月の影に隠れしモノは

しんいち

文字の大きさ
上 下
116 / 167
襲撃

116 養老山事件の後始末1

しおりを挟む
 五月七日、養老山事件の二日後。

 シトシト雨が降る夕刻、慎也宅に亜希子と徹が来た。鬼の解剖結果の報告の為だ。
 事前に連絡をもらっていたので、二人の分の夕食も用意されている。
 この場には、美雪と早紀も呼ばれた。もう隠すことは全く無い、完全な仲間扱いだ。
 夕食は、話の後でということで、子供たちは別室に待たせた。すでに小学校中学年並みくらいに成長しているので、子供たちだけで放っておいても大丈夫である。
 報告会では、まず、徹と亜希子が、深々と頭を下げた。

「この度は、助けて頂き、有難うございました。皆様は、私たちの命の恩人です。皆様の為でしたら私たち夫婦、今後、何でも致します。お力になれることございましたら、何なりとお申しつけください。本当に、有難うございました」

 徹の言葉に合わせ、亜希子も再度、深々と頭を下げた。
 その後は、亜希子が主導となった。夫婦関係と別に、仕事の関係では亜希子の方が上司だからだ。

「では、解剖の結果ですが、鬼は、角があることと、筋肉が異様に発達していること以外は人間と同じです。内臓の形状・機能も全く同じ。染色体本数も四十六で同じ。つまり、ヒトの亜種であると考えられます。当然、ヒトとの交配も可能と思われます。
 鬼の動きの異様な速さは、筋肉の発達によってのものです。ヒトの一流アスリート並み、もしくは、それを超えるくらいの筋肉発達とお考え下さい。
 あと、消化器内の内容物ですが、私たちの前に襲われたカップルの臓物が胃の中に大量に詰まっていました。ヒトよりも多くの食料を胃に溜め込めるようです。腸の中には植物系の消化物が入っていました。普段は菜食中心なのかもしれません。解剖結果としては以上です」

 皆、考え込んでしまった。

「人間の亜種か~。角さえなければ、筋肉質のお姉さん~って感じだったもんね~」

 恵美の独り言ともとれる言葉に、慎也が続ける。

「こちらからの情報だけど…。 あ、まず、こっちは神社の巫女バイトしてもらってる田中美雪さん。総代のお孫さんで、俺たちの事情はみんな知っています。それから、隣は、あの日に亜希子さんたちも会ってますね。美雪さんの親友の、山上早紀さん。彼女にも事情は話してます。それで、その早紀さんが、先日の写真を提供してくれました」

 慎也が二人を紹介すると、舞衣がプリントアウトしてアルバムに整理した写真を出して、亜希子たちに見せた。
 鬼が若いカップルを喰っている場面が、アップで鮮明に写っている。

「あれ? 撮らなかったって言ってなかった?」

「それは~、事情があるのよ~ん」

 写真を見て驚いている亜希子に、恵美がニヤニヤしながら、指で続きを見るようにうながす。
 亜希子と徹がめくってゆくと、その先には、二人のアラレもないシーンの写真が続々と…。

「アー! な、何これ!」

 亜希子が大きな声を出して、写真を見張った。

「大事な資料ではあるけど~、こんなの刑事たちに見られたくないでしょう~?
 嘘ついて隠しておいてくれた早紀ちゃんに、感謝しなさ~い!」

「み、皆さんも見ました? 嘘! 嫌だ!」

 大慌ての亜希子。旦那とのイケナイシーンをさらされてしまった…。
 徹も気まずそうにしている。

「愛の力は偉大よね~。旦那の命を守るため、鬼の前で裸になって、必死の御奉仕。泣けるわ~」

 胸の前で手を組み、少し上方を向いて大げさに語る恵美…。
 亜希子と徹は、二人そろって真っ赤になり、うつむいた。まさに、穴が有ったら入りたいという状況である。が、

「恵美さ~ん。それくらいにしないと~。こ~んなモノも、あるのよ~ん」

 舞衣は、普段の恵美の口調をまね、えてアルバムには入れずに隠しておいた数枚の写真を取りだして、亜希子と徹に渡した。

「この写真は、お二人に進呈しますね。それから、これらの画像全てのデータの入ったカードと、今お見せしているアルバムは、恵美さんに預けます。恵美さんが一番の適任者でしょ。こういうのを管理するのは。…保管するのも、利用するのもね」

 亜希子と徹は、不審げに、舞衣から受け取った写真を見た。

「うわ、こ、これは…」

 徹は写真をみて、気まずそうに目をらした。亜希子は、写真を凝視している。

「な、なによ~」
 と恵美がのぞき込むと…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...