月の影に隠れしモノは

しんいち

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帰還、そして出産

72 誕生会

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 座敷の机に、祥子の作った料理が並べられた。
 仙界にいた頃は、使用できる食材に限りがあった。こちらの多彩な食材や調味料も使いこなせるようになってきて、彼女の料理の腕は更に上がってきている。盛り付けも華やかだ。

「うわー、す、すごい…。これみんな祥子さんが作ったんですか?」

 美月は、机の上の料理を見渡す。

「いや。誕生祝いにはケーキとやらが必要とのことじゃったが、ワラワは作ったことがないのでの。沙織に任せた」

「えっ。このケーキ、沙織さんの手作り? すごいな…」

 慎也は、意外そうに沙織を見た。

「私だって料理出来ますよ! 祥子さんにはかなわないですけどね。特に、お菓子作りは得意です」

「そうだったんだ…。でも、急だったのに、生クリーム、よく有ったわね。買い物行く時間無かったでしょ?」

 舞衣も、意外そうにいた。

「あ~、それは、祥子さんが洋風料理を教えて欲しいって言ってたから、買ってあったんです」

 次々続く賛辞に、祥子と沙織は気分が良い。早速、机を囲み、美月の誕生会兼歓迎会が開始された。
 皆、妊娠中のため、アルコールが無いのは残念だが、祥子の料理は、やはり、とてつもなく美味い。

「いや~、これはすごいです。プロ並み、いやそれ以上ですよ…。舞衣さん、良かったですね。私、舞衣さんの結婚相手は、かわいそうだなって思っていたんですよ」

「うん? 可哀そう?」

 美月の発した言葉に、沙織が怪訝けげんな顔で問い返した。

「だって、舞衣さん、料理、超ヘタクソですから……」

 舞衣は丁度、口いっぱいに頬張ったところ…。それを、思わず吹き出しそうになった。せっかく内緒にしていたのに、美月によってあっさりバラされてしまった…。
 すぐに口の中のモノを飲み込めず、目を白黒させている。

「野菜切らせても大きさバラバラ、リンゴの皮も上手く剥けないし…。刃物を使うのが下手なのよね…。
 それから、クッキー作ったときは砂糖と塩を間違えて、激マズ。極め付けは、味噌汁に隠し味だなんて言ってマヨネーズ入れちゃったり…」

「あー! 美月ストップ! もうやめて!」

 ようやく口の中の物を飲み込んで、美月を黙らせたが、時すでに遅し。恵美を筆頭に、杏奈・環奈・沙織が珍獣でも見るような目で舞衣を見ている。
 慎也も意外気だ。

「ひえ~。そんな目で見ないで~」

「正妻なのに~、祥子さんに任せて、ま~ったく料理しない~って思ったら、そういうことか~」

 舞衣は言葉の主、恵美を軽くにらんだ。

「悪い? 私の激マズ料理食べるより、美味しい祥子さんの料理の方が良いでしょ!
 得意な分野をそれぞれ受け持って、協力してやっていけば良いんです!」

「じゃあ、舞衣さんの受け持ち分野は?」

 美月の何気ない一言に、舞衣は固まった。

(わ、私の受け持ち……?)
 祥子は料理。
 恵美は何だかんだ言っても上手く意見を取りまとめてゆく進行役。さらに沙織姉妹の護衛役だ。
 沙織は西洋料理を祥子に教えているというし、料理以外の家事も担当している。
 杏奈・環奈は、まだ中学生。
 自分の役割は…、何?

 ・・・・。

「舞衣さん。何、考えこんでるの? 決まってるじゃないか。こんな個性的な五人を、温かく包んで、まとめているのが舞衣さんだよ。これは他の誰にも出来ないんだからね。
 まあ、例えるなら、ウチの御祭神の天照大御神みたいな存在かな。すべてを温かく照らし出し、活躍させる」

 慎也が、フォローを入れた。
 個性的と言えば聞こえが良いが、実際のところ、一癖も二癖もあるという表現の方がしっくりくるメンバーだ。しかし、慎也は、その表現は避けておいた。そんなことを口にしようものなら、後が怖すぎる。

「おおう、大きく出たな。しかし、まさにその通りじゃ。
 とすると、ワラワは天照大神の食事係、豊受姫か…」

「そうだね~。舞衣さんじゃなかったら~、私は絶対正妻の座を奪いに出ちゃうもんね~」

 皆からの温かい笑顔に、舞衣も照れながら笑った。
(このみんなと一緒で良かった)と、本心から思った。
 妾多数という異常状態であっても、このメンバーならば不満は無いし、何より楽しい。前に居たアイドルグループとは正反対なのだ。


「あ、あの~、そんな中に私も入っちゃって良いんでしょうか…。
 私、何も出来ませんし……」

 この温かい様子を見渡し、美月が、きまり悪そうに尋ねた。

「何を言って居る。其方そなたは正妻殿の為に大きな働きをした。
 そのような者が仲間になるのに、異があろうはずない。胸を張れ」

「はい!よろしくお願いします」

 祥子の言葉で、美月は元気に頭を下げたのだった。
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