月の影に隠れしモノは

しんいち

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襲撃

111 養老山事件 …結末…

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 恵美は、自分が斬り殺した鬼を確認していた。
 角さえなければ、見た目は人間と変わらない。年も自分とあまり変わらないように見える。
 が、物凄い力だった。
 祥子の援護が無ければ、確実に負けていた。ここに転がっているのは、自分の死体だったかもしれないのだ。そう考えると怖くなってきた。

 それに、初めて実際に斬り殺した……。
 目の前に転がっているのは、人では無い。
 でも、限りなく人に近いモノ……。
 殺した……。

 肉を切る、あの感触。
 心臓を刺し貫いた感触…。
 首を斬り落とした感触……。
 体がふるえてくる。

 そんな恵美の様子に、慎也が気付いた。
 慎也は、立ち尽くして震えている恵美に寄り添い、優しく両手で抱き締めた。

「君は、強くて優しい人だよ」

 恵美は、慎也の胸に顔を押し付けて、小声で言った。

「バカ…」

 恵美は、顔を赤くしている。
 慎也の胸にスリスリ顔をこすり付けてから、その腕をスルリと抜け出した。

「もう大丈夫~! 私は、悪戯いたずらっ子キャラの方が似合ってるでしょう~!」

 そんなことは無い。慎也はシリアス恵美も大好きだ。が、精一杯の照れ隠しと強がりを尊重してやることにした。
 恵美も、何か言われる前にと、逃げ出した。鬼の刀と短刀を回収し、さやに納めたそれらを、どこに持っていたのか布袋に入れて中身が見えないようにしばった。

「戦利品~!」

 自分のモノとして使う気でいるようである。
 首を落とした女鬼の腰に、布袋に入った円形のモノがあった。
 銅鏡である。
 恵美はそれも、回収した。

「これも、戦利品~!」

 すっかり、いつもの調子に戻っているように見える。多分、無理しているだろうが…。まあ、その無理も、いつものことかもしれない。

 現場に公安も到着する。やっとのことで、舞衣も…。結果的に、舞衣が公安の道案内をしてきた格好だ。
 公安の刑事は、早紀を抱えて空を飛んできた祥子に仰天した。が、ある程度の事情は知っている。見なかったことにして、亜希子と徹の簡単な事情聴取をした。

 早紀も同様に事情聴取される。カメラで撮影してないかと問われたが、早紀は怖くて撮れなかったとカメラを差し出した。
 画像をプレビューすると、鳥と植物の写真だけだった。
 実は、祥子が向かってきたときに記録カードを差し替えていたのだ。
 理由は、亜希子のセックスシーンが写っているから。あれを警察に見られるのは、絶対にマズイ…。



 鬼の死体は解剖調査することになる。担当は、亜希子と徹。公安からの指示だ。
 亜希子は元々、神子かんこの調査目的で送り込まれてきた医者(建前上は神子かんこが無事産まれるようにサポートする医者として)だ。鬼と神子かんこは関りがあるようであり、亜希子が担当になるのは自然のこと。夫婦とは言え、これに徹も巻き込まれることになってしまった。

 スマートフォンの着信音。早紀のモノだ。美雪からの電話である。美雪は、舞衣からの連絡で無事解決したことを知ったのだ。

『早紀、大丈夫? 怪我けがしてない? 怪我してたら、宮司さんか祥子さんに言うのよ。治してくれるから』

「え? あ、ああ、あれね。すごいよね。私は大丈夫よ」

 早紀は、慎也が恵美の胸を治療している場面を思い出した。実は、しっかり撮影もしている。しかも、連写で。
…電話は続く。

『早紀、今日、お父さんはいるの?』

 早紀の父親は仕事の関係で、ほとんど家に帰ってこない。母親は早くに亡くしていて、普段は一人暮らしなのだ。

しばらく東京で、帰ってこない…。どうしよう、私、怖い」

 こんな事件に遭遇してしまい、一人というのは怖くて当然である。

『じゃあ、私の家に泊まりに来なさいよ。宮司さんたちに乗せてってもらって、こっちに来て!』

「うん、そうさせてもらえると嬉しい。お願いします」

 美雪は舞衣にも電話して、早紀の事情を説明した。
 慎也たちは早紀も車に乗せ、途中、着替え等を取りに早紀の家に寄ってから帰宅した。
 到着した時には神社の方はすでに閉めてあり、美雪は居宅の方で、沙織や子供たちと一緒に待っていた。

「早紀~!大丈夫だった?」

 美雪は早紀を見るなり、抱き締めた。というか、本人はそのつもりだったが、身長が低く幼児体型の美雪が、抱き着いたという風にしか見えない…。
 二人は慎也たちに何度も礼を言い、手をつないで、一緒に美雪の家へ向かっていった。これも、美雪は早紀を引率しているつもりだが、はたから見ると逆にしか見えなかったのではあるが…。
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