月の影に隠れしモノは

しんいち

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仙界にて

48 帰りたい …覚悟…

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 五月十八日、朝。

 舞衣の隣の部屋では、早いうちから音がした。祥子が部屋の片づけをしていたのだ。
 部屋の外へ舞衣が出ると、祥子も出てきた。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

「あ、あの……。どうですか?」

「う、うむ。まだ分からんが…。戻れたら嬉しいなあ…。其方そなたも覚悟を決めよ。あの刺された時の痛みを思い出しておるのじゃろう。じゃが、もう日が無い。なんなら、ワラワが切ってやってもよ……」

 会話の途中にも拘らず、祥子の動きが止まった。そして下腹を押さえる。

「しょ、祥子様?」

「こ、これは……」

「な、何?」

「この熱い感覚、まさか…」

 そこへ、慎也も起きてきた。

「どうしました?」

「やったぞ。上手くいったようじゃ」

 祥子は、嬉々として慎也の手を取り、大きくブンブンと振る。
 しかし、その一方で、舞衣の顔が、みるみる青くなっていく。

「私一人になっちゃうの? いや! そんなの……。私には、そんなの絶対無理ー!」

 取り乱す舞衣に駆け寄り、慎也は、力強く抱きしめた。
 舞衣は、真っ青になりブルブル震えている。
 …この世界で、たった一人にされる。
 「独り」になってしまう恐怖に……。

「舞衣さん!大丈夫!独りになんかしない。一緒に帰るんだ。やり方は分かったんだ。大丈夫!」

「慎也殿よ。其方そなたが舞衣の腹を裂いてやるのじゃ。ワラワのと違い、卵は小さくて見えんからの、入念に掻き出せ」

 慎也はうなずいた。もちろん、自分でも其のつもりでいたのだ。舞衣はきっと、下腹部を刺されたのがトラウマになっている。そうでなくても、切腹だ。普通の女の子がそんなこと、自分で出来るはずがない。

(舞衣さんが嫌がれば、縛り上げてでもやる! たとえ嫌われてしまっても、構わない!)

 慎也は、決意した。

「お、おおっ! も、もうか? お二人さん。彼の世で、また会おう。慎也殿の戻るのは明日の、日の出の時刻じゃ。急げ」

 白い光に包まれ、祥子は消えていった。薄手の着物のままで……。




「慎也さん。暴れちゃうかもしれないからしばってください。痛がっても構わずやってください。私、お腹を切られるより、帰れない方が絶対嫌です」

 交合の間。慎也はうなずいて、舞衣の両手を縛り、頭の後ろで組ませ、股を開かせて両足をベッドに縛りつけた。
 嫌がれば、縛り付けてでもと思っていたのだが、まさか、舞衣の方から縛ってくれと言ってくるとは思わなかった。
 縛った結果、はたから見れば、かなり怪しい格好となってしまった。
 が、本人の申し出であるし、この二人の他に人がいないのであるから、まあ、問題は無い。

「い、いくよ」

「お願いします」

 舞衣は、目をしっかり瞑る。
 その舞衣の白い腹部に、慎也は刃物を当てた。
 そして、縦に一気に切る。

「う~っ!!」

 色白の肌に、赤い線が走り、パックリと口を開く。

「ごめん、我慢して」

「だ、大丈夫…。気にしないでやって……」

 切り開いた腹部に手を突っ込む。

「ふうう~っ!!」

 舞衣は体をのけぞらせ、力を入れる。麻酔は無いのだ。物凄い痛みであろう。
 軟らかで温かい舞衣の内臓を手探りし、慎也は、子宮らしき物を見つけた。
 そっとつかみ、ズルズルッと引き出す。
 赤紫色の小腸の下から出て来た物…。間違いない。子宮だ。すぐに、それを切り裂く…。
 内部には何も見当たらない。刃物で入念に中をこそげ落としてゆく…。
 舞衣の大切な子宮は血まみれのズタズタ状態になってしまうが、失敗は許されないのだ。あせる慎也の額から、汗が滝のように流れ落ちる……。
 舞衣は切り開かれて無残な状態になってゆく自分の子宮を見ながら、苦しそうに言った。

「ま、まだ見えもしない状態だけど…、これ中絶よね……。
 酷いよね…。身勝手で…許されない行為よね…。
 ご、ごめんね…。私の赤ちゃん……。でも、私、帰りたいの……」

 慎也は、舞衣の言葉を聞いてはいたが、特に何も答えなかった。
 確かに、今、慎也がしているのは一つの命を絶つ行為だ。舞衣は自分自身を責めているが、実際にそれを行っているのは慎也なのだ。
 しかし、もしこれをせずに舞衣が独り仙界に取り残されたら…。
 多分、彼女は絶望の余り自殺する。東の海に身を投げて、魚の餌となる道を選ぶだろう。
 
(そんなことは、絶対させない。そうなれば、二つの命が散ることになってしまう。
 犠牲になってしまう命には申し訳ないが、仕方ない。仕方がないことだ…。)
 そう思いながら…。


 慎也は、念のため卵管も割き、内部をこそげ落とした。
 さらに水で洗い流して、再度、子宮内部を刃物で掻き落とす。

 思いつく限りのことはした。
 手をかざし、子宮・卵管を再生させた。
 はみ出ていた腸と共に腹部に戻ってゆき、傷は無くなった。

「あ、有難う。もう傷みは消えてきたわ…」

「まだ駄目だよ。しっかり治してからだよ」

「うん。こうしてもらっていると、とっても気持ち良い…」

 舞衣は瞑っていた目を開けた。

「ねえ、もう大丈夫よ。なんだか力が湧いてくる感じ。早速、お願いできます? 痛くないようにもね!」

「もちろん!」

 慎也は、縛っている縄を解き、舞衣を自由にした。
 そして、二人は激しく交わった。
 …痛くないように…もしてから…。
 二回続けて……。
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