月の影に隠れしモノは

しんいち

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帰還、そして出産

65 異能力1

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 翌朝、五月二十三日。

 いつも朝早い慎也が、まだ起きてこない…。

 今日の早起き一番手は祥子。すぐ朝食の準備を始めた。
 二番手は恵美だ。しかし、股間を押えて、変な歩き方をしている。若い女子としては、あまりに情けない姿……。

「おはよう。昨日は気持ち良かったろう」

「冗談じゃありませんよう~。あれはひどい。暴力です~。
 気持ち良過ぎちゃって、それを遥に通り越してます~。
 真剣に殺される~と思いました~」

 祥子の笑顔での声に、恵美は口を尖らせて答えた。
 昨日はあんなに恥ずかしがっていたのに、もう、そんな素振りは無い。
 彼女は、割り切るのが早い。見られてしまったからには、もういいやと、即、気持ちを切り替えられるのが恵美だ。

「ホ、ホ、ホ。まあの。ワラワも初めて経験した時は驚愕したわ」

「まだジンジンして、頭がボーっとしてるんです~。私、今日はダメだ~」

 次に起きてきた杏奈と環奈が、それを聞きつけた。

「恵美姉様。無理しちゃダメですよ」
「休んでてください!」

 双子は恵美を坐らせ、祥子の指示で朝食準備を手伝う。といっても、調理は全て祥子で、茶碗や箸の配膳だ。

 沙織が次に起きてきた。すっきりした顔。満足気で、機嫌は良いようだ。


 寝床にしている広間…。
 舞衣も目を覚まし、布団から体を起こす。

(ちょっと昨日は激しかったなあ……)

 まだ隣に慎也が寝ている。いつも一番に起きるのに。…全く、動かない。

「あれ、慎也さん? し、死んでないよね…」

 心配して舞衣がのぞき込もうとした瞬間、慎也が目をパチッと開けた。

「死んでません! でも、その寸前です……」

 腰をさすりながら起き上がった。


 朝食。昨日の夕食時間は、張り詰めていた。恵美の、あの雰囲気のせいで…。
 今は皆、ゆっくり最高の味を噛み締めている。祥子の料理は絶品なのである。(昨日の昼食は、忙しくておにぎりだけだった)
 なお、恵美と慎也に関しては、昨晩の「お勤め」で疲れ切って、グッタリ状態。あまり食欲もない模様…。

 その朝食が終わり、疲れ切っている内の一人が、またまた波乱を呼びそうな発言をした。

「あ、あの~。もう一つ。祖母からの指令を忘れてました~」

 皆、(この上、まだ、なにかあるのか…)と憂鬱ゆううつな顔で恵美を見た。

「祥子さんは~、普通でない力を持ってますよね~」

 祥子に注目が集まる。

「普通でない力? これのことか?」

 祥子の体がふわりと一メートルほど空中に浮かび、そのまま停止した。

「人間は、もともと、それぞれに不思議な力を秘めていて~、長く生きていると、それが顕在化してくるそうです~。実際には、顕在化する前に寿命が尽きてしまって、出てこずに終わってしまうんですけどね~」

 なるほど、祥子が色々な超能力を使えるのは、千年という長過ぎる年月を生き、多数の能力が顕在化したということか。

「で、千歳超えの祥子さんなら~、他人の能力も引っ張り出すことができるんじゃないかってことですけど、どうです~?」

「ううん? ああ、可能じゃ。主殿の治癒の力も、そうじゃしな」

 確かに、そうであった。
 仙界で…。手を出さないという原則を崩し、祥子は慎也の治癒能力を引き出してくれた。
 その御蔭で、慎也も舞衣も命をつなぐことが出来た。
 そういう意味では、祥子は二人にとっての大恩人である。祥子が妾になることに舞衣が同意したのも、祥子を恩人と思っているから…。まあ、結果、祥子も今、人界へ戻ることが出来ている。であるから、貸し借り無しと言っても良いが…。

「それをですね~、皆やってもらえとのことでした~」

 前に祥子が話していた。秘めている能力は人それぞれ違い、人によって強弱も大きいらしい。しかし、異能が使えるようになれば、いろいろ便利なのは確実だ。やってもらって損は無い。慎也は、恵美の発言を聴きながら、そんなことを考えていた。
 ただ、その引き出し方に問題が無いわけではないが…。

「何じゃ造作もないわ。では、恵美からかの」

 祥子は浮遊したまま移動し、恵美を真っ直ぐ立たせた。
 恵美の正面に着地して立ち、顔を近づけながら目を凝視する。
 そして…。

 いきなり恵美の肩をつかみ、唇に吸い付いた!

 予想外過ぎる行動に、恵美も仰天! 目を白黒させ、体をバタつかせている。
 沙織と杏奈・環奈も仰け反っている。
 慎也と舞衣は…。

(……だよね~)

 …苦笑していた。

 チュパッと音を立て、祥子が恵美から離れる。
 恵美は崩れ落ちて項垂うなだれた。
 同性に、いきなりディープキスされて…。

「よし、恵美。これで完了じゃ。其方そなたの力は千里眼の力。なかなか大きな素質を持って居った。宝珠無しで千里を見渡せる、特異な力の持ち主じゃ。おそらく、透視もできるぞ」

「どうすれば使えるのですか~」

「どうするもない。見たいものを念じるだけじゃ」

 恵美は立ち上がり、近くにいた舞衣をじっと見る。

「な、何? 何、見てるの?」

「え~とですね~。舞衣さんの、裸~」

「は、はあ?」

「今、見えてるのは~、舞衣さんの、お腹の中身~。う、うわ~!これは、かなりグロいな~。小腸って、こんな風にグニュグニュ動いているんだ~。あ、あれ、ウンチ、いっぱい溜まってる~。便秘ですか~」

「いや、やめて!」

 舞衣はあわてて両手で腹部を隠した。
 と、同時に、恵美の隣にいた慎也が、恵美の頭をゴツンと叩く。

「いてっ!」

「やめなさい!」

 恵美は舌をペロッと出した。

「あとは慣れじゃ。どこまで使えるようになるかは、自分次第じゃ」

「はーい。あ、こっちも便秘~」

 恵美は、沙織を見て言った。
 沙織が、恵美をキッと睨んだ。と同時に恵美の頭にもう一発、慎也の拳骨が落ちた……。
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