月の影に隠れしモノは

しんいち

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仙界にて

35 一人目の神子の巫女 …困惑…

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 祥子の口から語られる。
 自分の名前。千年超す年齢。ここは仙界という異空間。警察も病院も灯りも何も無い。食料も衣服も、何もかも自給自足。
 そして美月が『神子かんこの巫女』に選ばれたこと。神子かんこは世を救うという存在で、その神子かんこを美月が産まなければならない。そのために、慎也と交わって妊娠しなければならない・・・。

「は、……は?! ま、舞衣さん……。この人、気は確かなんですか?」

 美月は、祥子を指差して、舞衣に詰め寄った。

「え?」

 指を差して「気は確かか」とは、かなり失礼である。その上、続ける。

「バカじゃないですか?! 何で私があんなのとセックスして、妊娠させられなきゃいけないんです! おかしいでしょ!」

 今度は、慎也を指差して非難する。

(…おいおい、「あんなの」呼ばわりかよ)

 慎也は突っ込みたいところだが、飲み込んだ。
 祥子もバカ呼ばわりされて平然としている。まあ、慣れているのだろうが。

 舞衣は憮然ぶぜんとしている美月の両肩をしっかり持ち、真正面から見つめる。

「美月! これは冗談じゃないの!」

「ま、舞衣さん?」

「はい!」

「…マジですか?」

「マジです!」

「私、に、あの男と、しろと…」

「そうです。そうしないと帰れない!」

「私、バージンですよ」

「私も、でした」

「じゃ、じゃあ、舞衣さんも、したの?!」

「しました。何度も。今日も、これからします」

「気は確かですか?」

「確かです」

「ホントに?」

「本当に!」

「………」

 間近で見つめ合いながら簡潔な会話が進み、そして、美月は絶句した。
 まあ、こんなこと、すぐ信じる者は、いないだろう。

「舞衣よ。もう良いではないか。説明はした。交合したくなければ、それはそれで良い。帰れないだけじゃ。どうするかは自由じゃ。後は自分で考えよ」

 熱くなる舞衣と対極に、祥子は淡々として言った。
 真っ暗でひもじい夜を一晩過ごせば、誰でも帰りたくなる。今まで、皆そうであったのだ。この場で、すぐに結論を出させる必要は無い。

 そんな祥子に、舞衣はおずおずと尋ねる。

「あ、あの…。ひとつ疑問に思ってたんですけど、過去に帰れなかった人っているんですか?」

「ここに居るではないか」

 祥子は自分を指差す。

「そうじゃなくて、その…、セックス拒否したり、祥子様以外に妊娠しなかったりで……」

「ああ、おるぞ。妊娠しなかったのはワラワだけじゃがな、拒否した者は二人居った」

「その人たちは、どうなったんですか?」

「死んだ」

「えっ……」

 祥子以外の三人はギョッとして祥子を見つめた。

「ここでは、老いないのじゃないの?」

「ああ、そうじゃ。老いぬぞ。あの二人は自殺したのじゃ。どちらも、東の海に身を投げおった。魚が通ってくる抜け道から帰ろうとしたのかもしれぬ。バカな奴らじゃ。海の中の、どこにあるのか、常時開いているのかも分からん所から帰れるものか。飢えた魚のえさになってしもうた」

「さ、魚の餌……」

「魚も生きていたいのじゃ。食えるものがあれば、何でも食う。
其方そなたらも気を付けよ。うかつに海に入ると、魚に食い殺されるぞ。穴という穴から体内に入り込んできて、中から喰われてしまうのじゃ。えげつないぞ。
 …さあ、そろそろ」

 再度祥子に促され、舞衣と慎也は「交合の間」に向かうことにした。
 改めて祥子に自由にしろと言われた美月は、少しその場で考え込んでいたが、

「私も行って良いですか?」

と、舞衣を追うように駆け寄ってきた。
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