月の影に隠れしモノは

しんいち

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帰還、そして出産

56 離婚の危機?1

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 五月二十一日。

 慎也は、まだ暗い内に目を覚ました。
 彼は、いつも起きるのが早い。まだ寝ている二人を起こさないように、一旦自宅へ戻って朝食の準備をした。
 先に一人で朝食をすませ、神社へ戻ると祥子が起きていた。彼女も起きるのは早い方だ。舞衣を起こして二人で自宅へ行かせ、朝食を済ませてくるように言う。
 その間に、お守りを作る。戻ってきた祥子も手伝って、今日の分を確保した。

 一日分の数量を当分限定することにし、舞衣が受付に坐る時間も限定したので、昨日ほどの社務所受付の混乱は無かった。
 しかし、参拝客は確実に増えている。昨日よりも…。
 忙しいのは嬉しいこと。そうではあるが、本来慎也は騒々しいのが嫌いで、一人でいるのが好きな質である。以前の静かな「お一人様神主生活」からは、一変してしまった。
 ……疲れる。

 夜は、今日は自宅で。
 布団を並べて、慎也が真ん中。両側から求められて…。昨日と同じ展開……。
 最後は、やはり、手をつないで就寝したのだった。




 五月二十二日。

 慎也が目を覚ますと、先に祥子が起きていた。朝食準備をしている。
 ご飯をまきで炊き、味噌汁はガスで。しっかりと使い方をマスターしてしまった。流石さすがだ。

 舞衣も起きてきて、今日は三人そろっての朝食となった。

「いただきます」

 一口、味噌汁をすする。

「う、美味うまい」

「ほんと、美味おいしい」

 これは驚いた。絶品だ。祥子の料理の腕は天下一。もう、こちらの食材も器具も、使いこなせるようになってしまっている。

「う~ん。これを食べてしまうと、他の人の料理が食べられなくなってしまうな……。
 でも、舞衣さんの手料理も食べてみたいけど」

 舞衣は、何度も大きく首を振った。縦ではなく、横へ。

「とんでもありません。私には、こんなに美味しく作る自信ありません。
 料理は祥子さんに、全て、全面的に、一切、完全に、お任せします」

「よし来た。任されたぞよ」

 舞衣にとっては、前からそう考えていたこと。実は料理下手なんて知られる前に、全委任するに限る。祥子も嬉しそうにしているので、これが一番だ。


 さて、朝食を終え、慎也は先に神社へ行こうと準備していた。そこへ、外から元気な呼び声がした。

「おっはようございま~す!!」

 はかま穿いているところだった慎也に代わり、舞衣が応対に出る。

「あ、あら、あなたは」

「どうも~。舞衣さんも無事に戻れたようで~。それから入籍もなさったそうで~、おっめでとうございます~」

 この、間延びした変な話し方は、仙界で出会った、恵美である。それに、双子と、その姉もいる。…神子かんこの巫女たちだ。

「あ、ありがとう」

 なぜ一昨日入籍したことを彼女が知っているのか。舞衣は何やら不吉なモノを感じながらも、祝いの言葉には礼を言って、目を合わせたまま頭を少し下げた。

「旦那様は~、いらっしゃいますか~?」

 自分が呼ばれているのが耳に入り、袴を穿き終えた慎也が出てゆくと、四人の美少女が横一列に並んでいる。

「おっはようございます~。美少女レイプ妊娠事件被害者の会の~、四人で~す」

 いきなりの『御挨拶』で、慎也も舞衣も微妙な表情だ。
 聞き覚えのある声を聞いて、祥子も出てきた。

「向こうでも自己紹介しましたが~、改めまして~、尾賀恵美と申しま~す。
 こちらは山本姉妹。長女の沙織と~、その双子の妹、杏奈ちゃん、環奈ちゃんで~す。
 ちなみに、この三姉妹は~、現内閣総理大臣、内藤権兵衛氏のお孫さんで~す」

 ・・・・・。

「へっ?」

 一瞬固まり、舞衣は勢いよく振り返る。
 後ろで、同様に固まっている慎也、さらに祥子とも、顔を見合わせた。

「な、内藤総理の……、お孫さんっ!?」

 恵美の方に向き直って言う舞衣に、恵美が一枚の写真を手渡した。
 慎也と祥子も駆け寄り、慎也がそれを受け取る。
 写真をのぞき込む。

 ……この三姉妹が写っている。
 そして、その後ろにもう一人、見覚えのある顔。内藤総理で間違いない。
 内藤総理の手は、沙織と並んだ双子の肩を大きく抱くように添えられている。
 にこやかな笑顔。背景は首相公邸か?
 総理の両脇には中年の男性と女性。これは、山本姉妹の両親だろうか。
 まさに、家族写真といった一枚である。

 ……間違いない。苗字が違うということは、他家に嫁いだ娘の子供ということか。
 両手で口を押えて絶句している舞衣に、祥子が耳打ちした。

「何だか、ややこしいことになってきたぞよ。
 内閣総理大臣というのは、今の世の最高権力者であろう?」

 呆然ぼうぜんと立ちすくむ三人に、整列した美少女の左端、恵美から発言があった。

「あの~。立ち話もなんですから、上げてもらえます~?」

「は、はいっ! あ、では、あちらの玄関からどうぞ。あ、舞衣さんお茶」

「は、はい、只今!」

 慎也は大あわてで普段あまり使用しない母屋玄関へ案内し、こちらも普段使っていない母屋の座敷へ、丁重に通した。
 座布団を敷き、腰を低くして上座を進める。
 恵美が、下座から見て左手に。続いて、沙織、双子の順に、奥の右側へと坐ってゆく。
 舞衣は、慌ててお茶を用意し、上座の四人に恐る恐る出した。
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