月の影に隠れしモノは

しんいち

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襲撃

106 養老山事件 …はじまり…

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 仙界から帰ってきて三年後の、五月五日。

 子供たちの成長は順調。二歳半であるが、通常の約三倍の速度で成長して行くので、既に小学校中学年くらいの見た目になっている。
 その子供たちも交えた恒例の籾播もみまきは、昨日終わった。昨年からは亜希子夫婦が、田植えだけでなく籾播きも手伝いに来ている。(亜希子は、結婚と同時に慎也宅を出ている)
 亜希子の旦那の徹は、こういった作業が結構好きなようだった。当然、秋の大イベント「稲刈り」にも、喜んで来ていた。

 今日、亜希子夫婦は、隣町にある養老山へ薬草調査に行くということだった。これは、徹の研究の為である。
 この夫婦、結婚一年と少しになるが、まだ子供はいない。
 亜希子は姉さん女房で、すでに四十五歳。年齢的に難しそうであるが、毎日二回以上励んでいるという小ネタを、恵美が聞き出していた。
 齢に似合ぬラブラブ夫婦なのだ。


 神社の社務所受付には、美雪と舞衣が坐っていた。
 今日は比較的参拝者が少なく、二人で他愛もない話をしていた。

「お爺ちゃんに聞いたんですけど、宮司さんって、薬草のこともくわしかったですよね」

「ええ。私は長野の田舎育ちのくせに植物のことは全然だけど、うちの人は詳しいよ」

「大学に入ってから友達になった山上早紀やまがみさきって子がいるんですけど、ちょっと変わってましてね。写真が趣味で、一人で山へ行って植物やら鳥やらの写真を撮ってるんです。
 その子が物凄ものすごく薬草に詳しいんですよ。宮司さんと話が合うかも」

「へ~。一人で山にか…。うちの人も、やりそうだな。基本、一人が好きな人だから」

「そうですか~? 六人もの奥様に囲まれて賑やかなのに…」

「したくて、こうなっちゃったわけじゃないからね。ある意味、可哀そうかも。
 そういえば知り合いのお医者様夫婦が、今日、養老山に薬草調査へ行くって言っていたけど」

「あれ? その子、養老に住んでるんですよ」

「なんだ。その子に案内してもらえば、調査がはかどるかもしれないね」

「ちょっと、連絡してみよっかな?」

 美雪は更衣室からスマートフォンを持ってきて、早紀にメッセージを送信した。

 ――今、何してる? 私は神社でバイトだけど。

 すぐに返事が返ってきた。

 ――山にいる。今日は、鳥の写真撮ってます。

 ――宮司婦人の知り合いのお医者様夫婦が、今日、養老で薬草調査してるって!

 ――あ~、たぶん、さっきの人だ。二人でイチャイチャしてた。

 早紀からの返信を見せてもらった舞衣は、苦笑した。
「なにやってるのよ。あの二人は…」

 ――案内してあげなよ。

 ――めんどくさいから、ヤダ~! 向こうから聞いてきたら教えてあげる。

 ――それでいいよ。よろしく。

「彼女、人見知りだから、自分からは声かけないでしょうね。学校でも、いつも一人だから」

「そうなの? じゃあ、美雪ちゃんから声かけたんだね」

「はい。話してみると結構面白い子で、それで仲良くなったんです。
 ただ、マニアックですので、カメラとか、薬草とかの話になっちゃうと、チンプンカンプンなんですけどね」

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