月の影に隠れしモノは

しんいち

文字の大きさ
上 下
87 / 167
帰還、そして出産

87 伊勢名物1

しおりを挟む
 昼食は、祥子リクエストの伊勢うどん。それに、やはり伊勢名物の手捏てこね寿司の、セットの予定。
 普通に店に入ると、騒ぎになるのは目に見えていたので、先に沙織が店を貸し切り状態にしていた。
 もちろん、公安からの口添えで可能になったこと。権力の力、恐るべし…。あ、いや、それなりの迷惑料も支払っているのであって、特段問題になることも無いか…。

 沙織からの電話で場所をき、指定の店に入った。
 警備関係者も、ここで昼食。
 奇異の目を向けられるのを気にしなくてよいのは有難い。

「ところで、祥子さんは初めての伊勢だけど、みんなは、どうなの?」

 慎也の問いに、まず舞衣が興奮気味に答える。

「私も初めて!すごかったよね。さっきの!」

「いや、あれは、特別でしょうに! あんなの、普段じゃ、絶対ありませんからね! で、私たちは、今回が二度目です」

 沙織が答えた。

「私は何回かあるよ~。家、神社だし~」

 恵美の答えに真奈美もうなずいている。

「ということは、舞衣さんは、伊勢うどんも初めてなわけだ」

「そうですよ。でも、うどんでしょ? 何か違うの?」

 舞衣以外の、みんなが、ニヤッと笑った。
 悪戯心いたずらごころが湧いてくる。
 祥子も食べるのは初めてだが、どういうものか知っている。
 標的は舞衣だ。

「うどんの概念がひっくり返るわよ~」

 ニヤニヤしながら言う恵美に、皆、うなずいて同意する。
 すぐに『うどん』が運ばれてきて、舞衣の前に置かれた。

「な、ナニコレ! 太いし、具は葱だけ? おつゆは?」

 皆の前にも運ばれてくる。

「正妻殿。つゆは、あるぞよ。この下じゃ」

 祥子が箸で麺を少しどけると、麺の下に真っ黒のドロッとした黒い液体が溜まっていた。
 見せられた舞衣は絶句した。

(うっ、どうやって食べるのこれ? こんな濃いつゆ、からくないの?)

 舞衣の、言葉にならない疑問を察知して、
「ほれ、こうして、混ぜて食べるということじゃぞ。お先に失礼」

 祥子が、うどんを混ぜてつゆ(というか、タレ)をからめ、一啜ひとすすりする。

「お~う、美味い!」

 祥子を見て、舞衣も、うどんを混ぜる。皆に注目されて食べにくそうにしながら、一啜りした。

(…う、軟らかい…。ブヨブヨで腰が無い…)
「こ、これうどんですか? うどんの命、腰がないんですけど…」

「これが伊勢うどんだよ。日本一、腰の無いうどん。昔、伊勢参りの人に、すぐ出せるように茹でて用意していたんだって。温めてタレをかけるだけで、すぐ出せる。おまけに軟らかくて、長旅に疲れた人の胃にも優しい」

 舞衣の定番反応に満足し、慎也が説明した。

「うどんとは認めたくないけど…。これはこれで美味しいかも」

 舞衣も、まあ、気に入ったようだ。もちろん、祥子も。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

処理中です...