月の影に隠れしモノは

しんいち

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帰還、そして出産

60 恵美の正体1

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 神社を閉め、皆揃って自宅での夕食を済ませた。
 舞衣は何かがあったことに気が付いていたが、後で重要な話が有ると、個別に舞衣に告げてきた恵美の真剣な雰囲気で、夕食時にも話題にしなかった。
 これは他の者も同様である。

 夕食後、七人は、朝の場所に移動した。母屋の座敷だ。
 皆が坐る。但し、朝とは違い、上座中央に慎也。慎也から見て左が舞衣、右が祥子。向かい合わせで、左から恵美、沙織、双子の順番だ。

 まず、慎也が切り出した。

「舞衣さんは、まだ聞いていないよね。これは昼間、田中さんが持ってきてくれた写真」

 あの写真を前に置いた。舞衣が見やすいように、舞衣の前へ移動させる。

「狩衣姿なのが、俺の大叔父で先代宮司の、竹橋文蔵。そして、その大叔父が、先代の『龍の祝部』だったということが判明した」

 慎也は祥子を見る。祥子はうなずいて後を続けた。

「そういうことじゃ。文蔵の周りに居るのは、たしか前回の神子かんこの巫女じゃったような気がする。何分、六十年前のことで、はっきりとは覚えておらぬがの。
 ただ、文蔵は、よく覚えておる。奴はの、上手かったのじゃ交合が…」

「はあ?」

 祥子のまさかの告白に、慎也は、思わず奇妙な声を上げてしまった。

(つまり、テクニシャンだったから覚えていたということか…)

 それほど重要なことではないだろうが、念の為、祥子に確認してしまう。

「上手く無かったら、覚えてないと?」

「当り前じゃ。二度と会えない、どうでもよい者のことなど、覚えておるか。
 あ、上手かったと言ってもな、主殿には足元にも及ばぬぞ。ワラワは、もう其方そなたからは、離れられん!」

「はあ、さようですか……」

 どちらかというと、離れて欲しいところだが、もちろん、そんなことは口に出せない。

「へ~! じゃ~あ~、祥子さんは~、慎也さんの大叔父様とも、セックスした~ってことですよね~」

 恵美は、慎也があえて考えないようにしていることを、わざわざ、御丁寧に指摘してくる。
 慎也としては、何とも複雑な気分である。祥子と大叔父が……。
 しかし、そんなことは、この際どうでもよい。気を取り直して続けた。

「それから、祥子さんのことですが、彼女は平安時代のお公家さん出身で、神社の神職のところへ嫁ぎました。そして、初夜の晩に、あの世界へ送り込まれてしまったのですが、その神社というのが、ここ、奈来早神社だったんです」

 これには、沙織と双子が驚きの表情を浮かべる。
 しかし、冷めた恵美は、また、いらぬ茶々を入れてくる。

「うわ~。慎也さんの御先祖ともセックスしてるんだ~」

 沙織と双子が、白い目で祥子を見た。
 しかし、見られている祥子は、どうした?という風で、気にしていない。

! そちらの、お話を、お聞かせ頂きたいの!」

 慎也が、余計なことばかり言う恵美に向って、強く、うながした。

「は~い、では~、おっ話ししま~す」

 いつもの、気の抜けた口調…。しかし、急に恵美の目つきが変わった。

「まず、私の家のことからお話しします」

 彼女は声のトーンを落とし、話し方も変えた。ハキハキしたものに。

「私の家は代々、尾張賀茂神社の大物忌おおものいみという職を女系で継いでいます。この神社では宮司はお飾りであって、実質、大物忌は宮司よりも上の最高職です。現在の大物忌は、私の祖母の尾賀梅子、八十二歳です。
 この話は、本当は祖母から直接すべきかもしれませんが、祖母は脚が悪く、神社から出られません。それで、私が代理でお話しするよう言付かっています」

 皆、恵美の雰囲気に飲まれ、真剣に聴いている。

「その大物忌ですが、早い話、占師のようなことをする仕事です。
 宝珠と呼ばれる水晶玉に、遠くのモノを映したりすることができる能力を有します。力の強い物忌ですと、目の前にいる人物の過去も映せたとか…」

「な、何!?」

 祥子の上げた声と共に、上座の三人が、目を見合わせた。恵美が、それを受けて不審げに三人を見渡す。

「それ、仙界で祥子さんが使ってたやつじゃない?」

「おそらく、そうじゃろ」

「あれは、どうしましたか?」

「置いてきてしもうた……」

 慎也、祥子、舞衣の会話…。

「これは驚きました。祥子さんは、同じものを仙界で使っていたのですね。あれは、我が一族の特定の女しか使えないとされていますが…。それを使えるものが、大物忌を継いでゆくことになっています。
 あ、祥子さん、苗字は確か……」

「賀茂じゃが」

「賀茂…。尾張賀茂神社の尾賀…。そうか、祥子さんも私の家も賀茂氏で、賀茂氏の女系に伝わる力ということなんですね……」

 舞衣、沙織、杏奈、環奈は理解出来ていないようだが、慎也と祥子は理解した。
 恵美の家は、賀茂氏の傍系なのだ。尾張に移住した賀茂氏。だから「尾張賀茂」を縮めて尾賀。
 宝珠を扱う力が賀茂氏の女系で伝わるのなら、祥子の方が本流。おまけに元々、平安時代の人物だ。力が強くて当然で、だから祥子は、舞衣や美月の過去も映せたのだ。
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