚悟で打って出るべしという無茶な意見の若者は、いなくなっているようだ。
であれば、クイ一人が無謀な主張をしても、通らない。
アマとテルも、直に帰ってくる。…
五名の合議と決の結果、以後、新しい神子が就任するまでの暫定措置として、村人全員の合議とすることが決まってしまった。
クイは、さらに、もう一つ要求した。これは、大婆に対してだ。人界へ行っているアマとテルの様子を見せろというのだ。
カルとタエの事件の為に、二人は人界に行っている。兄の自分にも情報を公開せよというのである。
クイ自身の実力と、駆け付けてきた若者たちの援護の合唱に、やむなく大婆はクイのみに許可し、押し入ってきている若者たちを下がらせた。
宝珠に映ったのは、恵美が神鏡と刀を置くところ。そして、テルが睨みつけ方向にいる、弓矢を拾いたそうにしている祥子。
妹たちは、矢で首を射られたという…。そして、妹たちの刀を持っていた女…。
(この二人が仇だ)
仇の顔を、しっかりと覚えた。
それから、捕えている娘と、もう一人、同じ顔の娘がいる。
…双子だ。
あの娘は確か、神子の巫女のはず。
…双子の、神子の巫女!
(…これは使える)
クイはニンマリと笑った。そして、この日はそれ以上の要求はせず、外で待っていた若者たちを引き連れて帰っていった。
クイと擦れ違いで戻ってきたアマとテルは、神鏡を村長に渡すと同時に、クイによる半クーデターのことを聞いた。
憤るも、もう遅い。神前での合議の結果は、同じく神前での合議でしか覆せないのだ。
明らかにクイは何か企んでいる。アマとテルは警戒感を強めた。
村長と大婆がいる神社御殿に、一人の体格の良い男鬼が談判に来たのだ。
殺されたカルとタエの兄、クイである。
鬼の世界では、物事を合議による多数決で決めることになっていた。
但し、合議に加わる資格は、先代神子の子からというのが定めである。現在、全ての神子が没しているが、正式に「先代」となるのは新神子が就任してから。よって、それまでは、その子らには資格が与えられない。
疫病の為、年寄が死に絶え、現在資格があるのは村長・大婆を含めて七名。通常は村長・大婆は決に加わらないので、実質五名の多数決で決まるということになる。
しかし、今は非常時である。「全村人十六人の合議とすべきだ」というのが、クイの主張であった。
これ自体は、正論といえば正論だ。自分を含めた若鬼七名分の嘆願書も持っていた。加わっていない若鬼は、神鏡奪還に行っているアマとテルのみである。
クイは、現在合議の資格を持つ五名を、勝手に神社に呼びつけていた。
五人は訳も分からず神社に来て、いきなりこの要求の決を求められた。
本来、合議の招集は村長が行う。慣例を無視したクーデターのような行為だが、アマとテルを除けば、能力の面でも腕力の面でもクイに敵う者は、もういない。皆、疫病で死に絶えてしまったのだ。
…クイは、自分より強いアマとテル不在の時を狙って仕掛けてきた。
妹たちの仇といって、人界に押し入るつもりかもしれない。
しかし、カルとタエも、かなりの実力者だった。その二人が、いとも容易く討たれている。以前のような、全滅覚悟で打って出るべしという無茶な意見の若者は、いなくなっているようだ。
であれば、クイ一人が無謀な主張をしても、通らない。
アマとテルも、直に帰ってくる。…
五名の合議と決の結果、以後、新しい神子が就任するまでの暫定措置として、村人全員の合議とすることが決まってしまった。
クイは、さらに、もう一つ要求した。これは、大婆に対してだ。人界へ行っているアマとテルの様子を見せろというのだ。
カルとタエの事件の為に、二人は人界に行っている。兄の自分にも情報を公開せよというのである。
クイ自身の実力と、駆け付けてきた若者たちの援護の合唱に、やむなく大婆はクイのみに許可し、押し入ってきている若者たちを下がらせた。
宝珠に映ったのは、恵美が神鏡と刀を置くところ。そして、テルが睨みつけ方向にいる、弓矢を拾いたそうにしている祥子。
妹たちは、矢で首を射られたという…。そして、妹たちの刀を持っていた女…。
(この二人が仇だ)
仇の顔を、しっかりと覚えた。
それから、捕えている娘と、もう一人、同じ顔の娘がいる。
…双子だ。
あの娘は確か、神子の巫女のはず。
…双子の、神子の巫女!
(…これは使える)
クイはニンマリと笑った。そして、この日はそれ以上の要求はせず、外で待っていた若者たちを引き連れて帰っていった。
クイと擦れ違いで戻ってきたアマとテルは、神鏡を村長に渡すと同時に、クイによる半クーデターのことを聞いた。
憤るも、もう遅い。神前での合議の結果は、同じく神前での合議でしか覆せないのだ。
明らかにクイは何か企んでいる。アマとテルは警戒感を強めた。
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